本当にあったそんなに怖くない話
由友ひろ
第1話 祖母と愛犬
私が前に住んでいた家は、祖父が大学に通うために上京してきた時に借りた長屋を数回改築して、私が24になるまで住んでいました。
祖父の代に購入しておけばよかったんでしょうが、ずっと借りたまま年月が過ぎました。バブルの時期に、購入するか出て行くか迫られ、父は生家であったことから購入を決意。銀行から多額の借金をして、土地も家も正真正銘の我が家になりました。
私の祖父は、大学を出た後も長男だというのに家に帰らず、東京で結婚。そして奥さんと死別した後で、祖母と再婚したそうです。
そして祖母もまた、女ばかりの長女で婚約者がいたにも関わらず、相手が気に入らなかったのか上京。違う相手と結婚したものの、相手が病弱だったため離婚し、祖父と再婚したという、昔の人にしてはかなり気の強い女性だったようです。
ちなみに、祖母の婚約者は、祖母の妹と結婚して、家を継いだとか……。
まあ、私が生まれる前に亡くなっている祖父母なので、父親から昔聞いた話しで、どこまで正しいのかわかりませんが、祖母はあの家に嫁入りし、子供を産み育て、家に強い執着を残していたようです。
家を捨てた祖母ですが、だからなのか家とか跡継ぎにこだわりが強く、どうやら家に囚われていたようで、家に遊びに来た父の知人が、祖母の死後にうちで祖母を見かけたそうです。
彼は祖母のことは知らず、うちに遊びにきた際に、着物の女性がトイレの前に立っていたと、父に告げたそうです。そして、祖父母や友人が数人写っている集合写真を彼に見せると、祖母を指差して「この人がいた」と言ったそうです。
家族が見た訳ではなかったし、「おばあちゃん、家のことが心配で成仏できてないのかな? 」と、家族で話していました。
ただ、私は昔から家のトイレが無性に怖く、一人でトイレのに入ることができず、犬を抱えてトイレしてました。
また、私が大学生になった時、うちにきた友達が、「○○さんちのトイレ、なんか怖い……」とも言っていました。
大学二年くらいの時だったでしょうか?私が凄く可愛がっていた犬が死にました。毎日一緒に寝ていて、私の部屋を自分の小屋くらいに思っていた犬で、病死でした。
その犬が死んで少したった頃、私は夢を見ました。
寝ている自分を見下ろしているような奇妙な感じのする中、夢の中で友達からの電話を告げられるんです。
私は寝ている自分が見えてるような感覚の中、身体を動かすことができず、「ごめんね、身体が動かないから電話でれないんだよ」と言いました。
すると、耳元で声がして「大丈夫、もうきてるから」と言われました。
私の意識がスッと、自分の身体の中に戻り(その時目覚めたのか、まだ夢の中なのかわかりませんが)、目を開けた私の枕元に女性が立っていました。
身体はまだ動かず、ただ、その女性だけを見続けました。
顔はよく見えなかったけれど、身体つきや髪型から女性だとわかりました。そして、その女性が見ていたのは私ではないように思われました。
何故かその女性を怖いとは感じず、身体が動かないことの方が恐怖でした。たぶん数秒の出来事だったと思います。フローリングの床を、カッカッカッと歩く音がし、私の顔を舐める舌の感触がしました。
その途端、私の身体は動くようになり、起き上がって頭上を振り返ると、女性は消えていました。私は怖くなり、部屋のドアを開けて廊下の電気が入る状態にして、また寝ました。
朝起きて、夢だったのだろうとドアを見ると、ドアは開いていました。
つまり、どこからどこまでかはわかりませんが、あの出来事は本当にあったのです。
あの女性が誰かはわかりません。ただ、その時期に家を売るとかいう話しになっていたので、もしかしたら、家のことを心配していた祖母なのかもしれず、そしてあの私を舐めた物体は、あれは私の死んだ愛犬だったと確信しています。
姿は見えませんでしたが、あの足音、あの舌の感触。間違える筈がないんです。そして彼は、その後も私を助けてくれたのですが、それはまた別のお話しで語りたいと思います。
そして、あの女性が現れたのはその一回だけではなく、その後数回現れていました。その時に見た夢の内容が、最近聞いた父親の昔話と似ており、私は祖母の記憶を覗いたのかな……と思いました。
ちなみに夢の内容ですが、多分戦争中。私はあの家にいて、子供を背負って家を飛び出すんです。見知った道を走り、近所の土手を走り、とにかく逃げなければ、この子を守らなければという気持ちと、自分が、子供が死ぬかもしれないという恐怖でいっぱいでした。
今でも覚えているくらい、はっきりとした夢でした。
二十数年たった今、父親と話しをしていた時、父親の戦争体験の話しになりました。最近でこそ、父親の仕事を手伝っているので父親とよく喋りますが、昔はあまり家にいない父親で、そんなに会話もなかったので、そんな話しをするのは、多分初めてだったと思います。
父親が子供の頃、防空壕に入って母親がくるのを待ったとか、東京大空襲の時は家の防空壕ではなく、もっとしっかりした国の防空壕まで逃げたんだとか言う話しでした。その防空壕の場所が、どうやら土手にあったらしいのです。
終戦の時は三歳か四歳だった父親ですから、きっと逃げる時はオブって逃げたことでしょう。
その話しを聞いた時に、まざまざとあの時の夢を思い出した私は、やはりあの女性は祖母で、祖母の一番強く残っていた記憶を、夢で拾ってしまったのではないか……と、勝手に解釈しました。
もしあれば本当に祖母だったとしたら、バブルが弾けてあの家を手離さなければならなくなり、建物は壊され平地になり、新しくビルが建ったのを見たのでしょうか?
引っ越しをした後で女性を見ることはなかったので、あの場所に祖母はまだ縛られているのか、家が無くなったことで成仏できたのか……。
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