第2話 少年の目覚め

 その少年が目を覚ますと、深い森の中にいた。

 辺りを見渡しても木、木、木。見上げれば空は灰色。

 ここはどこだろう。

 少年はしばらく茫然と立っていたが、やがてあてどもなく歩き出した。

 ここにいても助けはまず来ないだろうし、とにかくこの森を出なければいけない。

 途中で木の実か何か、食べ物が手に入るといいのだが。

 見慣れぬ場所にひとり放り出されたわりには、自分でも驚くほど冷静だった。

 とりあえず獣道のできている方向に歩いていると、ざわざわと草が動く音がした。

 人間? いや、森に棲む獣かもしれない。もしも熊だったら丸腰の状態ではまず間違いなく死ぬ。

 少年は注意深く近づいて様子を見ようとしたが、相手のほうが早かった。

 背の高い草むらから飛び出したそれは、現代日本にいるような生物ではなかった。

 見た目は白馬のようだが、一本の長い角が生えている。

 ゲームで見たことがある。確かユニコーンとかいうやつだ。

 少年は都会ぐらしで競馬に行くような年齢でもなかったので、馬をこんなに間近に見たのは初めてだ(厳密には馬とは違うらしいが)。

 あまりに美しいそのユニコーンに見惚れ、ユニコーンも澄んだ瞳で少年を見るだけで、お互いに見つめ合うような形になってしまった。

 そこへ、

 「おい、君! そんなところで何してるんだ!」

 甲冑に身を包んだ自分と同じくらいの年頃の少年が、自分に声をかけた。

 「なにボーッとしてんだよ! そいつユニコーンじゃねえか!」

 「しかも装備もなし!? 早く逃げて!」

 「突き殺されるよ……」

 その甲冑の少年の仲間と思われる人たちも、口々に騒ぐ。

 その喧騒に興奮してきたのか、ユニコーンがブルル、と鼻を鳴らし、四人パーティを睨みつける。

 「待ってくれ! こいつは多分敵意はないんだ!」

 少年はなだめるようにユニコーンの背に触れる。

 ユニコーンは、おとなしく地面に伏せた。

 「嘘っ!? 乙女でもないのにユニコーンを操ってる!?」

 「おいおい、ナニモンだよお前は!?」

 いかにも魔女のような格好をした少女と、いかにも格闘家といった風貌の男が驚く。

 ――なんだろうここ、RPGみたいな世界観だな。

 少年はまだ寝ぼけたようにぼんやりと考えていた。

 「すごいな、君、もしかしてモンスターテイマーなのかい?」

 甲冑の少年はキラキラした瞳で少年を見る。

 「モンスターテイマー?」

 「魔物使いのことさ! 魔女王の支配下にある魔物を操ることが出来るなんてすごいよ!」

 魔物使い? 魔女王……?

 「うーん、俺、夢でも見てるのかな……」

 この鎧を身に着けた少年やその仲間たちの服装を見るに、どうも自分がいた現代日本ではなさそうだな、と思う。

 こんな森の中でコスプレしてるわけでもなさそうだし。

 「つかぬことをお聞きしますが、ここはどこでしょうか……?」

 「どこって……魔国サイカの近くにある『アヤカシの森』だけど」

 まこくさいか……? あやかしのもり……?

 うーん、ますます分からん。

 「君、もしかして記憶喪失なのか……? 自分の名前は言えるかい?」

 「……俺は……ロージ。カミジョー・ロージだ」

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