2 『死には死を』

「僕の名前だ」


 ――死には死を。

 そう願っていないかい?

 端田光太くん。

 私をリツイートし、願いを書けば、願いが叶うかも知れないよ。


「これは、初めて見るよ。僕の望みではない」


「嘘だ! 肌荒れ光太の話なんか信じるなよ!」


 顔を真っ赤にした、鈴森くんが、僕に向かって突進してきた。


「イケイケ、鈴森! 殺せよ!」


 飯田橋くんが煽っているのも聞こえるんだよ。


「鈴森くん、根拠もなく僕のせいにするなよ」


 教壇の側で、僕は、馬乗りになられ、三発のビンタを食らった。

 鈴森くんが本気だと感じる。

 彼が涙まで流している。


「何だと? シネー! シネー! シネばいいんだ! コイツ」


 僕は、胸ぐらを掴まれた。

 鈴森くんが立ち上がり、襟を持ち上げられるので、息が苦しくなってくる。

 酸欠で失明の恐れがある。

 振りほどかなければ……。

 う、くう。


「――止めてよ」


 正義感一杯に百合愛さんが、割り入った。

 僕の薄目にも彼女の友情が伝わる。


「危な……。百合……さ」


 非力ながらも、賢明に引き離そうとする百合愛さんは、もう女神以上の存在に輝いていた。

 僕のご都合主義でごめんなさい。

 でも、味方なんて、誰もいないのです。

 友達というだけで、ありがたい。


「うお! 何すんだ、丹羽!」


 とうとう勢いよく僕らにぶつかってきた。

 そうしたら、やっと鈴森くんと離れられたよ。

 はー、はー。

 失明したら、可愛い百合愛さんも拝めなくなるものな。


「体当たりでもしなければ、離れてくんれないんだもん」


 百合愛さんの度胸のよさに、まだ鈴森くんは、噛みつく。


「うるさい。クラス委員は、引っ込んでろ」


「ゲホゲホ。僕は、もう、お終いにして欲しい。死ねとか言わない方がいいよ」


 はいはい。

 幕引きですよ。


 教室のドアが開いて、皆、びびっとした。


「はい、おはよう。ホームルームを始めるぞ」


 山本やまもと先生が、机をバンと叩いた。


 ◇◇◇


 僕は、帰宅して、真っ先にスマートフォンを確認した。


「本当だ。僕宛の『ハンムラ』からのつぶやきだ……」


 そら寒くなって、一人、奥の自室にいるのが怖くなった。

 そんな時、電話したり、会ったりできる友達がいないのが、もっと悔しかった。


「ちょっとだけ、皆のクラス委員さんが、優しかったけれどもな」


 ああ、百合愛さん。

 今頃、お家に帰っているのかな?

 どんな感じのところだろうか?

 やはり、白いグランドピアノとかあったりするのかな?

 そんなにお嬢様度高いか、はは。


「飯田橋くんや鈴森くんには見つかりたくないけど、彼らは、今日は山本先生に呼び出されていたっけ。今朝の騒ぎか? だったら、僕もそうだと思うけど」


 こうしていては、危ない人になっている。

 気晴らしにスマートフォンのけん玉ゲームでもするか。

 アプリをタップして、さあ、起動。


「うおおお! もしもしエンドレスー」


 ずっと、大皿と中皿をリズムに合わせてタップするだけなのな。

 これで、ランキング入りしている。

 トップ百一位だ。

 もう少し上がりたい。


「大、中、大、中……!」


「光太、帰ってきているわね。お友達がおいでよ」


 誰だろう。


「分かった。玄関に出るよ」


 僕は、お母さんの様子のおかしさが気になりつつ、玄関の暖簾をくぐった。


 ◇◇◇

   

 ――次の日、真田中学校で自殺者が出たと騒動になった。

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