第2話 元カレとの旅行

 まずこの話しをする前に、両親に、母親に謝りたいと思います。

 言い訳ではありませんが(いや、言い訳ですね(^^;)、成人もしており、大学卒業後就職してすぐの話しですので、母親に嘘をついてしまったことは悪かったなとは思いますが、まあ、そういうお年頃だったということで、許してもらいたい……です。


 話しは、家を引っ越してから一年たったかたたないかくらいの時のことです。

 当時、私にはけっこうラブラブ(今は死語ですか? )な彼氏がいました。

 知り合ったきっかけはおいておいて、私も大好きだったし、彼もかなり好いてくれていたと思います。

 私の家が引っ越してしまったせいもあるんですが、彼の家までは電車を三回乗り継いで、二時間くらいかかるようになりました。しかも、彼のアパートまでは歩いてさらに駅から二十分くらいかかりました。

 偶然ですが、以前の私の家の近所に彼の職場があり、私が就職したのも、以前の家から駅で三つくらいにあったので、家は遠くなりましたが、毎日仕事帰りに一緒にご飯を食べてから帰っていました。


 付き合って一年半くらいたったそんなある日、彼氏からうちの近所にいると連絡がきました。言われた場所に行くと、彼氏が車の横に立っていました。

 私にはサプライズで、車を購入していたんです。


 当時、彼氏の家でもデートをしていたのですが、帰りはいつも彼氏が一時間電車に乗って途中まで送ってくれていました。私が家につくのと、彼氏がアパートにつく時間を合わせたからなんですが、彼氏的には遅くに私を一人で帰すのが嫌だったらしいんです。


「これで遅くなっても、○○ちゃんを家まで送って帰れるね」


 車なんか特に興味もなかったし、買う必要もなかった彼氏が、ほぼ私とのためだけに車を購入してくれたのに、凄く驚き、彼氏に抱きついて喜んだのを覚えています。


 車を購入してすぐの夏期休暇、私達は車で旅行へでかけました。千葉の鴨川へ行き、観光しましたがお金のなかった私達は宿などはとっておらず、行き当たりばったりでラブホにでも泊まろうと、車でホテルを探しました。

 しかし、お盆休みということもあったのか、なかなかホテルに空きがなく、やっとみつけたのは古い感じのラブホでした。


 ラブホの敷地に車に入ると、一階が駐車スペースになっていて、駐車脇の扉を開けると階段になっていて、二階が泊まる場所になってました。

 部屋に入ると、入ってすぐに座椅子と小さなテレビが置いてあり、奥にダブルベッドがありました。テレビを見るスペースの横にはすけすけのお風呂がありました。


 私は入ってすぐに座椅子に座り、テレビをつけました。いつもなら、彼氏とすぐにイチャイチャするのですが、何故かその時は彼氏のいるベッドの方へ行きたくなかったんです。


 彼氏はしばらくベッドでゴロゴロしていましたが、私があまりにもベッドへこないので、拗ねたように私を呼びました。

 私は重い腰を上げ、彼氏の待つベッドへ……。


 ことが終わった後、私は睡魔に襲われつつうつ伏せで寝ており、彼氏はお風呂をためてくると風呂場へ向かいました。

 少し後で人の気配がしたので、私はうつ伏せのまま彼氏だと思い、「お湯たまったの? 」と声をかけました。しかし、返事がありません。私は、うっすらと目を開けて人の気配がした方を見ましたが、誰もいませんでした。


 私の記憶は、ここで完璧に途絶えてます。多分、お風呂に入ることなく、寝落ちしてしまったんでしょう。


 そして朝を迎えたんですが、今日はどこに行こうかって話しになった時、彼氏は横浜へ行こうと言い始めました。高速とか使わない旅行をしていた私達ですから、下道で鴨川から横浜って……と、私は大反対。彼氏は意味なく横浜へ行きたがり、私は逆にそこまで? というくらい反対しました。

 結局、びっくりするくらいの大雨が降ってきて、旅行継続を断念して彼氏の家に帰りましたが、その旅行の後に、不思議なことが起こったんです。


 ★★★

 家に帰った私は、自分の部屋で横になっていました。旅行で感じた人の気配などただの気のせいだと思っていたし、その時までは全く気にもしていませんでした。


 横になっていた時、いきなり身体が動かなくなり、横腹をえぐられるような痛みに襲われました。横腹を掴まれているというより、見えない手に内臓を掴まれているような、そんな激痛でした。

 呻くこともできず、パニック状態の私の耳元で、犬の鳴き声が聞こえました。その途端に身体に力が戻り、痛みも一瞬で消えたんです。

 あの祖母だと思われた人影を見た時には感じなかった恐怖で、今回は震えが止まりませんでした。姿が見えたわけではないけれど、明らかに身体の不調とかではなく、別の何かが私の横腹を掴んだことと、何故かそれが今まで忘れていた旅行の時に感じた気配とが合致したんです。


 怖い何かを連れてきてしまったんだと思った私は、頭の中で「怖い! こないで! 助けて! 」をリピートして念じていたように思います。

 その時、目の前に犬のしっぽだけが現れました。ふっさりとしたそのしっぽは、見覚えのあるものでした。そして、あの鳴き声も。

 そう、今回も亡くなった愛犬が私を助けてくれたのです。

 そのしっぽを掴むと、恐怖がスッと消えていき、睡魔に襲われました。


 その後、私の元に私の横腹を掴んだ何者かは現れることはありませんでした。そして、愛犬を感じることも、それが最後になりました。


 後で彼氏と話したんですが、私にそんなことがあったその後、彼氏のアパートの電子キーが壊れたそうです。そして、こんなことを言ってました。


「あの時(鴨川のラブホで)、俺何であんなことしたんだろうな? 」

「あんなことって? 」

「ほら、○○ちゃんとHしてる時、○○ちゃんの首絞めたんだよ」

「は? 」


 私には、そんなことをされた記憶が全くないんです。

 彼氏はお酒を飲まない人だったので、私も彼氏といる時はそんなに飲まないし、お酒飲んでいて忘れたとかいう話しじゃないんです。

 私が忘れているのか、彼氏がそうしたと思い込んでいるのか……。


 その後、彼氏は車で衝突事故を起こしました。

 それがきっかけとなり、彼氏は落ち込むことが多くなり、マイナス思考になっていきました。

 まるで人が変わったように……。


 結局、そんな彼氏にたえられなくなり、私はお別れを告げましたが、もしあの旅行へ行っていなければ、こんな結果にはならなかったんじゃないか?


 私のところにいることができなかった何かが、彼氏を標的にしたんじゃないか……、それにより電子キーが壊れたり、事故を起こしたんじゃないか? 何となくですが、明るかった彼氏があんなに陰鬱になってしまったのも、それに引きずられていたんじゃないのか……と思われてなりません。



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