第93話 花崎高校はラッシュに意表を突かれた
花崎高校のメンバーたちは、完全に意表を突かれていた。
魔女のリーダーである吉奈は、まさしく頭が真っ白になった。
「ラッシュ……!? うそでしょ」
三年間蓄積した試合勘は、いますぐ適切な対処をしないと、このまま負けると訴えていた。
だが、そう簡単に、思考を切り替えられるわけではない。時間にすれば、ほんの数秒だけ、思考の空白が生まれてしまった。
数秒。二秒だろうか。いや一秒かもしれない。
それぐらい極端に短い時間であっても、リアルタイムで戦況が変化するゲームでは、致命的な空白だった。
花崎高校は、kirishunのバトルアーティストを潰すために、定番の動きをしていた。
レベル最大になる前に潰す。もしkirishunが、ちょっとでも前に出てくるようなら、包囲殲滅してやろう。
そういう動きをするとなれば、花崎高校のメンバーたちは、自然と戦線を上げることになった。
プレイヤーキャラクターのポジションが、ステージ中央に近づいていたのである。
それが災いした。ラッシュに弱い陣形になっていたのだ。
そもそもラッシュの対処方法とは、待ち伏せによるカウンターである。
ゲーム序盤は、歩兵の火力が異様に高いから、待ち伏せによる先制攻撃が成功すれば、絶対に勝てる。
だが、吉奈たちは、戦線を押し上げていたせいで、敵がすぐ近くにくるまで、ラッシュが始まったことに気づけなかった。
バトルアーティストを使うなら、ラッシュなんてやらないはず。
そんな思い込みを逆手に取られたのである。
(やるわね、尾長部長……!)
吉奈は、敵の指揮官を褒めた。
だが、まだ諦めたわけではない。ギリギリだが、勝ち筋は残っていた。
これから総員で本拠地まで撤退して、手持ちのゴールドを歩兵の生産に回す。
それら新規兵力と、元々あった防御陣形を合わせれば、東源のラッシュを跳ね返せるのだ。
だから吉奈は、仲間たちに威勢よく声をかけた。
「みんな、本拠地まで撤退して!」
だが、理想通りの集団行動は発生しなかった。
吉奈ですら、ほんの数秒の空白が生まれたのだ。
なら他のメンバーなんて、さらに追加で数秒の空白が生まれてしまった。
【花崎高校、ファイター・ダウン】
おっとりした七海のファイターが、真っ先に落とされてしまった。
七海は、かちかちとマウスをクリックしてから、ゆっくりと悪態をついた。
「しまったぁ~……! これじゃあ~……歩兵が置き去りにぃ~……」
この部分に関して、実況解説が触れた。
『ラッシュが成功すると、【MRAF】のゲームシステムと噛み合って、破壊力が増すんですよ』
『基本的に、このゲームにおいては、歩兵を動かしたければ、プレイヤーキャラの視界に入れるか、もしくは本拠地の視界に入れるしかないわけです。逆に考えれば、視界の外にいる歩兵は、一切操作できません』
『ゲーム序盤だと、護衛用の歩兵を連れて斥候するか、金鉱を採掘するわけですよ。ですから、仲間と離れたところでダウンした場合、その周囲に護衛用の歩兵が置き去りになります』
『もし護衛用の歩兵を回収しようとしたら、さらにラッシュの餌食になるわけですね』
『でも、ゲーム序盤だと、ゴールドをほとんど持ってないし、歩兵を見捨てるなんて、もったいないですよ』
『だからこそ、ラッシュの警戒をしなくてはならなかった。しかし、花崎高校は、kirishunのバトルアーティストを潰したいばかりに、定石を捨てた。それが敗因です』
敗因。そう、敗因だ。
まるでホウキで玄関を掃除するみたいに、東源高校の戦力が、花崎高校の陣形を蹂躙。すべてのプレイヤーキャラを刈り取った。
【花崎高校・プレイヤーオールダウン 東源高校の勝利です】
試合時間は、わずか四分五十秒。典型的なラッシュで決着した試合であった。
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