第3話 カミジョー・ロージと勇者ヒイロ

 俺の記憶。もともと現代日本で生きていたことと、現代の知識はある。名前も、漢字は思い出せないけど一応言える。

 しかし、現代日本での俺は何者だったのか、どんな生活をしていたのかは思い出せない。

 ひとまずユニコーンを森に返し、ロージはヒイロと名乗る甲冑の少年に連れられてコクリと呼ばれる小さな町に入った。

 「俺達は魔女王を倒すために旅をしているんだ」

 酒場でジュース――この世界にアルコールの年齢制限があるのかは知らないが、一応全員ノンアルコールを飲んでいた――を傾けながら、ヒイロは言った。

 「俺は自分で言うのも恥ずかしいけど、勇者って呼ばれてる」

 「ハハッ、実際王様に勇者として認められて、こうして魔女王退治の任まで仰せつかってるんだからいいじゃねえか。俺は格闘家のダゲキだ」

 「……ボクは僧侶のイェル……よろしく」

 「私は魔法使いのマギカよ。私達四人は幼馴染で、一緒にパーティを組んでるの」

 「へえ、幼馴染」

 四人の自己紹介に、ロージは相槌を打つ。

 「俺達は小さな村に住んでたんだけど、魔女王の放った魔物に村を滅ぼされて、復讐を誓ったんだ」

 「魔女王のヤロー、自分の放った魔物に責任を取れないとか言い出しやがって……」

 「え? もう魔女王には会ってるの?」

 ダゲキの悔しそうな言葉に、ロージは疑問を挟む。

 「ええ、何度かサイカの魔城には行ってるんだけど――あ、魔女王の城は魔国サイカにあるの――、強すぎて全然歯が立たなくて、今立ち往生してるとこ」

 「そういえば……ボクたち、レベルアップするためにアヤカシの森に行ったんじゃなかったっけ……?」

 「そうだった!」

 イェルの言葉に、マギカはハッとした顔をする。

 「いや、レベルアップ以上の収穫はあったと俺は思ってる」

 ヒイロはロージを見ながらそう言った。

 「魔女王の支配下にある魔物を操れるモンスターテイマーがいれば、もしかしたら戦況が有利になるかもしれない」

 「え、俺……?」

 「頼む、俺達に力を貸してくれないか? このパーティに加わってほしい」

 ヒイロは深々と頭を下げる。

 「いや、急にそんなこと言われても……」

 「頼む! 一回魔女王に会うだけでいいから!」

 「その魔女王と戦闘して、死んだりしない……?」

 「そのへんは大丈夫だ、戦闘に負けても教会まで飛ばされるだけで、誰も死なない」

 「……ゲームとかでもそういうシステムあるけど、どういう仕組みなんだろうな、あれ……」

 「? げぇむ?」

 「いや、こっちの話。――仕方ないな、まあ死なないならいいか」

 「ありがとう、ロージ!」

 ヒイロは感激してロージの手を握った。

 「話は決まりだな。よっし、パーティの新顔に乾杯しようぜ!」

 「かんぱーい!」

 ダゲキとマギカはジュースの入ったジョッキを鳴らした。

 「そうだ……ロージくんのぶんの装備、用意してあげなくちゃ……」

 「そうだな、流石に丸腰で魔女王に挑むのは危なすぎる。このコクリの町の装備屋で新調しよう」

 話がとんとん拍子に進んでいく。

 俺、多分この世界では何もできないと思うんだけど、大丈夫かな……。

 ロージは一抹の不安を覚えたという。

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