第15話 ジール、ナミ


 ……あれから毎日、ナミが説得に来る。ルーと二人ががりで捲し立てられる。

「ジール、可愛い子には冒険をさせろ、よ?」

「お父さん、お願い!」

 毎日逃げ回る日々だ。

 ……。

 ヨハンは、もう大人だ。

 アイツは回復と蘇生ができる。どこのパーティーでも大歓迎される事は間違いない。だが、冒険者になりたい訳ではないらしい。「ここに帰って来たい」と言ってくれた。

 だが、ルルーは……。

 モンスターと戦闘の経験もない。ちょっと魔法が使えるようになって、いい気になっているんじゃないか。

 それに、ルーは俺の目から見てもかなり器量がいい……マリアに似て良かった。いや、そうじゃない。ヨハンはいいとして、どこの馬の骨とも分からん冒険者とパーティーを組ませるなど……。許せるわけがない!

 ……だが、行かせてやりたい気持ちもある……。

 ルーが男の子であったら、俺は喜んで送り出しただろう。

 ……許さなければ、飛び出して行ってしまう可能性も、ある。

 ルーは素直な子だが、真っ直ぐで一本気なところがある。俺に似たのか、マリアに似たのか……。


 俺は考えて……ナミとルーにこう言った。

「わかった。ただし、条件がある」

「うんうん、何、何?」

「一つ、ヨハンの居ない間、教会に神父が必要だ」

「了解。探してくるわ!」

「二つ、ルーとヨハンに戦闘訓練をさせる。俺が見て不安があるうちは、出発させない」

「まぁ、それはそうね」

「三つ、ルーは転移魔法ワープを覚えろ……いつでも帰って来れるように」

「はい!」

「四つ」

「……まだあるの?」

「これで最後だ。……前衛に雇う冒険者は、俺が決める」



 う〜ん……。なんとかジールを説き伏せたけれど。

 神父は、なんとか探せそうね。シスターでもいいのよね?

 ルーにワープを教えるのは私だから、オーケー。ただ、どれぐらい掛かるかなぁ……。半年か一年か……。こればっかりは、ルルー次第。あ、ルルーは戦闘訓練もしなきゃならないのよね。魔法を教えてくれる人を探さなきゃ。

 あと、ヨハンはどうしよう。僧侶に大事なのは、防御ね。防御魔法を教えて……使えるかしら? やっぱり、盾、かしら。

 問題は!

 前衛はジールが決めるってどうなのよ?気持ちは分かるわ。でも、ジールと同じレベルを求めるつもりじゃないわよね?そんな人、そうそういないし!……まさか、誰を候補にしても却下するつもりじゃ……それは、ないわね。ジールは卑怯な手は嫌いだから。

 まぁいいわ!

 まずはルルーとヨハンを鍛え上げるわ!……魔法と防御。 適任なのが居るじゃないの。しかも暇そうなのが!


「だからぁ、なんでボクなワケ〜?」

「人の話、聞いてなかったの?」

 ──私は、サミエルに二人の指導をお願いしに来ている。

 魔法と剣と盾、全て使えるサミエルはドンピシャなのよ!

「どうせ暇でしょ?」

「……そうだけどさ〜、ソレ、ボクになんのメリットがあるんだよ?金に困ってないのは分かってるだろ〜?」

 ふ、ふ、ふ。それについてはちゃ〜んと考えて来たのよ。

「今ね、あの村……凄〜く発展してきてるのよ」

「凄〜く発展したって、しょせん田舎の村だろ〜?大した酒場もないんだろ?……ボクがそーゆートコロ嫌いなの、知ってるだろ?」

「自分で作れば、いいじゃない」

「……!」

「サミエル、昔、言ってたわよね。王都ですらこの程度か、とか」

「……よく覚えてるねぇ」

「あの村なら、まだ開発途中で土地はいっぱいあるし、サミエルの理想の酒場が作れるわよ」

「……でもねぇ、冒険者しか来ないような田舎じゃ……」

「ジールは今、村の東にある川に、橋を架けようとしてるの。それからこの街の西の山にトンネルを掘って、ここと村をつなぐ街道を作るって」

「……」

「まだあるのよ?川を下って行けば海に出るわよね?」

「……まさか」

「ええ、海から来る船も泊まれるような、港を造る予定」

「……それはもう、村じゃないな」

「そう!ジールはあの村を、街にする気よ。きっとそうなるわよ!ねぇ、とりあえず土地の下見だと思って来なさいよ!」


    ※  ※  ※  ※


 ────ナミの奴、まさかサミエルを連れて来るとは……。

「ま、な〜んかそんな事になったから、ヨロシクねぇ、ジール」

「そ、そうか……」

 サミエル……何だか顔つきが変わったな。いや、昔に……マリアがパーティーを抜ける前の昔に戻った感じだ。……殺気が感じられない。

 サミエルは俺を恨んでいたはずだが、あの洞窟での勝負で、何かが変わったのだろうか。だとしたら、良かった。サミエルにとっても、俺にとっても。

 そしてマリアにとっても──。


 サミエルは確かに、ルーとヨハンを指導するには最適だろう。

 俺は盾を持たずに力で大剣を振るう。攻撃を防ぐのも大剣だ。

 だがサミエルは、右手に剣を持ち、左手に盾を持ち、剣から魔法をも放つ。……あの二人は杖かナイフになる訳だが。

 サミエルは魔法を使わなくても、攻守のバランスが取れていて、強い。

 まあ、俺には敵わんだろうがな。


 ──だが、俺の次には強いだろう。


   ※  ※  ※  ※


 ふふふ、やっぱりサミエルを連れて来て正解だったわ!

 ルルーもヨハンも、修行に熱中してる。サミエルも何だかんだ言いながら、真面目に教えてるわ。てゆーか、楽しそうじゃない。

 ヨハンは、なんだかサミエルになついてるし。サミエルには宿屋の一室を提供しようと思ってたんだけど、自分から「教会の空き部屋に泊まって欲しい」って……。なんでかしら?


 それよりも、サミエルの酒場の話、ジールになんて言おうかしら?

 サミエルをその気にさせる為にああ言ったけど……サミエルが造りたい酒場って、ウサギの耳をつけたり薄着の女の子が踊ってたりするような、派手できらびやかな場所なのよね〜。あのお堅いジールが許すとは思えないわ〜。

 まぁ、なんとか説得しましょ。

 街が大きくなる為には、そーゆー場所が必要なのよ!──とかなんとか言って……。





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