第4話  村に住もう!


 そこはとても小さな、集落だった。

 十数軒の家、しかも、崩れかけた家が多い。すでに朽ちて、屋根や壁がない廃屋もあちこちにある。


 モンスターに、やられちゃったのかな。防壁もないもんな……。

「ここに、住もうと思う」

「え!」マジで!?

「ここで、畑を耕して暮らせば、食うには困らないだろう」

「家は?」

「まだ住めそうな所を、譲って貰おうと思う」

 ……住めそうなところ……、ないと思うけど……。


「なんじゃ、お前さん達は」

 くわを持った老人がやって来た。

「怪しい者ではない。この村の村長に、会いたいのだが」

「そんなモン、居らんよ。ここはもう、村とは呼べないしのう」

「……ここに住みたいのだが、構わないだろうか?」

「どこでも勝手に、住めばいい。ここには年寄りが数人、お迎えを待っているだけじゃ。……おや、子供が居るのか」

 ルルーがもじもじしている。

「……後で、そこの家に来なさい。皆に紹介しよう」

 ──子供は人の警戒心を解く、魔法のカギだ。特にルルーのような可愛い子は。


 老人の家で、僕達は自己紹介を済ませた。

 村に住んで居たのは、たったの五人だった。お爺さんが四人、お婆さんが一人。

 昔は沢山の住人が居たが、若者達は徐々に街へ移り住んでしまった。魔王が倒されるほんの少し前、魔物の群れが来て、残った人達のほとんどが戦いの末に殺された。今ここに居る老人達は、若いころそれなりに戦闘の経験があったのでなんとか生き残っている──。

 そんな話だった。

 それからお婆さんがこう言った。

「私は昔、魔法使いとして冒険していたんじゃよ。──ジールさん、ルルーちゃんに魔法を教えても良いかの?」


 次の日から、ジールと僕は住む家の修理を始めた。

 壊れた家から使える材料を取ってきて、足りない分は森で調達する。

 森では狩もした。肉は村の老人達に分けて、老人達からは畑で取れる芋や野菜を分けて貰った。

 ルルーは僕達が働いている間、老人達と遊んだり、お婆さんから魔法を教わっているようだ。

 ──数日で、なんとか雨風が凌げる程度の家になった。あとは少しづつ手を入れていけばいいだろう。しばらくは、この家で三人で暮らすことになった。

 やっと、テント生活とおさらばだ!!


「ほう、立派なもんじゃ」

「良かった、良かった」

「ワシらも最近、楽しくての」

「……魔王が居なくなったって、ここの生活は変わらんと思っておったが」

「あなた達の、お陰じゃねぇ」

「次は、畑を大きくしよう!」

「そうだな、道も整備したいな」

「ほっほ、若い者はいいのう」

「本当じゃ、昔に戻ったようじゃ」


 ──そうか。そうだ!

「ねぇ、ジール!この村にフレド達を呼ぼう!まだ直せる家があるし、人手が多い方が──」

「そう言うと、思ってたよ」

 ジールは笑った。


 早速次の日、ルルーをお婆さんに預けて、僕とジールは出発した。

 荷物も少ないし、半日で岩山に着いた。

「さてと、奴らの洞窟はどこだ?」

 洞窟の場所は……知らない。ジールが呆れた顔をした。

 僕は襲われた湧き水の場所まで、叫びながら歩いた。

「おーーーい!フレドーーー!!」


「なんだ、お前達か!?」

 あの湧き水の場所に、山賊の──いや、フレドの仲間が居た。僕達は彼らの住む洞窟に案内して貰った。

「あっ、お前達は……何しに来た?」

 フレドは元気そうだ。良かった。

「フレド、話があるんだ!──あ、僕はヨハン、この人はジール……」


 僕は村の事を話した。みんな集まって来た。フレドの仲間は、僕達を襲ってきた六人の男と、女が三人、子供が五人。ルルーぐらいの年の子も居るし、一人はまだ赤ん坊だ。

 まず女達三人がすぐに賛成した。そりゃそうだ。こんなところで子供を育てるのは無理だろう。

 だが、男の一人が言いずらそうに言った。

「……あの村の畑から、盗んだからな……」

「ああ……オレ達は受け入れて貰えないんじゃないか?」

「……」


「謝れば、いいだろう。すぐに許して貰えるとは思うな。時間をかけて誠意を見せろ」

 ジールが静かに言った。

「……そうだ。謝ろう」とフレド。

「まず、ジール、ヨハン、お前達に許して貰いたい。申し訳なかった」

 フレドが地面に手をついて頭を下げると、仲間達も次々にそれに倣った。

 うん、やっぱり。僕が思った通りだ。悪い人達じゃなかった!

 ──ジールはどうだろう。

「……家族のためだったのなら、許す。……だが、娘に何かあったら、殺してたぞ」


 僕達は和解した。


 その日は皆で荷物をまとめたりして洞窟に泊まり、翌朝早く、村に向けて全員で出発した。


 村に着いた頃には暗くなっていた。

「お父さん!お兄ちゃん、お帰り!!」

「ルー、いい子にしてたか?」

 ──老人達は、唖然とした顔だ。

 いきなり、十四人も連れて帰って来たんだもんな。

「えーと、その……」

 僕は何て紹介すればいいのか、迷った。

「挨拶は、明日にしよう。子供達が疲れてるだろう」

 ジールが助けてくれた。さすがジール!

「……ああ、そうじゃな」

 僕達も手伝って、皆のテントを張った。


 翌朝、ジールと、皆の代表としてフレドが、老人達に挨拶に行った。

 僕は皆とドキドキして待っていたけど、フレドが笑顔で戻って来たので「やったぁ!」と叫んだ。皆も一様にホッとしたようだ。


 ──その日から、とても賑やかになった。ルルーも最初は戸惑っていたが、友達ができて嬉しそうだ。

 ジールとフレドが中心となって、村の修繕と畑の開拓はどんどん進んだ。

 東に少し行くと大きな川があって、僕は良く魚を釣りに出かけた。

 森で木を切る者、狩をする者、畑を耕す者、家を直す者……。男も女も子供達も皆、良く働いた。

 分からない事があれば、老人達が色々とアドバイスをしてくれた。年寄りって何でも知ってる。老人が頼りになるって事を僕は初めて知った。


 ───あれから数年経った。

 土からレンガを作り、釜戸を作った。川から畑まで、水路を掘った。

 水路に水車を作り、畑で小麦を作り、粉を挽いた。パンを焼けるようになった。

 ルルーの覚えた炎魔法、風魔法はとても活躍した。

 森で捕まえた獣や兎を、村で繁殖させる事にも成功した。


 村は、見違えた。僕達が最初ここに来た時からは想像もつかないほどに。

 ある日、お爺さんがジールにお願いした。

「この村の村長になってくれ」と。

 皆が賛成した。


 ジールは村長になった。





























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