失敗作

第1話

 俺は異世界転生した。

 普段通りの高校からの帰り道、何も考えずにボーッと歩いていたら急にトラックがこちらに向かってきた。

 俺はボーッとしていた為、それを避けることが出来ず、そのままぶつかってしまった。

 その後、病院に救急搬送されたが、死んだ……らしい。

 死んだ後、神様に会い、どういう経緯で死んだのかを伝えられた。

 神様は若くして死んだ俺に慈悲として、ある能力を持たせて、異世界に転生させてくれた。

 そして今に至る。

 転生させてもらえるのは、非常にありがたい事なのだが、何故森の中なのだろうか。

 周りには木ばかりで、建物が見つからない。

 街がどこにあるのか分からないが、歩いていれば見つかるだろうという考えでとりあえず足を動かす。

 そういえば神様は俺に何かしらの能力をくれたらしいが、どんなやつなんだろうか。

 発動の仕方は指を鳴らすだけでいいと言っていたが。

 とりあえずやってみるか。

 俺はパチンッと指を鳴らしてみた。

 そうすると、特に周りに変化はなかった。

 炎が発生するわけでもないし、電気が出るわけでもない。

 結局何だったのだろうか。

 何か物がないと発動しないのか、はたまた俺が変化に気づいていなかっただけなのか。

 てか、なんで神様は能力の詳細を教えてくれなかった。

 別に教えても良かったと思うのに。

 まぁいい。

 とりあえず今は街を探すことが最優先だ。

 そんな事を言って3時間経った。

 未だに街は見つからない。

 というか、まず森を抜けれていない。

 どうしようか。

 辺りももう暗くなってきた。

 このまま適当に歩いていても森を抜けることが出来ない。

 もう森で寝る準備をした方がいいのかもしれない。

 お腹も空いてきた。

 ……!?

 どこかで声がした。

 恐らく人の声だろうが、この世界の事を知らないのに人と断定するのは良くない。

 とりあえず声がした方に向かおう。

 それがもし人だったのならば、町へと連れていってくれるかもしれない。

 俺は声がした方に足を進める。

 しばらく進むと洞窟が見えた。

 恐らく洞窟から声が発生していたのだろう。

 洞窟にゆっくり近づいて、中を覗くと、そこには今にも襲われそうになっている3人の女性の姿とズタボロにされている男性の姿、その前には醜い大きい化け物がいた。

 バランスが悪い体型、お腹が出ていて、腕が細いが、足は太く短い。

 舌を出しており、口からはヨダレがたれ、手には棍棒を持っている。

 顔はよく見えないが、目と口が非常に大きいことは分かる。

 しかし、顔自体はあまり大きくはない。

 この光景を見た瞬間、俺は急いで中に入る。

 俺を見た女性達は、目を輝かせて嬉しさを顕にしている。

 しかし、俺は何も考えないでとりあえず中に入ってしまったため、非常に焦っている。

 顔では安心を装っているが、紛れもなく心は焦っている。

 さぁ、どうしようか。

 取り敢えず、指を鳴らそう。

 パチンっと指を鳴らすと、化け物の動きと女性達の動きが止まった。

 時間を止める、そういうチート能力か。

 しかし止めたはいいものの、どうやってこいつを倒せばいいんだろうか。

 とりあえず殴ってみよう。

 化け物を殴ってみると、気持ち悪い感触が一瞬手に広がったが、すぐにその感触はなくなり、化け物は吹っ飛び、洞窟の壁に埋まったまま動かなくなった。

 え、強。

 チートやん。

 というか、この時間を止める現象をどうやって終わればいいんだ?

 勝手に終わるのか?

 けどさっき、森で指を鳴らして、今動いてたんだったら時間経過で終わるっぽいな。

 じゃあ待つか。

 そう言って5秒後、女性達は動き始め、化け物が目の前で倒れている光景を目にし、目を丸くさせている。

 その女性の中の一人が俺に近づいてきて、

「ありがとうございます」

 と言ってくる。

「どういたしまして。あなた方だけでも無事で良かった」

 俺はそう返す。

「一瞬で何をしたかもわからなかったのですが、どうやって倒したのですか?」

「時を止めてその間に倒したんですよ」

「時を止めるなんて……。凄いですね」

 このような会話をし、俺は彼女達が住んでいる町へと案内をしてもらった。

 そして俺はこの町で色々なクエストをこなし、助けた三人の女性達とハーレム生活を過ごしていた。

 本当にチートさまさまだな。

 そんなある日、いつもより少し難しいクエストを受けることにした。

 いつも通り彼女達とクエストの場所である森の中に向かい、目的の敵と対峙する。

 俺はいつものようにパチンッと指を鳴らし、時間を止めた。

 この後何しようかなぁなど呑気なことを考えながら、いつものように敵を殴ろうとしたが、当たっていなかった。

 あれ?

 もう一回殴ろうとしてもまた当たらない。

 まさか……物理攻撃が効かない敵か。

 …………どうすればいい。

 本当にどうすればいい。

 俺は魔法など覚えてない。

 このままだと負けてしまう。

 彼女達は魔法を覚えているが、このレベルの相手に通用するとは思えない。

 勝てない……?

 いや、そんなことはあってはいけない。

 逃げるか……?

 いや、そんなことはプライドが許さない。

 そんな姿を彼女達の前で見せられない。

 俺は最強でなければいけない。

 いや、俺は最強なんだ。

 この世界で一番強い。

 こんな敵に負けるはずがない。

 負けてはいけないんだ。

 グサっ。

 腹に敵の腕が貫かれる。

 腹に穴が空いた。

 トラックにぶつかった時よりも大きな痛み。

 声にもならない苦痛の叫びが森中に響く。

 耐え切れず俺はダウンしてしまう。

 痛い。

 苦しい。

 くっそ、ここで俺は死ぬのか。

 この世界に来て俺は最強になったはずなのに。

 いやだ、死にたくない。

 俺はまだ死にたくない。

 なんで俺は魔法を覚えなかった。

 なんで俺はチート能力に頼って、もっと努力しなかった。

 今更後悔しても遅い。

 しかし、それしか出来ない。

 俺が苦しんでいる横で、彼女達の誰かの助けを求め叫ぶ声が聞こえる。

 ああ、そうか。

 彼女達を助けた時にいたあいつもこういうことだったんだな。

 チート能力を貰って慢心して、努力をせずにチート能力が効かない相手に全く対処が出来なくて死ぬ。

 そういうことだったのか。

 つまりは俺もあいつも失敗作。

 小説やアニメの主人公奴等のような成功作とは違う失敗作。

 成功作になる為には努力をしなければなれない。

 チート能力を貰っても、どれだけ慢心せずに努力を出来るかで成功作になるか、失敗作になるか変わる。

 それか、全てに対応できるチート能力を貰える運があるか。

 どちらも満たしてない奴はこうなる。

 誰かが助けに来た。

 さぁあいつはどうなるか。

 それは俺には知る由もない。

 俺は静かに目を閉じた。





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失敗作 @amazakura_midori

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