第92話 BO3の二本目スタート

 東源高校の部長である尾長は、ほぼ勝てるであろう作戦を考えてあった。


 ただし、奇策中の奇策だ。


 だから、このBO3の二本目で使用してしまえば、次以降は対策されてしまう。他のチームとの試合でも、警戒されてしまうだろう。


 一回限りの必殺技みたいなものである。


 いま使うのは、少々もったいない気もしていた。


 だが、この試合で負けてしまえば、全国大会への道が閉ざされてしまう。


 だから、いまが、使い時であった。


 なお、BO3の二本目における、ステージのban/pickは、すでに終わっていた。


 東源高校と花崎高校の思惑が動いて、スタンダードな森林ステージに決まった。


 東源高校は、バトルアーティストを使用するつもりだから、都市の廃墟を使いたい。


 だが、花崎高校はバトルアーティストに有利なステージを使わせたくない。


 となれば、おおよそ森林ステージになる。これは他のチームとの対戦でも同じ傾向だ。


 だが、これから使う奇策は、どのステージでも、おおよそ成功する。


 というか、kirishunこと桐岡俊介の個人技に頼った、異常なまでの奇策だ。


 尾長は、青いフレームの眼鏡をいじりながら、自嘲気味に笑った。


(そもそも、こんな一度しか使えない作戦を、練習しておいた小生たちが、おかしいんだろうさ)

 

 さて、東源高校のキャラクター構成だが、以前小此木学園戦でも使った、いわゆるF2構成と呼ばれるものになった。


 だが、このF2構成を使用することですら、奇策を成功させるための心理戦だった。


 東源高校にはkirishunがいて、バトルアーティストを使いこなせる。


 この強烈なメリットを、エサにして、花崎高校の裏をかくわけだ。


 なお、実況解説コンビは、kirishunがバトルアーティストを使うことを、楽しそうに語っていた。


『やっぱり出てきましたね、kirishunのバトルアーティスト』


『また無双が見れるかもしれません。まぁレベル最大にならないとダメなんですが』


『花崎高校は、作戦で戦うのが、ぶっちぎりでうまいですから、バトルアーティストがレベル最大に達する前に倒しちゃうかもしれませんね』


『そこまで含めて、楽しみですね』


 kirishunがバトルアーティストを使うとなれば、配信のコメント欄も盛り上がった。BO3の一本目は敗北してしまったが、得意キャラを使えるなら、さすがに勝つだろうと。


 試合会場の観客だって、バトルアーティストレベル最大の超人じみた動きを期待していた。


 バトルアーティストが、レベル最大になるかどうか?


 これが試合の分かれ目だと、誰もが思っているわけだ。


 尾長は、ほくそ笑んだ。これは勝ったな、と。


 どうやって勝つのか? それは試合開始直後に、すぐに判明した。


 花崎高校の選手たちは、バトルアーティスト対策としては、お手本のような動きを見せた。


 つまり、レベル一の段階で潰そうとしたのだ。バトルアーティストは、レベル一だと、全キャラ中最弱だからである。


 だからこそ、尾長の考えた奇策が、炸裂する。


 一番最初に、奇策の正体に気づいたのは、実況解説コンビだった。


『おや、東源高校の動きが、おかしいですね』


『本当ですね。なんでこんな前のめりに展開しているんでしょう……』


『すごい、視界の確保をおざなりにしてでも、歩兵の数を増やしてる』


『……もしかしてこれ、ラッシュじゃないですか!』


 そう、ラッシュだった。


 バトルアーティストを、キャラクター構成に組み込んだのに、ラッシュを実行したのだ。


 東源高校の五名は、ありったけの歩兵を引き連れて、すでに花崎高校の陣地に侵入していた。


 あとは、伸るか反るか。


 尾長は、伸ると思っていた。


 なぜならラッシュを練習する際に、スクリムの相手を務めてくれたのは、汐留高校なのだ。あの番長こと樽岡権蔵が率いる、全試合ラッシュで戦っていた脳筋集団である。


 観客席で、番長の権蔵が叫んだ。


「うちが気合で仕込んだラッシュだ、絶対に突き刺さるぜ!」

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