第4話 花巻温泉

 中学生の林間学校の時だったと思います。

 何をしたとか、ほとんど覚えていないのですが、ホテルでのことだけは覚えてます。


 夜、布団を敷いて、みんなでトランプをしていました。ポカリスエットを買って飲んでいたのですが、何故かみなポカリでハイになり、お酒のかわりに乾杯とかして、「やっぱりポカリっしょ! 」とか言って盛り上がっていました。(今思うとくだらないのですが、中学生ですから大人の真似がしたい年頃だったんです)


 そんな時、廊下で話し声が聞こえて、消灯時間はとっくに過ぎていたため(十二時は過ぎていたかと思います)、みな話すのを止め、布団に潜って聞き耳をたてていました。


 私の行っていた学校は、幼稚園から大学まである女子校で、一般的にお嬢様学校と当時は言われていました。そのためか、私達の泊まるフロアは貸し切りで、他のお客様が泊まらないようにしていたんです。


 廊下の外の話し声は、先生が出歩いている生徒を叱っているというより、何か言い争っている感じがあったので、間違って他の階のお客様が入り込んでしまい、先生が注意して喧嘩にでもなったのかと話していました。

 しばらくすると声が聞こえなくなったので、再度トランプを再開して、夜中の二時過ぎに一旦休憩することにしました。


 多分六人部屋だったと思います。一人だけ先に休んでおり、私達は旅行によるハイテンションのせいか全く眠くならず、数人が窓の外を眺めに行きました。


 三階以上だったと記憶しているのですが、もしかすると二階だったのかもしれませんが、ホテルから少し離れたところに林なのか木が生えていました。


「ねえ、なんか明かりが飛んでるんだけど」


 窓から外を見ていた生徒が言いました。

 起きている生徒は、どこどこ? と窓際に集まり、「あれかな? あれじゃない? 」と指を差していました。辺りはうっすらけぶっており、霧がかっていて何を差しているのかわかりませんでした。


「どこどこ? 」


 私はよくわからなくて、見えたと言っていた子に聞くと、彼女は木と木の間を指差しました。


 そこを見ると、私にはくっきり人の顔に見えました。

 まるでお面のような白い顔に、昼間見た踊りの人がしていたような化粧をした顔だけが見えたんです。


「やだ、光じゃないよ、人じゃない。痴漢かな? 」


 最初、痴漢が木に登って覗いているのかと思ったんです。

 でも、友達はみな光にしか見えず、薄ボンヤリした光がフラフラしてるだけだと言うんです。

 そんな光の玉が数個浮かんでいると。

 私には光は見えず、その顔しか見えませんでした。


「○○ちゃん(私)、眼鏡なくて見えるの? 」


 その時の視力は、多分0.1か0.2くらい。遠くなんか見える筈がないんです。

 人の顔の化粧まで、見える筈ないんです。


「何で見えるの?! 」


 私は一気に怖くなり、布団に逃げ帰りました。

 みな、その時になって、正体不明の光ではなく、心霊現象的な何かだと気がついたようで、慌ててカーテンを閉め、布団に入り丸くなりました。


 怖い! 怖い! と囁き合っていると、寝ていた子がいきなりうなされ、ガバッと起き上がりました。

 どうしたの? と聞かれ(いきなりうなされて起きたのだから、本来どうしたのはこっちのセリフなんでしょうが)、幽霊を見たかもしれないから怖いんだと伝えると、その子は目を閉じたまま言いました。


「大丈夫、三時を過ぎればみんな帰るから」


 そして、また突然寝てしまったんです。

 その奇妙な寝ぼけ方にも驚きましたが、私達は彼女の言葉にすがるように、何の根拠もないだろう彼女の寝言を信じ、三時まで起きていました。


 次の日、集合場所に整列していると、何となく周りの会話から、昨晩は他の部屋の子達も窓の外に光を見ていたことがわかりました。また、私達の泊まっていた階に不審者の侵入はなかったようです。


 これが私が生まれて初めて経験した不思議な出来事でした。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

本当にあったそんなに怖くない話 由友ひろ @hta228

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ