第10話 ゲームの勝敗

 -・*・- オリ視点

「もう一回......もう一回だけやらせてくださいっ!」


 そう言って勢いよく頭を下げたグレイどのを、3人で呆れた目で見た。


「いや、グレイどの何回めですかそれ! 今まで全敗してるんだし諦めた方がいいですよ!」


 デューの言葉にリアムがはは、と苦笑いし、私が頷くとグレイどのはうなだれた。


「......私、なんでこんなに弱いんでしょうか? やっぱりあのときの戦略が、いや、それよりもあれを優先したのが?」


「「「いや、そういうところ」」」


 3人の息が揃ってしまった突っ込みにショックを受けたらしいグレイどのは、しょぼんとしてから小さくすみません......と呟いた。


「......なんていうか、あれですね。めんどくさ」


 何かを言おうとしたデューの頭を軽くはたく。

 そしてごほん、と小さく咳払いしてから口を開いた。


「じゃ、一番優勝回数が多かった私が話をさせてもらうけど」


 ちなみに4回やって4回とも勝った。デューとリアムが2位を半分こ、グレイどのは以下略。

 まぁ勝敗はどうでもいい。それより、最初あんなに意気込んでいたリアムですら、目的を忘れてゲームを楽しんでいたことが問題だ。


「あのね」


 そこで一度言葉を止めて男どもを見ると、全員一緒にびくっとした。仲が良さそうでよろしいことだ。


「この集まりはお遊びじゃないって言ったよね。 今日も話があって来たわけだけど、一体みんなして盛り上がってどうするつもりなわけ?」


「い、いや、オフィーリアどのも楽しそうでした......よ?」


 デューの言葉尻は自信なさげに萎んだ。


「みんないつ目的を思い出すのかと思って。少なくともリアムは、ね?」


 ちらっと幼馴染に目をやると、リアムの目は全力で泳いでいた。つまりどうやら、本当にすっかり忘れて楽しんでいたらしい。

 そしてその楽しさが自分の中にもあったことには気づいていた。だから今はとりあえずいいか、とふぅ、と一息おく。


「まぁ、今はそれは置いといて。本題に入るけどーーリアムと私、トウ国に行くことになったんだよね」


 途端、デューとグレイどのの目の色が変わる。


「ーーそれは、また急ですね。期間は?」


「2週間後から3ヶ月。そして、そのあと3ヶ月かけて地方の村を周りながら帰る予定」


「えっ、つまり半年間お会いできないということですか?!」


「いや、それだが」


 リアムが話し始めたので私は答えようとした口を閉じる。


トウ国との親善、貿易交流が目的ということで、この国の大手商会の代表者を数人連れて行くことになった」


「大手......、ですか」


 連れて行くと聞いて目をキラッとさせたデューは、しかし次の瞬間には不穏な気配を感じ取ったかのように、じろっと半目でリアムを見た。


「あぁ、察しがいいな。お前と、バイロンジュニアも連れて行くことになった」


 すっかりバイロンジュニアが定着したリアムがそう言った途端、デューがヘドロでも見るかのような目をした。

 実際の対象は違うだろうけど、流石に王子相手にその目はいいのか。


(まぁ、王子本人が気にしていないのだからいいのかもしれないけど)


「で、グレイどの」


「は、はいっ!」


 リアムがグレイどのに目を向けると、グレイどのはやや裏返った声で返事をする。


「あなたは残念ながらトウの城へは連れて行けないが......、そのあとの村巡りなら身分を偽った上で一緒に回れると思うぞ」


「は、残念で......はへっ?! 」


 素っ頓狂な声だ。この人、最初からするとキャラがぶれまくっているんだけど大丈夫だろうか。


「で、ですが、わざわざ身分を偽ってまでそんなことをする必要は......、」


「まぁそもそも、俺も王子と明かして村を巡るつもりはないからな。そのためにお付きもオリ1人だから、バレる可能性は低いだろ」


「は、はぁ、そうでしょうか......」


 グレイどのが戸惑ったような目で私を見た。私がリアムのストッパーだと思っているのだろうが、あるじはあっちだ。

 まぁ、私も身分なんて関係なくリアムを止めることはあるけど、今回に関してはそのつもりはない。


「大丈夫です。それに、勉強にもなりますから」


 グレイどのの意志の根底にあるのは、父や兄の犯した罪の償いだろう。それを成し遂げるために、地方の村で暮らす人々の生活を見ることは大きなターニングポイントになるはずだ。

 そういう気持ちを込めて言うと、グレイどのはハッとした顔をした。


「ーー! そう、ですね。確かにとても良い機会ですよね......。同行させて頂いてもよろしいでしょうか?」


 リアムがにっ、と笑う。


「だから、俺が来て欲しいと言っているだろう? 遠慮しないで付いて来い!」


「そうですよ、殿下には全く遠慮はいらな、イタッ!」


 本日二度目の鉄拳をデューの頭に落としてから、私も笑みを浮かべた。


「楽しみにしてる」


 私たちの言葉に一瞬目を見張ったグレイどのは、だがすぐに涙の滲んだ笑顔で、よろしくお願い致しますと頭を下げた。

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