第39話 彼の帰る場所(後編★)

 扉を開けると、そこは夜の村ではなかった。

 荒れたような岩場に目の前には巨大な虹色の螺旋が柱のように高く伸びる。

 風も吹いていないと言うのに、身体を拐われそうになり意識が“虹色の螺旋”に引っ張られる。


 っ……駄目だ。オレは帰るんだ。皆の……レンの所に――


 その時、視界の端に誰かが居た。

 “虹色の螺旋”を見上げるソレは、青い髪に顔には仮面を着け――


「ジン」


 ソレに意識を向けようとした瞬間、名前を呼ばれると共に手を掴まれた。


「――ナタリア?」


 この場に彼女がいる事にジンは驚く。


「なんで……ここに?」

「詳しい説明は帰ってからね」


 そのまま、ジンを引き寄せて深く抱き締める。


「貴方なら帰ってくると信じてたわ」

「……うん。ありがとう」


 包まれる様な安心感に少しだけ心を委ねる。そして、ゆっくり放してもらった。


「帰りましょう、ジン。皆、心配しているわ」

「……」


 ジンは振り返るが、先程のヒトらしきモノは居なくなっていた。


「ジン?」

「……ナタリア。アレは何なんだ?」


 巨大な“虹色の螺旋”を再度見上げると、ジンは問う。


「『世界の記憶アカシックレコード』」

「……あれが?」

「ええ。死した魂が情報に還る場所。本来なら、私達の様な矮小な存在ではこの場所に意識を持って立つことは不可能なの」

「なんでオレ達は無事なんだ?」

「【霊界権能】よ、ジン」


 ナタリアは必要な事だけを説明する。


「今、私達の魂は【霊界権能】によって世界の理とは別のモノへと変わっているの」

「じゃあ……いつでもここには来れるのか?」

「いいえ。それでも、己が魂である事には変わりないわ。永く居れば少しずつ『世界の記憶アカシックレコード』に呑み込まれる」

「……でもオレは、ここに来たときは村だった」

「貴方のご両親が、迷い込んだ貴方を護ったの」


 ジンは家があった方を見るが既に跡形もなく消えていた。

 もう、二人は『世界の記憶アカシックレコード』に還ってしまった。それでも、自分を護ってくれていたと言う事実にジンの瞳にはより強い意志が宿る。

 そんなジンの背を見てナタリアは嬉しそうに微笑んだ。


「ジン、私達は私達の場所へ帰りましょう」

「わかった……でも、どうやって帰るんだ?」


 周囲は“虹色の螺旋”を中心に少しの足場があるだけで世界から切り離されたように静かで何も無い。


「レンの声が聞こえない?」

「レンの?」


 ジンは改めて意識を集中する。


“お兄ちゃん……帰ってきて……私……一人はやだよ……お兄ちゃん……”


「聞こえる」


 レンの声の方向と自分の身体から伸びる“糸”は空間の外へ繋がっていた。


「皆、待ってるわ」

「ああ」


 ジンは“虹色の螺旋”に背を向けると外へ向かって歩き出した。


「…………今暫くお待ちを」


 ナタリアは螺旋を見上げる仮面の男に向かってそう告げると、ジンの後を辿り共に世界へ還る――


https://kakuyomu.jp/users/furukawa/news/16817330668986305299






 ナタリアが魔法を発動してから1分もなかった。

 レンは祈るようにジンの手を握る。すると指にピクリの力が入るのを感じ、ゆっくりと顔を上げると、


「…………レン」


 ジンが目を開け、空いている手をレンの頭に乗せる。


「もう、泣くな」


 その言葉にレンは何かを言うよりも、感情の方が溢れてくる。泣き腫らした目に再度涙を溜めると、そのまま上半身を起き上がらせる兄に抱き着いた。


「おにいちゃん……おにいちゃん……」

「……不安にさせてごめんな」


 そんな妹を安堵させる様にジンも優しく抱き締める。

 すると、魔法陣の発動が停止した様子に外に居たロイ、ジェシカ、フォルド、レヴナントの四人も入ってきた。






「ったくよ! 無茶し過ぎだぜ!」

「ホントよ! 師匠が居てくれたから良かったけど」

「それは違いますよ、ジェシカ」


 場の様子を微笑ましく眺めながらナタリアは告げる。


「私だけではジンを連れて帰る事は出来ませんでした。今回、ジンを救ったのは魔法でも『相剋』でもありません。想いの力です」


 そう語るナタリアの言葉は、大袈裟でも誇張でもなく、限りなく真実に聞こえた。


「とりあえず、過程はいい。ジン、よく戻ったな」

「フォルドさん……迷惑をかけてすみません」

「気にするな」

「ヒヤヒヤさせやがって、ジン坊! これで、レヴも気兼ね無くお嬢に報告出来ると言うものだ!」

「そう言えば、マリーは?」


 元居た面子の中で、唯一マリーの姿だけを確認できない。


「お嬢はマスターに言われて屋敷に帰った。ジン坊が復活した時点でレヴの任務も終わりだ!」

「そうか……」

「ヘクトル領主様まで来たのよ」

「! そうなのか?」

「フォルドさんと話してたみたいですけど……」

「心配するな。ジンが『相剋』を持っている事はヘクトルには話していない。事の重要性は理解しているつもりなのでな」


 フォルドの気づかいにジンは改めて礼を言った。


「大変だったのだろう? ジン、暫く休むといい。レンも離れる様子は無さそうだからな」


 レンはジンが起き上がってから、ずっとしがみついていた。

 そろそろ離れろ、とジンが言っても、ううん……と首を横にふる。ジンは仕方なしに今の状態を受け入れる事にした。


「レンが落ち着くまで少し時間を置きましょう。私は魔法陣を消して来ます」

「あ、私も手伝います、師匠」

「いいえ、あなた達はジンの体験を彼から聞いてあげてください。きっと、驚くと思いますよ」


 そう言うとナタリアは退室し、ジンには他の面子から詰問が入った。






「…………」

「どうかしましたか?」


 ジェシカに描かせた魔法陣の痕跡を入念に消すナタリアの元へ、レヴナントが現れる。

 二人は並べば姉妹のように見えるほどに似通っていた。


「ジン坊は救われた。お前のおかげだと言う事はレヴにも理解できるぞ!」

「ありがとう」

「これで、マスターからの任務も終わりだ! レヴはお嬢の元へ帰る!」

「レヴナントさん。これからもジン達をよろしくお願いします」

「無論! しかし、お前に聞きたい事があるぞ!」

「なんでしょうか?」


 ナタリアは手間をしながらでは失礼に当たると思い、手を止めてレヴナントへ向き直る。


「レヴとお前はとても良く似ている。ならば……レヴについて何か知っているのではないか?」

「……貴女は自分の事を知らないのですか?」

「レヴはマスター達と会うまで記憶がない! 森の中を彷徨っていた所をマスターに出会ったのだ! そこからバトルメイドとしての今がある!」

「ふふふ」

「ぬぬ! 何が可笑しい!」

「ふふ。ごめんなさい。貴女が実に幸せそうで」


 と、ナタリアは身内の前で見せるような幸せな笑みを作る。それは、レヴナントの今の境遇に嬉しさを感じている様な笑みだった。


「そうですね。私は貴女の事を知っています」

「本当か!?」

「はい。ですが、コレを伝える事で貴女は己の立場を大きく理解します。それでもいいのですか?」

「問題ない! 何たって……レヴはバトルメイドだからな! 何を知ろうとも、それだけは変わることは無い!」


 レヴナントの言葉にナタリアは、少しだけ悲しそうな笑みを作る。そして、


「貴女は――」


 ナタリアはレヴナントの全てを彼女に伝えた。






 魔法陣の消去作業を終えるとナタリアは店内に戻る。すると、フォルドが店内に並ぶ装飾品を確認していた。


「レヴナントは帰ったのか?」

「はい。任務は終わったと」

「そうか」


 ナタリアは四人の居る部屋の扉を見るが、まだ話しているのか楽しそうな声が聞こえてくる。


「ジンとレンの保護者だそうだな」

「成り行きです。それに、私はほんの少しだけ手を差し伸べただけです」

「ジンとレンの教養を見る限り、そうとは思えんよ」


 ジンを救ったナタリアの事は只者でないとフォルドも理解している。それに、


「貴女の事はどこかで見たことがある」

「長い間、世界各地を旅しています。フォルド様は老練の『エルフ』のようですし、どこかでスレ違ったのやもしれません」

「いや……もっと根本的に……ああ、思い出した。10年前だ」

「10年前……ですか? 確かにこの街には寄りましたが、この店に入った覚えは……」

「いや、セバスチャンと名乗る紳士が“写真”でそなたを捜していた。見つけたら連絡をするようにと」


 フォルドはその時セバスに渡された青い封書をカウンター下の棚から取り出すとナタリアに見せる。


「『勇者』が捜していると言っていた。今となって意味はないが……関係があるのか?」

「目立つことは好きではないのですが、稀に私を見つけようとする者がいます。大抵は無理難題なので、常日頃からコソコソしていまして」

「……一つ確認させてもらえるか?」

「何でしょう?」

「貴女はどこかの王族か? それか……格式の高い名家の血筋か?」


 フォルドの問いにナタリアは即座に首を横にふると、丁寧に返す。


「私は、ほんの少しだけ長生きしているだけの旅の魔術師です。フォルド様の思っている様な者ではありません」


 意識せずとも丁寧な佇まいにてナタリアは答える。

 そう言う所作が旅をしている者には不釣り合いだとも思ったが、本人が否定する以上は何か事情があるのだと察する。

 すると、奥の部屋が開き四人が出てきた。


「ナタリアさん!」


 そう明るく声を出すレンはナタリアに抱き着く。


「ありがとう……本当に……お兄ちゃんを助けてくれて……」


 そんなレンにナタリアも微笑み返しながら抱き締め返した。






 それから、五人で夜の『収穫祭』を回った。

 特に美人なナタリアは、この付近では有名なレヴナントに似ている事もあり、彼女の身内かと聞かれたりして、祭の中に溶け込んでいく。


「ナタリアさんって、レヴナントさんと知り合いとかじゃないの?」

「私も驚きました。けどね、レン。世の中には自分と似た人間は三人いるのよ?」

「え!? つまり……このスーパーレンちゃんが世界には後二人も……」

「うるさくて敵わんな」

「兄さん……今日は許す! 好きなだけ悪態を吐くが良い!」

「なんで、上から目線なんだよ……」

「ふふふ」

「師匠、さっきの魔法。どういうモノ何ですか?」

「それは私の口から答えを言うのは簡単ですが、ジェシカはもう、魔術師なのではなくて?」

「そうです! テーマも決めました!」

「でしたら、探究しなさい。手帳に残した図がヒントですよ」

「それよりも、リア姉。俺の噂聞いた?」

「あら、何でしょう?」

「『霧の都』……その生存者!」

「この国もだいぶ危うい時期です。しかし、ロイ。“三災害”を生き延びた貴方の存在は大きな希望となるでしょう。己の道を信じて歩んで行けば、立派な騎士になります。今も立ち方から腰に差す剣はとても様になっていますよ」

「へへへ」


 勇者領地に『霧の都』が現れた事は周辺諸国に居れば知れずと分かる事だった。


「ジン!」


 その時、声をかけられた。振り返ると、徒歩で警邏していたカムイが人混みを分けて近寄ってくる。


「カムイさん」

「ジン……無事なのか? 身体の調子は?」

「少しフラつきますけど、概ね大丈夫です。寝ているよりも身体を動かした方が良いそうなので」

「そう……か……良かった……」


 ジンの肩に手を置いてカムイは心から安堵する様に息を吐く。


「レン、さっきはすまなかった。ジンが死んだなどと不謹慎な事を言ってお前を不安にさせた」

「ううん。カムイさんは私達の事を考えて憎まれ役になってくれようとしたんでしょ? レンちゃんは、それくらいの事を気にしたりしません!」

「しかしだな……」


 レンはそう言うが、カムイとしては何かしらの償いを考えていた。


「カムイさん。この通り、オレは大丈夫ですから。そんなに気にしないでください」

「む、そうか……」


 何かあったらいつでも頼ってくれ、とカムイはナタリアにも一礼すると警邏へ戻っていった。


「とても良い方ですね」

「あ! ナタリアさんの事……紹介し忘れちゃった」

「構いませんよ。私も、そう多くの時間は残されていない様ですから」


 ナタリアから、ぽたぽたと水が垂れる。この場に仮初めとして存在する事が限界に近づいていると告げた。






「そうか、ジン君は無事か」

「詳しくは知らないが、とにかく元気だったぞ! ジン坊に関しては心配はいらないとレヴは断言できる!」

「ご苦労だった、レヴナント。また、マリシーユの側に就いてくれ。特に今の時期は目を離さぬように」

「わかった」


 それだけを告げるとレヴナントは出て行った。


「ふむ、何かあったのかな?」


 少しだけレヴナントの様子がおかしい事をヘクトルは察したが、いつもどうでも良い事に対して深刻に悩む彼女のなので、暫くすれば元に戻ると判断する。

 すると、今度はノックが入った。


「ミレディかい? 王都会議での件を急ぎ進める――」

「御父様」


 扉越しに声を出したのはマリーだった。


「休みなさい。お前に出来る事はないと言ったハズだ」

「ミレディから聞きました。私に御父様をお手伝いをさせてください」


 その言葉にヘクトルは椅子からも立たずに応じる。


「子供の手に負える事案モノではない。おとなしくしていなさい」

「……でしたら教えてください」

「教える? その様な手間と時間をかけて何になる? 余計な事を考えている暇があれば――」

「必ず! 必ず……ヘクトル・ヴァルターの役に立つと! 証明致します!」


 扉越しにそう宣言するマリー。ヘクトルは席から立つと扉へ向かい、開く。

 そこには、己の出来る事だけに注目する娘ではなく――より高みを目指す強い瞳をしたマリーが立っていた。


 ヘクトルの見下ろす視線に対して、マリーは強く見つめ返す。


「一週間だ」

「…………」

「一週間で、先程のお前の言葉の真意を図る。偽りがあると私に感じさせるな」

「! 必ず、ご期待にお応えいたします!」

「詳しい事はミレディより学べ。明日からだ。足が不自由でもやるべき事はある」

「はい!」


 そう言ってヘクトルが扉を閉めるまでマリーは頭を下げていた。


「……良くも悪くも、子は親の後を追う……か」


“娘が苦手? おいおい、頑張れよお父さん。なら、今度オレの息子と娘を連れてくるわ。ジンとレンはきっと友達になるぜ”


「……ゼノ、君の代わりに子供達の生きる時代を護ろう」


 ヘクトルは再開した時の王都会議を思い返す。






 ヘクトルが会議室に入った時には、既に全員着席していた。


「ヘクトル殿、ご着席を。再び意見を交わし合いましょうぞ」


 セグルは休憩間際の時よりも余裕を見せていた。その様子にヘクトルは確信する。

 こちらに有無を言わさない手札――マリシーユの命を握っていると。しかし、それが失敗したと言う報告はまだ受けていないようだ。


「どうしました? ヘクトル殿。着席を――」

「フハハ! 失礼ながら、身内に少し不幸がありましてね! 本日はここで失礼致しますよ!」

「ヘクトル殿。先程は少々中途半端に終わりました。故に『転移魔法』に関しまして深い議論を――」

「その件は他に譲る気はありませんよ! その証拠にここで宣言致しましょう!」


 ヘクトルはセグルへ鋭い視線を向けて告げる。


「王座へは私が座ろう。そうしなければ我、領民、親友、家族が護れぬのなら、この国で最も価値のある席を全てを賭して取りに行く」

「なっ……その言葉の意味を――」

「理解している。フハハ! 諸君!」


 ヘクトルは身を翻すと、


「貴殿らの領地にも足を運ぶ事があるだろう! その時はよろしく頼む!」


 では! と言い残し、会議の場を去った。






「ほっほっほ。そうかそうか、ヘクトルが座を狙うか」


 勇者領地の騎士団のキャンプにて、ニコラから連絡を受けたナルコは、嬉しそうに笑った。


「ですが、ヘクトル公はだいぶ出遅れてます。今は利益を前に出すセグル公の方が優勢ですね。まぁ、他の候補者があまり意欲的じゃないってのもありますが」

「王の居ない国も存在する。しかし、そんな国ほど外からの圧力に対して弱く脆い。迷う思想や意志を固める為にも王は何よりも必要じゃ。特に『魔王』などと言う単身で国を滅ぼす存在が居るとすれば尚更のぅ」

「俺としましては、ヘクトル公に一票ですね」

「ほほう? 理由を聞こう」

「セグル公は何か嫌なので」

「ほっほっほ。そうじゃな、何気ない印象。そして、導く力を持つと理解させる言葉。それを持つ者がこの国唯一の席に座するじゃろう」


 どれ、面白くなってきたのぅ。とナルコは誰が王座に着くのか、楽しみに待つことにした。






「ここで良いでしょう」


 ナタリアは自らの限界が近い事を告げ、人気の無い街の外壁沿いにジン達とやってきた。


「リア姉ともお別れかぁ。もう少し居る事って出来ないの?」

「私もそうしたいのですが、より本体に近い力を持つ為に時間を短くしなければなりませんでした」

「師匠は今、どこに居るんですか?」

「私は隣の大陸にいます。そうですね……大国ヴァンディールが近いでしょう。つい最近、女王レティシアより彼女の兄――アレン王子の葬儀が行われ、少し参加しました。国を上げての霊祭だったようです」

「ヴァンディール……よかった、届いたのか」


 ナタリアの言葉にロイは一人で納得する。


「これからは……師匠を喚ぶことが出来なくなるんですね」

「うう……ごめん。私が香水を全部こぼしちゃったから」


 責任を感じるレンの頭にジンが手を置く。


「一年前のあの日から、オレ達はオレ達の道を進むと決めた。その決意が変わらないならナタリアとは道の先で出会えるハズだ」


 ジンの言葉にナタリアは嬉しそうに微笑む。


「ジン。私は一つだけ間違ってました」


 まっすぐ見つめてくる彼女の言葉にジンは少しだけ驚いた。


「貴方には『相剋』を使うものではないと教えましたが、逆にソレは危険だったようです」

「そんな……ナタリアは悪くない。オレが勝手に自惚れたんだ」


 ジンの言葉にナタリアは首を横にふる。


「いいえ。蓋をするべきではありませんでした。ジン、貴方は『相剋』の理解を深めるべきです」

「『相剋』を……?」

「ええ。前にも言ったでしょう? 『相剋』は貴方の一部。故に可能であるハズです」

「けど……独学じゃ危険すぎる。また、今回みたいになったら……」

「世界は広い。同じ能力を持つ者は貴方が『霊界』へ入った事を察知したハズです。今回の件を記事にしてもらい、国内に情報を広げるのです。真実を理解した者は、あちらから接触してくるハズですよ」

「あ」


 と、ジェシカが声を上げた。

 全員が彼女を見て、同じ能力者に心当たりがあるのだと察する。


「どうやら、思ったよりも近くに居る様ですね」


 後顧の憂いも無くなったナタリアの身体は少しずつ色が落ちる様に水になり始めた。


「ナタリア」

「リア姉」

「師匠」

「ナタリアさん」


 レンはそんなナタリアに抱き着き、ジン、ロイ、ジェシカも最後まで彼女の暖かさを忘れない様に身を寄せる。

 そんな四人をナタリアは優しく覆った。


「私はいつでも貴方達を見守ってるわ。四人とも仲良くね」


 その言葉を最後にナタリアの身体は完全な水に還ると、地面に小さな水溜まりを作る形で消失した――





――世界復興歴13年――

 世界にとってはたった半日の出来事だったけど、今思い返せばあの日の出来事があったからこそ、オレは自分の帰る場所に後悔が無いのだと思えるのだ。


「……」


 ナタリアは最後までオレ達を愛してくれた。だから彼女は世界を救ってくれたんだ。


「――『陵墓』には“呼び水の花”が咲いてるかな?」


 と、オレはやってくる足音に視線を向け、扉を開けるであろう彼女の名前を呼ぶ。


「お帰り、ナタリア」

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