第3話【無口な月】

今、月9のテレビドラマに出ている女性。




アイドル兼女優の道を歩み始めた彼女は、実は僕の幼馴染だ。でも残念なことに彼女には、もう昔の面影がまるでなかった。彼女と一緒に遊んだ記憶は、今となっては自分の妄想ではないかと疑うほど、色褪せてしまった。……それでも僕は彼女の活躍を心から願っている。








思い出す。






夏だと言うのに、肌が焼けないように長袖を着ていた彼女を。








思い出す……。






勝手に合鍵を作り、僕のアパートを我が家のように出入りしていた彼女を。








思い………………。






夕方から深夜まで二人でチューハイを飲み続け、お互い意味のない話で盛り上がったこと。携帯の写真には、彼女がワケの分からない不思議なポーズをして、僕を笑わせようとしている無邪気な姿が残っていた。








CMが終わる前に慌ててテレビを消す。




窓を開け、ベランダに出た。






「さむッ!」






吸わないと誓ったくしゃくしゃのタバコに火をつける。




吐いた紫煙は、ゆらゆら~と夜の闇に溶けていきーー。






無口な月のせいにして、その夜、僕は彼女の写真をすべて消した。

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