第4話 拒絶の壁、攻略
「というわけで再戦だ魔女王!」
「というわけで、と申されましても」
勇者ヒイロが元気よく叫ぶと、魔女王は困惑したようなうんざりしたような顔をする。
「また来たのか、いい加減しつこいぞ人間」
獅子若丸も若干げんなりしている。
「もうこれで何回目の謁見でしょうねえ」
「陛下、もう再起不能にしてしまったほうがよろしいのではありませんの?」
修羅雪姫と神楽姫は魔女王を挟むように控えていて、見下すような目でヒイロたちを見る。
「ふふん、私達が何の策もなく来ると思ったら大間違いよ!」
「どうせまたレベルを上げて物理で殴るだけだろうに。陛下の『拒絶の壁』の前では無意味だぞ」
マギカの言葉にも、はいはい、と言いたげに手を振る獅子若丸。
「陛下」
「――『拒絶の壁』」
魔女王が手をかざすと、魔女王の王座と勇者たちを分断するように平たく薄い壁が現れた。
「くそっ、この氷の壁が厄介なんだよなあ!」
「氷……」
「俺達が剣や拳で攻撃しても物理攻撃では傷一つつかないようだ」
「ふーん、硬い氷……ね」
ロージは注意深く観察する。
氷のわりにはキラキラしていて、剣を叩きつけても効いている感じがしない。氷にしてはおかしい、気がする。
「本当にこれ、氷かな?」
「――なんだって?」
ロージの言葉に、ヒイロは耳を疑ったような顔をする。
「マギカさん、炎魔法って使える?」
「炎魔法? あー、私、炎はちょっと……」
「おいおい、炎魔法は魔法学の初歩で習うやつだろうが!」
目をそらすマギカに、ダゲキは野次を飛ばす。
「仕方ないでしょ、魔法は新しいの覚えていくうちに古いものから忘れていくの! どうせ私は落ちこぼれ魔女ですよーだ!」
マギカはベーっと舌を出した。
――魔法が使えないなら、何か火の元になるものは――
ロージは魔女王の謁見広間を見回す。
壁に松明がかかっている!
「よし、これで……! みんな、その壁から離れて!」
ロージは松明を手に取り、拒絶の壁に投げつける。
透き通った壁は激しい光を放ち、燃え盛っていく。
「氷の壁が……燃えた!?」
ヒイロとダゲキはあっけにとられている。
「やっぱり! これ氷じゃなくてダイヤモンドの壁なんだ!」
「だいやもんど!? って何!?」
「宝石の一種だよ。炭素で構成されてるからよく燃えるんだ」
「タンソってなんだ!? お前さっきから何語話してるんだ!?」
マギカとダゲキは耳慣れない言葉に動揺していた。
「……」
魔女王はロージを静かに見つめていた。
「――ほう。やっと拒絶の壁を攻略したか。気づくのに随分時間がかかったようだがな」
獅子若丸が面白そうに笑う。
「その初めて見るボウズは何者だ?」
「聞いて驚け! 魔物使いのカミジョー・ロージ! 俺たちの秘密兵器だ!」
「――カミジョー……ロージ……?」
魔女王はピクリと反応した。
「魔物使いだと? ほう、魔女王陛下の支配下にある魔物を操れるというわけか。面白い」
獅子若丸はロージに歩み寄る。
「だが、戦闘力はなさそうだな。こんなひょろいボウズ、ひとひねりで――」
ロージが獅子若丸の頭に手を乗せると、
「ごろにゃん」
獅子若丸は一瞬で腹を見せて寝転んでしまった。
「マジで効くんか……」
ロージはちょっとひいた。
「ちょ、ちょっと獅子若さん!? 何やってますの!?」
「はぁ、これだから男は使えませんわ」
魔女王の両脇に控えていた修羅雪姫は驚き、神楽姫はため息をつく。
「わたくしが参りましょうか?」
「――いえ、その必要はありません」
「陛下……?」
修羅雪姫を手で制して、魔女王は王座から立ち上がる。
「おっと、やっと魔女王サマ直々に戦ってくれるってわけかい」
ダゲキは構えながらニヤリと笑う。
「勇者様、この方を連れてきてくださりありがとうございます」
「……?」
ヒイロは言われた意味が分からず、魔女王を見つめる。
「あなた方にもう用はありませんので、そろそろお引取り願います」
魔女王の周りの空間から、おそらく拒絶の壁と同じくダイヤモンドでできた槍のような突起が大量に生成される。
すっと手を下ろすと、突起が一斉に勇者たち一行を襲った。
「ぐわーっ!?」
勇者たちは成すすべなく全滅してしまった。また光に包まれて教会へと飛んでいく。
勇者が目を覚ますと、コクリの町の教会だった。
「やれやれ、また全滅しちまったな……」
「でもでも、拒絶の壁は壊せたから一歩前進だよ!」
「問題は魔女王が強すぎるな……イェルが回復する暇もなかった。またレベルを上げないと」
「……あれ? ロージは……?」
「!?」
イェルの言葉にヒイロたちは教会の中を見回すが、ロージはそこにはいなかった。
ロージは魔城に取り残されてしまったのだった。
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