第8話 王国軍の急襲
魔城・謁見の間。
「ロージ! 助けに来たぞ!」
勇者ヒイロは仲間――ダゲキ、マギカ、イェルに王国軍の兵士たち――とともに、城に乗り込んだ。
「ヒイロ……」
ロージはどう言えばいいのか分からなかった。
ヒイロはロージが捕虜として捕まり、ひどい目にあわされていると信じきっている様子だ。
魔女王は落ち着いた様子で王座に座り、魔族の兵士たちは槍や剣を手に持ち三幹部と魔女王を守るように王国軍の前に立ちふさがる。
ロージは三幹部とともに魔女王の隣に控えている。
「勇者よ、アレが捕虜にされた少年か? 捕まっている割には縛られてもいないようじゃが」
ひげをたくわえた初老の男性があごひげを撫でながらヒイロに話しかける。
「おうおう、人間の王サマが直々においでくださるとはなァ! よほどの勝機があると見た。今まで勇者に任せきりで自分は表に出てこなかったくせになァ!」
獅子若丸は咆哮を上げる。
――あの男性が王様なのか。
ロージは第一印象から話が通じる人間ではなさそうだな、と直感で悟った。
「ヒイロ、聞いてくれ! 魔女王――ノルンさんは悪い人じゃないんだ! 世界の滅亡を食い止めようとしてて――」
「そうじゃな、悪い人じゃないな」
王様はひげをいじりながら退屈そうに言う。
「――だって、『人』じゃないからのう。悪い魔族、というのが正確じゃろう。まあ魔族は全員悪じゃがな」
「アンタには言ってない!」
ロージは思わず怒鳴る。王様は気分を害したようだ。眉根を寄せる。
「おい、勇者よ。何なんじゃ、あの少年は。ワシに対して失礼すぎない? ワシ、王様よ?」
「すみません、彼は記憶喪失なんです」
ヒイロは申し訳無さそうに王様に謝る。
「俺はカミジョー・ロージ。チキューから来た流れ者の人間だ」
「ほう、チキューからのマレビトか。で、そのチキューからの客人が、何故魔女王の肩を持つ」
王様は胡散臭そうな顔で腕組みをする。
「魔女王が死んだらこの世界は滅びるんだ! 俺は魔女王にチキューに帰してもらう約束をしているし、ノルンさんが死んだらアンタらだって無事じゃ済まないんだぞ!」
「あ~、それ、魔族の神話じゃろ? 魔女王が生まれたと同時に世界が創られたみたいなアレじゃろ? そんなん魔族の作り話じゃから」
「は?」
ロージだけでなく、魔族たちが揃って顔をしかめる。
「陛下、ロージの数々の非礼、誠に申し訳ありません。おそらく彼は魔族に騙されているのです」
「違うんだ、ヒイロ!」
「もしくはアレじゃろ、魔女王に洗脳されてるんじゃろ。魔女王がこの世界の全ての魔法を使えるのは噂に聞いておる」
「俺は洗脳なんかされてない!」
確かにノルンさんはすべての魔法を使えるって言ってたけど、俺はいたって正気だ。
「――……どうも、話が通じる相手ではなさそうですね」
今まで事態を静観していたノルンさんがため息とともに口を開いた。
「そうじゃな、お前さんとは話し合いをするつもりはない。せめて人間の女じゃったらこの美貌、側室にでもして国ごと吸収合併で手を打ってやっても良かったんじゃがのう」
「……最低。人間がみんなロージさんみたいな方だったら良かったのに」
ノルンさんは軽蔑を込めて王様を睨みつける。
「やはり魔族と人間はわかりあえませんわね」
苦虫を噛み潰したような不快感を露わにした顔で、神楽姫は言った。
「わかりあう必要なんかねえさ。昔っからひりつくようなタマの取り合いしてきただろ、俺達は」
ダゲキはコキコキと手の骨を鳴らす。
「マギカ、準備はいいか? 勝負はお前の手にかかってる」
「う、うん! 素早さ上げまくったしやってみせる!」
ヒイロが耳打ちすると、マギカは気合を入れた。
「交渉決裂、ですか……まあ、魔国サイカに火を放った時点であなた方の罪は追及させていただきますが」
「そういうのは勝ってから言うもんじゃ、魔族の小娘」
魔女王と王様は互いの軍を挟んで睨み合う。
「――魔国と王国の全面戦争だ!」
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