第16話 訓練の成果


 ナミがジールを早々と説得したのもびっくりしたけど、僕とルルーの先生としてサミエルを連れて来たのもびっくりした。

 そう言えば、僕もナミに説得されたようなもんだな。

 ナミって……いや、止めておこう。ナミの才能の一つだ。うん。


 僕は墓地での一件から、サミエルに親しみを感じていた。

 見た目と喋り方は軽いけど、あと何を考えてるのか解らないところもあるけど、なんだか魅力のある人だ。

 ルルーもけっこう仲良くやってる。

 ジールは……やっぱり、微妙な距離感がある気がする。サミエルは気にしてないみたいだけど。


 僕は、サミエルには盾の使い方を、ナミには防御魔法を教わっている。

 ルルーはサミエルに盾と攻撃魔法を、ナミにワープを教わってる。

 ナミは、僕が防御魔法を使えそうなので、それが出来たら他の補助魔法も教えてくれる、と言っている。

 冒険に出るにはまだ時間がかかるだろうけど、最近僕は、充実してる。


「だからぁ、自分を守れってば!」

 ──あぁ、またやってしまった。頭では解っているんだけど……。

 今はルルーと二人で、サミエルの木の棒攻撃を盾で受け止めたり避けたりする訓練をしてるんだけど、つい、ルルーの前に出ようとしてしまう。

「ヨハンは回復なんだから、一番ヤられちゃダメなんだよ!ルルーより後ろ!ルルーが攻撃を受けても回復すればいいの!」

「はい!」

 解ってるんだけど……つい身体が動いてしまう。ずっと、ルルーを守るのが僕の役目だったからなぁ。

「そうよ、お兄ちゃん!自分で言ってたじゃないの」

「……はい」

 あぁ、情けない……。

「ルルーも!たまにヨハンの方に意識が行ってるよ〜?もう……二人共〜、もっとお互いを信用して!敵に集中!」

 ……信用。そうか、信用か。ルルーは自分で自分の身を守れる……ようになる。その為の訓練じゃないか。

「ほら、もっかい行くよ〜!?」


 半年程たったある日──。

 僕とルルーはジールに呼ばれた。

 そこには何故か、ナミとサミエルも居た。──と、なると……。

「ナミとサミエルから、お前達の修行の成果を聞いてたんだ」

 やっぱり。で……?どうでしょうか?

「まぁまぁよ! ヨハンは補助魔法をいくつか覚えたし。ルルーのワープも……近くなら出来るようになったわ」

「ルルーの魔法のセンスはイイ感じだよ〜。まぁ、あとは経験だよね。防御も、二人ともまあまあじゃない?」

「本当!?」

「じゃあ……!」

「だから、試験だってさ〜」

「え?」「試験?」

「実戦で証明して貰おうか」


 ───近くの森で……。

 そこに居たのは、ゴブリンと言われる、二足歩行のモンスターが、三匹。

 縄で縛られ、眠っていた。

 ゴブリンは強いモンスターではない。三匹いたって、ルルーの魔法で一掃できないか? 何度も練習で戦った相手だ。なんだか、拍子抜け……。

「甘いわよ〜」

 ナミがニヤニヤしながら、ゴブリン達の縄を解いた。

「では……ナミ様スペシャルコースで」

 ナミが次々と、補助魔法をゴブリン達に掛けていく……。そ、そういう事か……。

「ふう。ちょっとやり過ぎたかも……でも、大丈夫よ!本当に危なかったら助けるから!」

「俺達はその辺で、気配を消して見てるからな」

 あれ?ちょっと待って。

「僕達二人だけで倒すの?……前衛が居ないんだけど……」

「前衛は戦闘不能だ」

 そう……シュールな設定だね……。

「お兄ちゃん、頑張ろう!」

 ルルーはやる気満々だ。よし、僕も頑張ろう!ルルーを信じて。

「ほらほら、そろそろお目覚めだよ〜」


 ゴブリン達がほぼ同時に起き上がり、僕達に気づいた。

 二匹は剣、一匹は斧を持っている。

「風よ!」

 ルルーが風魔法でゴブリン達を下がらせ……てない!全員向かって来てる!

「──大地!」

 ルルーがすかさず土魔法を発動し、ゴブリン達が体制を崩す。……だが、ダメージを受けたようには見えない。

 ナミ、本当にやり過ぎじゃない?

 とりあえずルルーに防御魔法。

 最初に体制を立て直した一匹が剣を振り上げてルルーに迫る。ルルーが盾でかわしつつ「炎!」至近距離で顔面に魔法を叩きつける。よし、効いた!僕は駆け寄って喉元を切り裂いた。まず一匹。

 斧を持った奴が僕に飛びかかって来た。盾で防ぎながら、自分に防御魔法。……コイツら、かなり速い。ナミのせいだけど。だがサミエルの速さほどではない。なんとか避けれるだろう。斧はパワーがあるから、避けるのが基本だ。革の盾では何度も防げない。

 とにかく避ける。斧が降り下ろされた隙に、ルルーを回復。次の隙を使って蘇生。ルルーがもう一匹を相手にしている間は、これでいい。

「避けて!アロー!!」

 僕は斜め後ろに飛び退く。斧ゴブリンの背中に氷の矢が突き刺さる。だがまだ、倒れない。標的がルルーに変わった。僕は素早く元の場所に戻り、最初に倒したゴブリンの剣を拾い後ろから切りかかった。同時にルルーの炎がクリーンヒット。ドサッと倒れるゴブリン……。

 ──ふ〜、終わった。ルルーは?

 こちらを見て笑った。よし!


 ぱちぱちぱち、と音のする方を見ると、ナミが手を叩きながら出て来た。

「良く出来ました〜!」

「まぁまぁだね〜、ちょっと簡単だったかな〜」

「お父さん!どうだった!?」

「……正直、びっくりしたよ。良く頑張ってるな」

 じゃあ……!

「ヨハン、ルーに蘇生をかけてたのは、何だ?」

「え、前衛は戦闘不能だから……代わりに」

「……合格だ」

 やったーーー!!!


「次だ。ルー、ワープを見せてくれ。……街へは行けるのか?」

「はーい!」

「街の道具屋に、頼んでおいた物がある。それを取って来てほしい」

「はい、行ってきます!」

 ──十分後。

「ただいま!はいコレ、道具屋さんで受け取ったわ。ね、出来たでしょう、お父さん」

「ああ……本当に出来たな……」

「先生がいいもの〜。なんて、ルルーは本当に頑張ったわ!」

「えへへ」

「で、コレ何〜?」

 サミエルが、ルルーが持ち帰った包みを指した。

「開けていいぞ」

 出て来たのは、真新しい、背負い袋が二つ。

「ルーとヨハンに、だ」

「僕にも……」

「お前の持ってる袋、小さいからな」

「わぁ、ありがとう!お父さん!」

 ジール……。ちょっと涙が出そう!


「次。ヨハンの代わりの神父は?」

「バッチリよ。蘇生もちゃーんと出来るシスターよ。……残るは、前衛の冒険者だけど……?」

 僕達と一緒に旅してくれる、冒険者。

 ジールが選ぶって話だからもちろん強い人だろうけど……いい人だといいな……。

「俺も最強を用意した」
















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