MRAF(MOBA+RTS+Action+FPS/Fighting)

第72話 海賊島で使うキャラクター構成を決めよう

　花崎高校の試合席では、魔女のリーダーである吉奈が、端正な顔を歪ませていた。

「さすがに憎々しい戦略を組んできたわね、尾長部長は」

　吉奈も、海賊島の可能性は、ほんの少しだけ考えていた。

　だが、ありえない、と予測していた。

　なぜなら東源高校のチームとしての熟練度から考えて、いまから新規ステージを習得する余裕はないと思ったからだ。

　しかし現実として、東源高校は海賊島を出してきた。

　短い期間での練習が間に合ったか。もしくは、本選に入ったあたりから、すでにBO3向けに新規の作戦を練っていたかだ。

　尾長の傾向からして、おそらく後者だろう。

　だが、どんな人間も無敵ではないし、万能でもない。

　かならず、どこかに、スキがあるはずだ。

　吉奈は、仲間たちを鼓舞するために、あえていつもより大きな声で伝えた。

「いくらランダム要素が強めといっても、財宝が出現する時間は固定だから、やりようがあるわ。そのためのキャラクター構成にしましょう」

　花崎高校は、キャラクター選択を始めた。

　まずハンターは外せない。遭遇戦を有利に運ぶため、そしてランダムに発生した財宝を発見するため、レベル一から使えるスキル《スカウティング》が必須になるからだ。

　だが花崎高校・星占い部の部員たちは、個人技が育っていないため、ハンターみたいなエイム能力が求められるキャラクターを苦手としている。

　もちろん人並みの練習はしてあるが、競技シーンでパーフェクトに運用できるかといわれたら、かなり怪しい。

　だがそれでも、海賊島に必須のキャラゆえに、ハンターを強引に運用する必要があった。

　ならば、星占い部のなかで、もっとも個人技が発達している吉奈が使うことになる。

　しかし吉奈がハンターを使ってしまえば、得意なウィッチを使えなくなる。

　しかしランダム性の高いステージとなれば、ウィッチの行動阻害が役立つ場面も減ってくるので、いっそキャラクター構成に組みこまないのも一つの手だろう。

　心配性の真希は、小さな声でいった。

「遭遇戦が起きやすいなら、《ジャンピングアタック》と、シールドのある、ファイターをいれたほうがいいでしょ。わたし得意だし」

　ファイターは、遭遇戦に強い。シールドで防御しながら仲間の到着まで耐えられるし、《ジャンピングアタック》を逃げるために使ってもいい。

　だから真希をファイターで固定して、残り三人のキャラクターを決めることになる。

　吉奈が悩んでいると、おっとりした七海が挙手した。

「プリースト、入れよう～。わたし～、あれが～得意だし～、回復スキルも～必要だから～」

　安定を取るため、プリーストも欲しい。回復スキルによる延命措置は、遭遇戦で傷つくリスクを軽くできるからだ。

　あと二人のキャラをどうするか、吉奈は考えた。

　ハンターの斥候機能を補助するキャラと、ファイターの遭遇戦を補助するキャラがいい。

　斥候機能を補助するなら、重装歩兵だろう。

　大盾を使って、ひたすらハンターを守るのだ。二人一組で動くことを前提とした組み合わせである。

　だが、ファイターを補助するキャラが浮かばなかった。いや、正確には浮かんでいるのだが、花崎高校のキャラクタープールがせまいため、使えないのだ。

　たとえばサムライ。

　あれを使えるなら戦略の幅が広がるのだが、いかんせん花崎高校の生徒たちには、ああいうピーキーなキャラを使えるだけのセンスがない。

　ならば、必要以上にセンスを求められないで、かつ遭遇戦に強いキャラを選べばよい。

　吉奈は、七海の使うキャラを決定した。

「七海、あなたはグラディエーターを使って」

　グラディエーター。名前のとおり、剣闘士である。武器は双剣であり、防具は高度な科学技術で編まれた鎖帷子を身にまとっていた。

　ゲーム内での役割は、一対一に特化していた。なにかしらの役割に特化していると、扱うのが難しそうに感じるが、グラディエーターに関しては比較的あつかいやすいキャラである。

　スキルがシンプルでわかりやすい。防御手段や範囲攻撃を持っていない。

　敵との間合いを調整しながら、ひたすら双剣で乱舞する。

　それがグラディエーターの特徴だ。

　このグラディエーターと、ファイターを組み合わせることで、遭遇戦を有利に運んでいく。

　七海は、グラディエーターを使うことに納得しつつ、こんな質問もした。

「それはいいけど～、プリーストは～、誰がやるの？」

「御園か、優香。どちらかがプリーストをやって、もう片方は重装歩兵をやる」

　御園と優香は、五人編成のために本選から登場した部員だ。

　だが、これまでの試合で、まったく存在感がなかった。

　たくさん練習しているし、本人たちのやる気もあるのだが、そこまで優れた選手ではないからだ。

　無論、準決勝まで勝ち残った選手だけあって、一般的な学校の部員よりは、はるかに強い。

　だが東源高校のkirishunや、黄泉比良坂のamamiと一対一をこなせるかといえば、絶対に無理だ。

　だからグラディエーターはまかせられない。そのかわり、プリーストや、重装歩兵みたいな、補助的な役割なら、対kirishunでも活躍できるだろう。

　以上の理由から、花崎高校の構成が決まった。

　吉奈　ハンター

　真希　ファイター

　七海　グラディエーター

　御園　プリースト

　優香　重装歩兵

　海賊島で運用すると考えれば、安定性重視の構成であった。

　花崎高校のキャラクター構成が決定となれば、東源高校のキャラクター構成もオープンになった。

　俊介　グラディエーター　

　尾長　ファイター

　加奈子　ハンター

　未柳　サムライ

　薫　プリースト

　吉奈は絶句した。練習試合ではなく、本番でこんな尖った構成を選ぶとは思わなかったからだ。

　実況解説も、かなり驚いていた。

『正気なんでしょうか、東源高校は。サムライとグラディエーターを、同じ構成に組み込むなんて』

『意図は明確です。ありとあらゆる場所で遭遇戦をしかけまくるつもりでしょう。プリーストを入れているのが、ギリギリの安定策で、他はすべて攻撃のためのキャラクター選択ですからね』

『ってことは、東源高校は、花崎高校の戦略を警戒しているってことですか？　自分たちから遭遇戦を仕掛けていけば、繊細な戦略を、戦術ないし戦闘で押しつぶせますから』

『そうなんですが、この構成は大変ですよ。サムライとグラディエーターという、一対一に強いキャラを二人も入れたなら、もし少数戦が発生したら、その時点で不利になりますからね』

　安定性重視の花崎高校と、伸るか反るかの東源高校。どちらが上回るのか？

　それを知るためには、全国大会をかけたこの試合に刮目する必要があるだろう。