第73話 宝箱争奪戦、開始
ついに試合はスタートした。
海賊島は、楕円形のステージだ。両チームの陣地は、上半分の半球と、下半分の半球に分かれていた。
東源高校は、観戦視点における南半球サイドに、本陣があった。
この南半球を、東源高校のメンバーたちは、二人一組で行動していた。
kirishunこと、桐岡俊介のグラディエーターは、薫のプリーストと組んでいた。
「薫先輩、よろしくおねがいします」
俊介は、スウェーデン製のマウスを握る手を、こきこきと鳴らした。
「こちらこそ、よろしくね」
薫は、メイド服の襟を整えながら、返事をした。
「俺、グラディエーターを公式大会で使うの、かなり久々なので、カバーお願いします」
俊介は、グラディエーターの性能を、おさらいした。
グラディエーターは、単騎での性能が高い。HP、物理防御力、移動速度などの、いわゆる基礎ステータスが平均的に高いのだ。
そのかわり、スキルがことごとく一騎打ち向けで、しかも性能がシンプルすぎるため、工夫をこらした戦いには向いていない。
集団戦になれば、足を引っ張ることだってあるだろう。
だから、特殊な用途がなければ、競技シーンで使うことはなかった。
だが海賊島では、ランダムで発生する宝箱を求めて、両チームが争うことになるので、遭遇戦で強いキャラクターが重宝される。
しかし、頻繁に使用するキャラではないため、薫の手助けが必要だった。
俊介は、グラディエーターの習熟度に、自信がないわけではない。むしろ豊富にある。
だが前回の花崎高校戦では、このプライドや自尊心を逆手にとられて、吉奈の作戦に敗北したわけだから、仲間を頼るのはいい選択であった。
このあたりのことを、実況解説コンビも触れていた。
『山崎さん。花崎高校の選手たちは、グラディエーターを使いこなせるんでしょうか? 個人技の優れたkirishunだったら、こういうキャラが得意なのは、わかるんですけど』
『使えないってことはないと思いますよ。少なくとも、花崎高校の弱点である、エイム能力は必要ないですから。覚えるスキルも全部ステータスアップですし』
『レベル一から、レベル四になるまでに覚えるスキル、ぜんぶステータスアップですもんね。移動速度と攻撃速度、攻撃力と防御力とかが、一時的に上がるだけ』
『スキルで自分自身のステータスを上げて、ひたすら通常攻撃で殴る。それしかできないキャラです』
『いやぁ、本当に性能がシンプルすぎて、通常のステージで運用したら、ただの的になりますもんね』
『しかし海賊島だと、遭遇戦がメインになりますから、グラディエーターが光り輝くわけです』
『ちなみに、現時点だと、どちらの学校が有利でしょう』
『もし遭遇戦の回数が増えるなら、kirishunのいる東源高校です。しかし遭遇戦をうまく回避して、宝箱をたくさん入手できるなら、花崎高校が有利になります』
『理由ってあるんですか?』
『なぜなら東源高校は、グラディエーターだけではなく、サムライまで入れてあるので、試合の終盤で弱くなるからです』
『サムライも、黄泉比良坂のamamiこと天坂美桜が使うと、終盤でも暴れますけど、他の選手が使ったら、普通は序盤で活躍して、中盤あたりから失速するキャラですもんね』
『そういうことです。さて、宝箱の出現時間は固定ですから、もうそろそろシステムメッセージが流れるでしょう。宝箱の位置が楽しみですね』
実況解説のいったように、ついに宝箱出現のシステムメッセージが流れた。
【海賊の宝箱が出現しました。出現位置をミニマップに表示します】
やたらと勇壮なファンファーレが流れると、ミニマップに金色の宝箱マークが表示された。
出現位置は、ステージの真西だった。サッカーコートでたとえるなら、センターラインの左端に、ぴたっとボールが止まっているような状態だった。
東源高校で、この宝箱の位置に近いのは、俊介と薫のコンビだった。
「さっそく仕事ですよ、薫先輩。俺たちで宝箱を回収しましょう」
俊介は、深呼吸して体内のリズムを調整。
グラディエーターのリズムとシンクロすると、花崎高校との遭遇戦に備えた。
「いこう、俊介くん。この試合に勝って、全国大会に進むために」
薫は、キーボードの位置を微調整してから、ミニマップをしっかりと確認した。
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