第115話 集団戦/未柳のファイター

 魔女のリーダー・吉奈は、ソルジャーを華麗に操り、アサルトライフルを発砲した。


 トリガーを引きっぱなしにして、五連発。


 ガンパウダーが弾けて、銃口が跳ね上がるのを、マウスの小刻みな動きで抑制。


 小口径高速弾が連なるようにして、中央に集弾されていく。


 その標的は、お笑い生徒会長・未柳のファイターだった。


 ● ● ● ● ● ●


 会場の誰もが、未柳のファイターがダウンする姿を想像した。


 実況解説も、配信を見ているユーザーも、花崎高校のメンバーも、未柳が生き残る姿を想像していなかった。


 だが、東源高校のチームメイトは、信じていた。いまの彼女なら、生き残れるだろうと。


 その期待に、未柳は応えた。


「あたしだってさ、たくさん練習してるわけよ!」

 

 未柳のファイターは、ラウンドシールドによる防御を成功させた。


 ただし、五発すべてではない。


 一発分だけ直撃していた。しかし、HPゲージは八割以上残っている。


 まだまだ余裕で集団戦に参加可能であった。


 これに驚いたのは、魔女のリーダーである吉奈だった。 


『まさか、あのお笑い生徒会長さんが、この距離で防御を成功させる?』


 この距離=アサルトライフルを当てやすい距離だ。


 近すぎず、遠すぎず、それでいて敵影をはっきりと目測できる距離。


 以前の未柳だったら、この条件下で、シールド防御を成功させるなんて、絶対に無理だった。


 もし、重装歩兵を使っていたなら、自分の体と同じサイズの大盾を真正面に構えるだけで、いかようにでも防御できたろう。


 しかし、ファイターのラウンドシールドは、上腕を覆い隠すほどの面積しかない。

 

 アサルトライフルの弾丸を防ぐには、敵の弾道を予測して、きちんと着弾地点にラウンドシールドの位置を合わせないといけなかった。


 そんな難しい芸当を、未柳は成功させた。


(全国大会に進出するためには、五人全員の力が必要でしょ。あたしがいつもみたいに足を引っ張るばかりじゃ、もしここで勝てても、全国にいってから、負けることになるんだから)


 ゲームの才能はないし、これまでの人生でゲームの経験値も足りていなかった。


 だが、MRAFにかける情熱は、他の誰にも負けていない。


 バレーボール部で燃えつきた志を、今度はeスポーツの世界で爆発させる。


 そのために、たくさん練習してきた。たくさん実戦経験を積んできた。


 いまでも実力が足りているとは思わない。


 だが、気持ちでは負けていないし、集中力だって絶対に途切れさせない。

 

「ちゃんと壁役をやりきってみせる」


 ファイターの役割とは、壁役である。


 すなわち、他の仲間たちが有利な条件で戦えるように、体を張って前線をコントロールすることだ。


 もし、ファイターが意味もなく後ろに下がれば、防御力やHPの低い仲間を危険にさらすことになるだろう。


 それを防ぐために、たとえ自身のHPが削れようとも、弱気にならずに立ち回る必要がある。


 だからといって、防戦一方では、敵にプレッシャーを与えられない。


 ときには攻撃も必要だ。


 ただし、今回のチーム構成では、それ以上に大事なことがあった。


 一刻も早く、天才の俊介が、格闘家のノックバックスキルを成功させること。


 もし、少しでもタイミングが遅れれば、東源高校は、花崎高校のポーク攻撃の連打によって、総崩れになってしまうだろう。


「ちゃんと役割を果たしてよね、天才さん」


 集団戦の局面は、次のフェイズに移行した。


 俊介が、格闘家のノックバックスキルを成功させるかどうか、である。

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