第5話 パーティー&パーティー

 ギルドとは何ぞや、という話から入ろう。

 ギルドとは中世ヨーロッパにおいて同職業者の――――という地球での話は置いといて、この世界のギルドについて話そう。

 まず、ギルドの最末端は労働者である。

 その労働者が、労働と生活の向上と安定を求めて組織化したものがギルドである。

 そしてこのギルドは職業の数だけ生まれえる存在であり、また、同じ職業でも主義主張の違いなどからも複数のギルドを生みかねる。

 そうなればギルド同士でヒエラルキーが生まれてくる。

 そして、大きな町や小さな国ではそれがそのまま権力に組み込まれる。

 しかし、閉鎖的な街で終わらなければ、他所の大手ギルドとつながりを持てるギルドが出てくる。

 そうなると権力のバランスは上下だけでは済まなくなり、複雑化を余儀なくされる。

 その中で更なる発展を望めば争いを生み、争いに勝てば種族や主義主張で分裂を繰り返す。

 そうした発展は見る者が見れば、原始的な生物の成り立ちを見ることができるだろう。

 そこに宿った者が、異世界ともつながった高位存在たる神だったとしてもおかしな話ではない。

 神は発展のためにも争いの種をはらんだまま、自らをはらむ組織図をもとに顕現して、ギルド協会そのものになったのである。

 それを知るものは政治を世界地図で見る一部のものだけだったが、その恩恵を独占しようものなら神を殺すことになるとも知って、不可侵が暗黙の了解となった。

 神もほとんど自主的に動くことはないので協会そのものは権力を持っていないようなものだ。

 だからと言って権力とは無縁というわけでは無く――――。


 ■■■


『皆さん。本日は突然の催しにもかかわらず、沢山の人が快く参加してくださったことに感謝を述べます。ギルド協会による今宵の宴会、音頭を取らせていただきますはわたくし、【工匠ギルド】が1つ【鉄火之鬼面】がギルドマスターにして、このキウラキの街の町議会の長、―――――――


「とまぁこんな感じに、がっつりと絡み合っているんだけど。」

「ナコト、お前……わざとだろ。わざとかぶせたよな。あの人の名前全く聞こえなかったぞ。」

「えぇ~、そうなのぉ~。でもいいじゃん、あんなオジサンの名前なんて。」

 小言を漏らしているが、正直なところカズマもいちいち市長の名前なんかおぼえていなかったから、言わずもがなである。

「で、その協会と権力の話が俺達にどう関係するんだ。」

「これから君たちに頼むギルドクエストは権力者が介入しない協会からのクエストのことなんだけど、あの人を見れば分るように、協会に関わる人の中には権力者が多くいる。」

 ギルドの一員としての地位が権力を手に入れたり、逆に権力を持つものがギルドを起こしたり。

「協会の存在自体が権力にくみしなくても、所属している人たちにはそれぞれの社会があり、権力があるわけだよ。」

「今の俺には全く関係ないことだろ。」

「ところが君は協会直轄の冒険者だ。」

「……目の上のたん瘤扱いされるのか。話が違うぞ。」

「むしろ鼻先で香る甘い蜜の臭い、だね。ギルドクエストはモチロン協会直轄の個人やギルドは今までいなかったわけじゃない。けど、そう言うのを用意するときに限って予想だにしてなかった災いが起きてさぁ、彼らが地位や名声そっちのけで活躍してくれちゃうもんだから、今回も何か起きるんじゃないかと思われちゃうよねぇ。」

「……俺ってどういう扱いされるわけ。」

「来る災いに備えて、神が遣わした勇者様。」

「それってめっちゃ権力者ホイホイになるんじゃないのか?」

「エグザクトリィ!あっ、安心して。ある意味ホイホイしちゃうからなんだよ。欲にかられたものがそういう時決まってひどい目に合うからさ。だからこそ、今では権力が大きいほど距離を保つもんだよ。」

 何でも今までにも勇者扱いされて語り継がれている者はそこそこいるらしい。

 そしてそういうお話には決まって欲にかられた悪者がいるものだ。

「軽率なことして世界の敵になりたくはないだろうからね、だれだって。」

「まぁ、知らないよりかはこれで権力云々に安心できるだろうけど。話はそれだけか?」

「君達にはジオング教団について調べてほしい。けどそれは秘密裏にお願い。魔女狩りみたいになったら困るしね。だから表向きのクエとして【突如発生した謎の巨大魔物の討伐と調査】ってことにしておくよ。実際に今回のイノシシはイレギュラーだったし。」

「しかし、そんなのがごろごろしてるわけじゃないんだろ。」

「うん、だからそう言うの用意する神様部署にお願いしとくね。」

「神様が倒すべきモンスターを生み出しているとか、これ、なんてゲーム。」

「一応この世界は『ウェルト・ヴィサァメン』て呼んでたりするよ。」

「魔王もいたりするのか。」

「敵対している神々の中にはそんなのが居るところもあるけど。」

「殺レ、とか言わないよな。」

「海を越えて戦争がしたいならどうぞ。」

 そんな世界大戦みたいなのは御免だと思ったカズマは酒を煽ろうとした。

「ちょっと待って、この辺りではこういう祭りごとではみんなに料理が行きわたってから音頭を取って最初の一口を食べるのが習わしだから。」

「あぁ、だからみんなあのオッサンの話を聞いていたのか。」

「破ったら、ずっと何か芸をしろって絡まれることになるよ。」

「結構嫌な罰だな。」

「おっと、そう言ってるうちに支度が終わりそうだ。君はせっかくだしあの子と楽しみなよ。」

「そうさせてもらうよ。」


「…お話は終わりましたか。」

 カンパネッロが酒と料理をもってサリーのもとへ行くと、相変わずの仏頂面なのに、まるで犬が尻尾を振ってお出迎えしてくれたように感じる。

「…何のお話だったんですか。」

「協会からの特別なお仕事。」

「…そういえばカンパネッロさんは協会の直轄なのですよね。」

「協会で聞いたんだよな。…今日登録したばかりなのにもう噂になってたりしないよね。」

「…大丈夫だとは思いますよ。…けど、今日一緒に行った人達は――――


「それでは皆様、料理が行きわたったようなので始めさせていただきたいと思います。では、新たな英雄の登場とこのキウラキの街の平和に『カンパァァァァァァァァァイィィィィィィィィィ!』。」


 話の途中だったけど乾杯の音頭が掛かり、みんなが一斉に声を上げたので最後が聞き取れなかったが、噂になってないならそれはそれでいいだろう。

 そんなことよりも空腹を癒す方が先だ。

 酒に、料理に、勢いよく食らいつく。

 それにサリーは最初は少し驚いた顔をしたがすぐに仏頂面に戻り、勢いよく酒と料理をカッ食らった。

「カッー!美味い。サリーもいける口みたいだし楽しめそうじゃん。」

「…プッファー!………ヒッ、そりゃぁ冒険者ヤッてたらぁ、これくらいやれまぁすよぉ。」

 表情を変えずに飲み食いしていたサリーだったが、そのまま表情は変えずに呂律だけおかしくなるという器用なことをする。

 酔っぱらってんのか、無いのか、分かりづらいのでちょっと怖い。

 と、それはそうと、先ほどナコトと別れる際に「ギルドクエストの詳細は送っといたから、冒険者カードで確認しといて。」と言っていたので確認してみる。

「なぁなぁ、サ―――


「よぉよぉお嬢さん方お邪魔させてもらうぜ!」

 突然カンパネッロたちのいるテーブルに大量の酒と料理が置かれ、数人の男たちが絡んできた。

「ナンパなら他所でやってもらおうか。」

 しつこいようならハルバートの先で突っついてやろうかと思っていたカンパネッロだが。

「いやいや、俺らはナンパじゃねぇから。一応そっちの魔法使いの子とは仲間なんだよ。」

 魔法使い、サリーのことだろう。

 サリーはお風呂の時と違って今は服を着ている。(当たり前の事だが、宴会場ではすでに脱ぎだしているバカもいるので一応言っておく。)

 全体が深い緑色で統一されている、肩だしのワンピースに裾の長いジャケットコートを羽織っている。足元は膝上まであるブーツを履いていて、頭には鍔の広いとんがり帽子。脇には木製のねじれた杖があり、どう見ても魔法使いである。

「…カンパネッロさぁん、しょうかぁいします、こちらの方、ヒック、…ガタガタはぁ~、私がぁ今お世話に~なはってりゅ~ギルドの人で…ひゅぅ~。」

「はじめまして、ガタガタさん。カンパネッロって言います。」

「ガタガタちゃうわい。俺は「サガの風」でチームリーダやってるタイケンってもんだ。」

「「サガの風」?」

「あぁ、嬢ちゃんは新人やったな。それなら知らんかもしれんが「サガの風」はこのサガ伯爵領のフリーランスギルドだ。」

「フリーランスギルド?」

「冒険者の中には落ち着きのないやつも多いだろ、1か所にとどまらない奴が旅先で仮の宿にするギルドがフリーランスギルドだ。」

「あぁ、よそ者対策ですか。」

「辛辣やなぁ。…流石は協会直轄なだけはあるなぁ。」

「………それが目障りで喧嘩を売ってるんですか?いいだろう、その喧嘩買った―――

 カンパネッロが腕まくりをして席を立とうとしたら、

「まてまてまた、なんでそんな喧嘩腰なんだ。俺等は昼間にアンタの救援に向かったもんだよ。」

 見憶えないか。そう聞かれてようやく昼にイノシシを運んでくれた人たちだと気が付いた。

「すみません。お世話になった方々とは気が付かず。」

「いやいや、こっちだってちゃんと自己紹介をしてないし、一方的に嬢ちゃんのことを知っていただけだからな。」

「ギルド協会で?」

「あぁ、調べさせてもらった。流石にあんなものを見せられたら気になるんでね。」

 そう言いながらタイケンは視線を向けた。

 その先には、カンパネッロが討伐した3つ首のイノシシの頭が飾られており、今回の祭りの目玉となっている。

「俺等はスカウトが目的だったんだが、協会直属ともなると正式には引き抜きできないなぁ。って思っていたら、誰かさんが抜け駆けしてたもんでね。」

 2人してサリーを見てみれば、

「…いいふぁないれふふぁ。んっごくん、…私にとって最優先らったのれふから。」

 2人が話してる間もちびちびと、っていうかムシャムシャと飲み食いしていたサリーが頬を膨らます。

 ちなみに喋りながらでもモリモリ食っていたのはカンパネッロもである。

 テーブルに持ってきた料理がドンドンなくなっていくのに、若干引き気味なタイケンはカンパネッロに胸を張って告げる。

「改めて名乗らせてもらおう。俺が「サガの風」チームリーダーのタイケンだ。そして今肉を運んできたのが、」

「ウッス、ヤリオです。」

「続いて酒を運んできたのが、」

「カウンターだ。よろしく。」

 タイケンが話しかけてから目立ちまくっている中、他のものが割り込んでこないようににらみを利かせていた3人の紹介をする。

「そして一人だけちゃっかりと席について飯食ってるのが。」

「どうも……十六夜、言います。」

 今ではパシリみたいに酒や料理を運ぶ二人をしり目に、最後の一人だけ、影が薄い―――と言うか影そのもののような男がご飯を食べながら挨拶する。

 タイケン達4人の内3人がヒューマンである中、最後の十六夜だけが鬼人族だった。


「つまり我々は今、伯爵様より受けているクエストを貴方に手伝ってもらいたいのですよ。」

 タイケンを赤。

 ヤリオが青。

 カウンターが黄色。

 サリーが緑。

 そして、十六夜が黒。

 まるで戦隊モノのような5人はサガ伯爵からの任務として、最近この辺りで目撃されている魔物の調査、および討伐に来ていたそうだ。

 で、いざ到着したら救援要請があり向かってみれば、なんかすごいのが居た上に、新人がそれを倒していた。

 で、その新人が何者かを調べていたら、協会の直属なのが分かったところで仲間の一人が抜け駆けしていることに気が付いた。

 で、もうややこしいからて手伝ってくださいとお願いするに至った。

「で、いいんだよなぁ。」

「正直あんなのが他にも出てくるとは思わないけど、やっぱり嬢ちゃんがいてくれた方が心強いって訳で。」

情けない話であるが、報酬次第ではありかと思う。

何故ならこれからの予定としては、それ相応の旅費を稼ぎながらサリーの実力を見て、今後のサリーの同行についてを考えなければならない。

それならば、土地勘もありサリーとの連携になれてる彼等と同行できるのはありがたい。

「それなら俺が協会から受けてるクエストと似たものだしこっちとしてもありがたい。」

「ありがとう。良ければこのクエストだけじゃなくて、サガにいるうちは「サガの風」うちの客分にならないか、色々顔が利くから案内出できるぜ。」

そこでナコトが言っていたことを思い出した。

 権力者があからさまに近づいてくることが無いにしても、少しは伝手を作っておきたい。

「実はここを出たら一度サガの領都に行ってみようと思ってるんだよ。」

「では我々がご案内しますので、是非お願いします。」

 カンパネッロはこれからよろしく、と言って、酒の入ったジョッキを持ち上げる。

 それにタイケン、ヤリオ、カウンター、十六夜、そして酔っぱらってふらふらしながらのサリーがそれぞれジョッキを手にしてぶつけ合い乾杯を交わした。

「それじゃぁ詳しい話しは明日ギルドの集会場 で行うとして。」

「… それなら私がカンパネッロさんと同じ宿に泊まりますので、明日いつもの場所に案内します。」

 すでにカンパネッロ側のように振舞っているサリーが手を上げた。

「あの宿、空き部屋はあったけかな?」

「…なければ同じ部屋で! 」

「あそこは一人部屋だ。」

「…床でも構いませんので。」

流石にいきなりなれなれしくするのはおかしいだろ。

「…………………………他に部屋がなかったら一緒に寝ようか。」

「…いいんですか。喜んで。」

仏頂面のサリーが顔に出るくらい喜んでいた。

「あのサリーがあんな顔するほど喜ぶとは、―――嬢ちゃんはいいのか。」

中身がオッサンのカズマとしては嬉しい話だが、倫理観というものをもってもいる。

 なのでお断りしたい。

 しかし、カンパネッロが異様に薦めてくるので提案したら、異様に食いつかれた。

「とりあえず仕事の話しは明日にして、今日は宴会を楽しもう。」

タイケンに言われるまでもなくカンパネッロとサリーは楽しんでいる。

具体的に言うと食べて飲んでまた食べて。

その勢いはすさまじく、先程からヤリオとカウンターがひっきりなしに料理を運んでいたほどだった。

 それを見かねたのかメイドさんたちが変わってくれたので、2人も一緒に楽しむことができるようになった。


このイベントはギルド協会が主催なのでメイドさんが色々と気を利かせてくれる。

そこで気になったことをメイドさん(ナコトじゃない)に聞いてみた。

「流石に俺たちが狩ってきた量だと足りない気がするんだけど。」

「それでしたら、あのような大型の魔物が大きな被害を出すことなく討伐されたので、皆さん喜んで食材などを持ち寄ってくださいました。」

とのこと、ここらへんは現代日本とは人々の価値観が違うようだ。

冒険者だけでなく町のみんなで祭りを楽しんでくれている。

これがカンパネッロの活躍がきっかけなのが嬉しかった。

しかし、気になることもあるので明日の「サガの風」との話し合いでしっかりと聞いておこう。

「うぉぉぉぉぉー、また緑の嬢ちゃんが勝ちやがった。これで男を10人ぬきだぁぁ!」

すでに「サガの風」の3人はサリーによって酔い潰されていた。

サリーは最初っからろれつが回らなくなっていたが、仏頂面も最初から変わらずで意外と底が見えない。

サリーは見かけによらず酒豪で今も挑戦を受けては相手を潰している。

この様子だと魔法使いとしての腕はかなり期待できそうだ。

 基本的に魔法使いの強さは4つの要素できまる。


 1つ、魔力の出力。ステータスで言うと【MAG】だ。


 1つ、魔力のキャパシティー。ステータスで言うと【MP】だ。


 1つ、魔力を術に変換する知識だ。つまり【魔法スキル】である。


 1つ、先の3つをコントロールする精神力。これは努力と才能、つまりはセンスである。


 この中で【MP】の回復を行う時に強い酩酊感を感じる。

 実際に体験したし、MPポーションは上等なものになると強いアルコールが含まれているらしい。

 カンパネッロの少ない荷物の中にあったので確かだ。


「…ハッハッハァ、この程度でカンパネッロさんに挑もうなんて片腹痛いわぁ!」

 相変わらずの仏頂面なのに、先ほどのろれつが回ってなかったのは何処に行ったのか、サリーはテーブルの上に立ち、折り重なって倒れる男達を足蹴にして笑いながら酒を煽っている。

 多分本気で酔っ払っているのだろう。

「………いつの間に俺がラスボスになってんだ。あ~ぁ、派手にやっちゃって、みーんなつぶしちまいやがた。」

 周りにいた男たちはサリーに酔い潰されてしまったので、カンパネッロが食べた分を補充する者が傍に居なくなってしまった。

 メイドさんの数にも限度があるし。

 仕方ないからと自分で取りに行くことのした。

 そのさいにギルドカードでクエストの確認をする。


『旧キウラキ鉱山と旧鉱山街において目撃のあった魔物の調査、および討伐.。』


 たぶん「サガの風」の者等はこいつの調査に来たのだろうが、時期的に見て神様が用意しているモノたちとは別件と見ていいだろう。

 ならば、あのイノシシと同類か、もっとヤバいものが出てくるかもしれない。

 正直、期待で悪い笑みがこぼれてしまっているだろう。

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