第8話 今はまだ
-・*・- オリ視点
「失礼致します、陛下」
「ああ、リアム。オフィーリア君も入りなさい」
リアムが入ったのを見届け、お話が終わるまで廊下で待っていよう、そう思ったのも束の間、陛下にそう言われ、一礼して部屋の中に入った。
「さて、いきなり呼んでしまってすまないな」
「いえ。ですが、何か至急の用事でもあったのですか、陛下」
入れてもらったとはいえ私はただの騎士。直接話しかけられたときを除き、受け答えは全てリアムが行う。
だが、私まで呼ぶ必要のあることーーとなれば、何らかの外出予定でも入ったのだろうか?
「至急、と言えば至急だな」
にや、と笑った。
凄まじく嫌な予感がするが、もちろんそれを顔に出すわけにはいかない。
(あ、リアム、顔に出ちゃってるね)
いや、あの顔は隠すつもりがないのだろう。
「はは、素直だなリアム。少しはオフィーリア君を見習いなさい。ーーと、さて、あまり時間がないので本題に入らせてもらうが、リアム、お前は外を出歩くのが好きなようだな」
今度ぎくっとさせられたのは私だった。対してリアムは、むしろバレたなら仕方ないか、とでも言いたげに堂々とニヤッとした。
......堂々とニヤッとしたってなんなの、と自分でも思うけど、あれは堂々とニヤッとだ。
「ええ、民の暮らしを間近に感じてこその政治ですから」
「なるほどな。では、そんなお前ならお手の物だろう。リアム、
(ーーーーなっ)
「
リアムが驚きの声を上げる。私も思わず目を見張った。
ーーそして。私にとって彼の国は、それ以外の重みも持っていた。
「そうだ。あちらで他国のことを学び、次世代との繋がりを作ってこい。 そして、帰りは地方の村を巡りながら、王都以外の民の暮らしも学んでくるのだ」
「ーーは、それは......また、長いですね」
「王になれば簡単には出歩けなくなるからな。今のうちに民の心を学んできなさい。出発は2週間後。それまではお前の仕事は他の者に割り振るのでな、よく準備するように」
「ーー承知致しました」
リアムがサッと礼をする。陛下はそれを見て軽く頷くと、私の方に目を向けた。
「して、オフィーリア君」
「は」
すぐに返事をしたつもりだが、私が動揺したことに陛下は気づかれただろうか。
失礼にならないようゆっくりと視線をあげると、視線が合わさった瞬間、陛下はふっ、と顔を綻ばせた。
「そなたにとって
王太子を頼む、わざとそう仰ったのは、私にこの護衛の重みを感じさせるためだろう。やはり、陛下直々のお言葉はとても重い。だが、私は元よりリアムを守り抜くとはじめから心に決めている。
「ーー必ず、お守り致します」
恐らくは、その言葉を口にした私の表情が硬いものだったからだろう、言葉を聞いた陛下が私を憂うように微笑んだ。
「何度でも言うが、心配ない。かつては彼の国の孤児とて、今はこの国の民、そしてリアムの護衛騎士だろう」
陛下のその言葉の温かみは、私の悩みが事実それであったなら、どれだけ私を癒しただろう。ーーけれど、実際の私の今を思えば、表情の本当の理由を考えれば、その言葉はむしろ棘を持つ。
(でも。今はまだ、それを悟られてはいけない。全ては、リアムのために)
その覚悟を笑顔に。瞳に宿して。
陛下の顔を一度見上げ、頭を下げる。
「ーーお気遣い、感謝致します」
陛下は満足そうに深く頷いていた。
-・*・-
「ーーというお話をうけましたので、私も
「はは、そうか! それは僥倖! あの王太子がいない間に色々と進められようぞ!」
嬉しそうに叫んだ男の顔がニタァ、と卑しい笑みに歪んだ。
「ーーあぁ、あの国が我が国、
「えぇ、必ず」
顔全体に貼り付けたのは、嘘の笑み。
それでも男は満足そうにふふふ、と笑った。
(当たり前だ。この笑みを見抜けるのは、見抜けたのはただひとり、リアムだけだから)
そしてこれは、リアムのための、嘘。
だから、今はまだ彼にこの顔を見られるわけにはいかない。
あの日、私を救い上げてくれた彼に報いるために。
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