ネイバーランドの魔女王ノルン
永久保セツナ
第1話 魔女王と勇者
『魔女王』と勇者一行の戦いはあまりにも一方的なものだった。
「くそっ、なんて硬い氷の壁だ……!」
「俺の氷柱割り(つららわり)も効かねえぞ、どうなってやがる!」
勇者ヒイロと格闘家のダゲキが剣と拳でどうにか壁を壊そうとするが、ヒビ一つ入らない。
薄く透き通った壁の奥には、羊のような角を生やした魔族の女性が佇んでいる。
彼女こそが、世界に散らばった魔族や魔物たちを統べる女王、人呼んで『魔女王』である。
「そろそろ諦めてお帰り願えませんか。あなた方と争うのは本意ではありません」
「黙れ! お前を倒さなければ世界が滅びるんだぞ!」
落ち着いた口調で諭すように話しかける魔女王に、ヒイロは激昂し怒鳴る。
「そうよ! 魔物に滅ぼされた私達の村を返してよ!」
「……」
魔法使いのマギカが叫ぶと、魔女王は言葉を詰まらせる。
「……あの、その魔物とやらの責任も私が取ることになるのでしょうか?」
「なに?」
魔女王の言葉にヒイロが眉を寄せる。
「正直世界中に散らばった魔族や魔物の管理まで手が届かないというか……その魔物に関しては直属の魔族に注意と処罰を下しますので何卒……」
「一番上が責任を取るべきだろ!」
「そうだそうだ!」
なんだか記者会見のような様相を呈した戦闘である。
「いずれにしても魔女王は一刻も早く殺さなければならない。『災禍の魔女王』になる前に!」
「ですから私も『災禍の魔女王』になるのを食い止めるために研究を進めていると何度も申しておりますのに……殺されるのは困ります勇者様……」
「そもそも陛下の『拒絶の壁』も突破できないくせに戯言を抜かしよるわ。陛下、もう謁見は終了でよろしいですね?」
魔女王の手下であるライオン型の獣人――獅子若丸(ししわかまる)がヒイロたちの前に立ちふさがる。
「獅子若、あとはよろしくお願いします」
「待て、魔女王! 戦いはまだ――」
「帰れ、人間ども!」
獅子若丸の放つ俊敏な剣技に、勇者たちは全滅してしまった。ヒイロたちの身体は光に包まれ、パシュンと城外へ飛んでいく。おそらくは最後に訪れた教会へ送り返されるのだろう。
「お疲れ様でした、陛下」
「魔族の管理体制を見直さないと、また人間が殴り込みに来るかもしれませんね……」
雪女の修羅雪姫(しゅらゆきひめ)が魔女王にタオルを手渡し、魔女王はそれで汗を拭く。
「ふん、人間ごとき、我ら三幹部が必ず陛下をお守りいたしまする」
妖狐の神楽姫(かぐらひめ)が扇子で口元を隠しながら笑う。
「頼りになる幹部がいてくださって心強いです」
「はっ、畏れ多くございます」
「すべては魔女王陛下のために……」
三幹部はうやうやしく魔女王の前に跪く。
魔女王は汗を拭きながら城の窓を見る。
陽の光の届かないほどに重く垂れ込めた雲が空を覆っていた。
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