花崎高校と全国をかけて準決勝 BO3の三本目

第94話 BO3の三本目に向けて作戦会議/東源高校編

 東源高校は勝利した。奇策を綺麗に成功させたおかげだ。勝利を喜ぶよりも、まずは恩人に感謝することにした。


「ありがとう、番長」


 東源高校の選手たちは、観客席にいる恩人に手を振った。


 汐留高校の番長である、樽岡権蔵である。


「どんなもんだオラぁああ! これが汐留高校のラッシュ魂だぜぇええ!」


 彼は、観客席の最前線にいて、うおーっと雄たけびをあげていた。いかにも番長らしい動きであった。


「汐留高校のラッシュ魂は、受け継いでいきますよ。全国大会までね」


 東源高校の選手たちは、番長の権蔵に手を振りながら、ロッカールームに戻った。


 三本目に備えた作戦会議はもちろんやるのだが、その前にBO3の二本目を勝利したことを祝っていく。


「やりましたね。どうにか二本目は取り返せましたよ」


 kirishunこと桐岡俊介は、ふーっと肩の力を抜いた。バトルアーティストを使って、ラッシュをやるなんて、あまりにも前例がない作戦だったから、かなり体力を消耗した。


 あんな初期ステータスが最低値のキャラを使って、序盤を戦い抜くなんて、地味に超絶個人技を活かすしかないのである。


 この『地味に活かす』のが難しい。


 表面的には、ただうまくラッシュの流れに乗ったようにしか見えない。


 だが実際には、他のプレイヤーキャラの動きに、違和感なく食らいつく必要があった。


 初期ステータスが低いのなら、移動スピードだって低いのである。


 だから仲間たちが、どれぐらいの間隔で動いているのか把握して、常に先手を打って移動を入力しないと、あっという間に置いてけぼりになってしまう。


 もちろん敵と交戦するときだって、ちゃんと仲間と一緒に瞬間火力を稼ぐ必要があった。がっちり瞬間火力を叩きだしておかないと、敵に反撃されてしまうため、ラッシュの意味がなくなってしまう。


 もし反撃されれば、バトルアーティストは、あっさり落ちる。


 だから俊介は、超絶個人技を地味に活かして、ひたすら仲間たちに動きに足並みを揃えたわけだ。

 

 爬虫類みたいな顔の部長・尾長が、軽やかに拍手した。


「俊介くんもだが、みんなよくがんばった。奇策で勝ち取った勝利とはいえ、勝ちは勝ちだ。きっちり次の三本目でも勝っていこう」


 ヴィジュアル系の加奈子は、ぎゅーんっとギターを弾いた。


「東京ドームの屋根から飛び降りる気持ちで臨んだラッシュだった。正直緊張した。もし失敗したら、これで高校部活動終わりだから」


 お笑い生徒会長の未柳は、伊達メガネを外して、水をがぶ飲みした。


「ふいー、今回のラッシュじゃ、足を引っ張らないで、ちゃんと作戦の一員をやれたわけよ。報酬に金の蝶々が欲しい感じ。きんちょう、しただけに」


 オヤジギャグは全員無視して、メイド服の薫もタオルで汗を拭いた。


「試合開始直後は、ラッシュがバレるんじゃないかって、ずっと冷や冷やしてたよ。でも、花崎のみなさんは、ずっと気づかなかったね」


 俊介は、自分の頭を軽く叩いた。


「吉奈さんたちも、見落としをするんですね。だって俺、一本目の試合で〈コンセントレーション・ナイン〉を使っちゃんたんですから、二本目の試合で使えないんですよ。だったらラッシュの可能性もあるなって考慮すると思ってたんですけど」


 メイド服の薫も、俊介の頭をなでた。


「いや、たぶんだけど、花崎のみなさんは、そこまでわかってて、でもラッシュに気づけなかったんだと思うよ」


「え、そうなんですか?」


「馬場くんの分析によれば、彼女たち、FPSが苦手なんでしょう? なら、〈コンセントレーション・ナイン〉なしのバトルアーティストですら太刀打ちできないから、つい前のめりになったんじゃないかな」


 名前を呼ばれたことで、アナリストの馬場が、仏様みたいな顔でつぶやいた。


「いやぁ、ようやく僕の出番だよ……ここのところ、試合シーンばっかりで、僕の出番なくて、もはやあきらめの境地だったよねぇ……もっと日常シーン増やそうよ、半年ぐらいずっと試合ばっかりじゃん……」


 ギリギリの発言だった。


 だが、誰もツッコまなかった。ツッコんだら、いろいろなお約束が破綻するからだ。


 さて、アナリストの馬場だが、先ほどの発言などなかったかのように、爽やかな顔でデータを表示した。


「花崎高校のデータなんですけど、自分たちの苦手な展開を避けつつ、自分たちの得意な展開に引きずり込むことを得意としていますね。僕たちが予選で負けたときも、同じでした」


 部長の尾長が、青いフレームの眼鏡をくいくい動かしながら、同意した。


「作戦の極意だ。わざわざ敵の土俵で戦う必要はない」


 アナリストの馬場は、さらに続けた。


「だからこそ、魔女たちは、ラッシュに気づけなかったんです。部長の予測どおり【バトルアーティストを使うなら、レベル最大にするために作戦を組むはず】っていう固定観念から離れることができなかった」


「だがもう離れた。あの作戦は二度と通用しない。花崎だけじゃなくて、他の学校にも」


 固定観念ゆえに、配信試合なんかで実行すれば、あっさり壊れる。どんな作戦が苦手な学校だって、バトルアーティストを使ってラッシュをやるんだ、と記憶に叩き込まれるからだ。


「本当は、決勝の黄泉比良坂と戦うために練習した作戦だったんですよね。だから汐留高校の皆さんも協力してくれたんですけど」


 アナリストの馬場が語った内容について、俊介も悔やんでいた。もし決勝の黄泉比良坂で使えたなら、貴重な一本をもぎとれたはずなのだ。


 だが天坂美桜という天才ならば、東源高校の怪しい動きから、ラッシュを見抜いた可能性もあった。


 だからクヨクヨ考えず、いまよりもっと強くなることに思考のリソースを割いたほうがいい。


 どうやら部長の尾長も、同じことを考えていたようだ。


「そこを悔やむより、次の試合である三本目について、もう一度おさらいしていこうか」


 こうして東源高校の作戦会議が始まった。

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