第20話 泥沼の激戦 東源と重里

 一度触れたことだが、平原ステージは森林ステージの森部分を伐採した戦場である。だから基本的な地形や生息動物に関しては森林ステージから変化していない。


 ならどこが違うかといえば、ステージ全体が明るくなって、視界を遠くまで得やすくなっていた。

 

 この変化は、戦略に大きな影響を与えていた。具体的にいうと、歩兵の視界範囲も拡大しているため、視界管理用の歩兵の配分を減らせるのだ。


 だから一般的なステージなら監視用に使っていた歩兵の一部を、平原ステージにかぎっては護衛用に転用できた。


 両校ともに、歩兵の大部隊を引き連れて歩くことになるため、戦争みたいな集団戦が発生するわけだ。


 これら視界感覚と歩兵の分配率の違いを意識しながら、東源高校と重里高校は対戦を開始していた。


 東源高校の三名は、油の塗られた歯車のごとく円滑に展開していた。


 今年の公式大会初参加である未柳も違和感なく連携できていた。


「今日ぐらい対戦相手の狙いを見抜けてるとさ、視界管理と索敵の要点がはっきりしてて、動きやすいんだね。分析ってめっちゃ大事だわー」


 未柳は緊張していないらしい。ただし興奮しすぎてミスする可能性は消えていないため、俊介と尾長は彼女の動向に気をつけることにしていた。


 だが俊介は、未柳を気にしている場合ではないほど、忙しかった。


「敵も護衛の数が増えてるから、索敵中に事故死しないように気をつけなきゃな」


 俊介は、縦横無尽に動き回って、ひたすら視界管理と索敵を行っていた。本日の役職はアタッカーではなくサポートなので、チームを支える動きを徹底していた。


 アタッカーは最前線に出て敵と戦うことが仕事だが、サポートは斥候や援護が仕事である。場合によっては囮や肉壁もやるため、とにかく自分が主役ではないことを意識した。


 尾長は、サポートとして奮闘する俊介に視界管理をまかせると、他の誰よりも早くステージ中央に移動した。


「ステージpick/banの時点では、我々にアドバンテージがあった。だが実戦では、戦った結果が答えになる」


 尾長以外には、誰もステージ中央にいなかった。当たり前といえば当たり前である。定石なら、自軍陣地の視界を丁寧に掌握している時間帯なのだから。


 だが尾長は定石を無視すると、ステージ中央にある境界線に、ワニ型歩兵を均等な間隔で置いた。

 

 この境界線に置かれたワニ型歩兵たちは、一種の警報として機能する。もしも重里高校が重装歩兵を先頭にしてラッシュ気味に突っ込んできたら、ワニ型歩兵たちは勝ち負けに関係なく迎撃行動を開始する。


 まさしく歩兵という名の警報装置だろう。


 ゲーム序盤だと、歩兵の数が全然足りないので、かなり贅沢な使い方だ。だが対戦相手の意図が明確なら、これほど効果的な使い捨て手段もあるまい。


 だが作戦に絶対はないため、警報を設置中の尾長が敵に発見されて、包囲殲滅される可能性があった。


 だからファイターを選択した未柳が、少し離れた場所から尾長を援護していた。


「まさか今期初の公式大会で、こんな特殊な動きをやることになるなんて、あたしってば目立ってるんじゃ……!?」


 未柳は、尾長の援護をしながら、索敵を行っていた。


 なお試合開始早々、尾長と未柳がステージ中央に向かったわけだから、自軍陣地の視界管理はかなり甘いものになっている。


 だからサポートの俊介が作業量で補っていた。まるで納期間際の組み立て工場みたいに、ひーひー悲鳴をあげながら視界管理用の歩兵を設置していく。本拠地で新規のワニ型歩兵がポンっと生産されたら、すぐさま指定の位置に移動命令を出した。


 しかも歩兵を置く位置は、かなり細かく調整する。ちょっとした罠を仕込んでいるため、寸分の狂いも許されなかった。


「め、目が回りそうだ……」


 俊介は、煩雑な動きを繰り返すうちに、一つの結論に達した。このサポートの動きは、あきらかにオーバーワークであると。しかもオーバーワークの原因に心当たりがあるため、尾長にぶつけることにした。


「これ、本来は五人編成で実行する作戦なんじゃないですか。それを三人編成に無理やり落とし込んだから、サポートの負担が激増したっていう」


 尾長は、ふふっと子供みたいに笑った。


「せっかく花崎の構成を真似したから、作戦も真似してみたんだ。だが想像以上にサポートの負担が大きい。でも花崎は難なくこなしているわけだから、どうやら吉奈くんが力業で成立させてるみたいだね」


「とんでもない人ですね、吉奈先輩」


 俊介は、花崎高校戦における吉奈の落ち着きっぷりを思い出した。


 あんなスマートな行動阻害を決めたのに、水面下では異常ともいえる作業量をこなしていたわけだ。やはり高校eスポーツ界には、未来につながる逸材が芽吹いているらしい。


 俊介は、吉奈に負けないためにも、異常ともいえる作業量を想定時間内に終わらせた。まだ試合に大きな変化はなく、試合の進行度合いは中盤手前であった。各自のレベルは二まで上がっていて、スキルを一つ追加で覚えていた。


 だが視界の感覚的にはゲーム中盤であった。平原ステージの効果により、視界範囲がレベル四ぐらいまで拡大しているからだ。


 俊介は、警戒心を強めた。


「敵も、まったく同じ広さの視界範囲を持ってるんだ。いつ集団戦が始まってもおかしくないな」


 自軍陣地の視界を確保したので、次にやることは敵の陣地への侵入である。だがプレイヤーキャラのレベルが低すぎるため、まだ敵の歩兵に勝てない時間帯だ。無理な仕掛けは禁物だった。


 かといって、ゴールドが貯まるまで安全策に頼りきっていたら、重里高校に視界の優位を少しずつ奪われてしまう。


 だからファイターの未柳を中心にして、重里陣地に置かれた視界用の歩兵を端から順々に削っていくことになる。


 なお重里高校の歩兵のスキンは、柴犬型ロボットであった。柴犬らしい焦げ茶色の体毛を装甲の配色で表現してある。もちろん鉄の尻尾はクルンっと丸まっていた。なにも命令を入力しないで放置しておくと、あくびをしてごろんっと寝転がる仕様だ。


 そんな愛らしい柴犬型歩兵を、チーム全員で協力して、少しずつ削っていく。彼らが目玉をバッテン印にしてひっくり返るたびに、俊介の心は痛んだ。だが、あくまでゲーム上のロボットだから、あまり感情移入しないようにした。


「それにしても、重里ぜんぜん動かないですね」


 俊介は、ぼそりとつぶやいた。これだけ視界管理用の歩兵を削られても、なぜか重里高校は前線に干渉しなかった。まさか戦局が見えていないはずもないので、おそらく特別な狙いがあるはずだ。


 未柳は、六体目の柴犬型歩兵を倒したとき、つーっと冷や汗を垂らした。


「敵の足音に嫌な予感を感じるんだけど。あきらかにあたしたちが歩兵を削りだしてからパターン変わったよね」


 俊介も同じことを考えていた。だが情報が足りないせいで判断しようがない。だから正確な情報を求めて、敵陣の奥深くまで侵入した。


 いくら護衛用の歩兵を引き連れていても、リスクの高い行動であった。十中八九、俊介の姿は重里側のミニマップに映っているだろう。平原ステージの特性と、ハンターの視界確保スキル〈スカウティング〉を組み合わせれば、周辺の暗闇を丸裸に出来るからだ。


 俊介は、重里のハンターに頭を抜かれないように、注意深く進んだ。大事なことは歩くリズムを崩すことである。もっとも避けるべき歩きかたは、物理の授業で習った等速直線運動であった。


 ハンターを使いこなせる選手なら、偏差射撃を習得しているため、等速直線運動で移動するプレイヤーキャラクターなんて当てやすい的でしかなかった。


 それら射撃関連の情報を踏まえながら、俊介は真っ暗闇の敵陣地を進んでいく。


 敵に包囲されてダウンする未来もありうるのだが、類まれな個人技と、高校eスポーツを通じて身に着けた度胸によって、恐怖をねじ伏せた。


 やがて俊介は、運よく誰とも遭遇しないまま重里陣地の半ばぐらいに到達した。ステージ東側の一番端まで体を寄せてから、ハンターに頭を狙われないように大きな切り株の根本に潜んだ。


 すぐさまミニマップと敵の音に全神経を集約する。これだけ目立つ動きをしたにも関わらず、敵は俊介に向かっていなかった。


 だが別の方角に向かって足音が連なっていた。つまり重里高校が孤立した俊介を狙わなかったのは、すでに別の作戦を開始しているからだった。


 別の作戦の正体を突き止めるために、俊介はさらに耳をすませた。鼓膜と空気が一体化したのではないかと思うほど、足音、効果音、音声、すべてを拾っていく。


 敵陣でひたすら音を拾い続けたおかげで、まずは敵プレイヤーのポジションを読み取れた。どうやら重里高校のハンターとマジシャンはタッグを組んで、ステージ中央付近で暗躍しているようだ。


 重装歩兵は足音をほとんど出さないため、ステージ西側にいることだけわかった。どうやらどこかに隠れて、なにかのチャンスを待っているらしい。


 俊介は、今わかっている情報の中でも、優先度の高いものだけ報告した。


「生徒会長の正面、敵のハンターとマジシャンがいます」


 このボイスチャットは、敵である重里高校のメンバーに知られた情報として取り扱う。くどいようだが【MRAF】のシステムは、敵と距離が近ければ会話が筒抜けになる仕様だ。ならば敵陣の真っただ中にいる俊介の声は、すべて拾われていると思ったほうがいい。


 そんな貴重な情報をもとにして、未柳は緊張しながら正面を索敵した。


「本当にいた! んだけど、もう撤退を始めてる。なんなの、この動き」


 未柳は、撤退していく重里高校のハンターとマジシャンを見送りながら、ごくりとツバを飲み込んだ。


 尾長は、手持ちの情報から、重里の動きを推理した。


「おそらくハンターの〈スカウンティング〉を使って視界情報を得てから、撤退したんだろう。さきほどからステージ中央付近でうろうろしているのは、〈スカウティング〉を頼りに、なにかのチャンスを待っているからだ」


 重里高校の怪しい動きに関する推理は、俊介もやっていた。なぜ東源高校の優位が広がり続けているのに、彼らは柴犬型歩兵の破壊を食い止めにこないのかと。


 だがこれ以上の推理をやらずとも正解がわかる段階に達した。


 ついに重里高校がアクションを起こしたのである。


 いきなり西岡の重装歩兵の重苦しい足音が響いた。どうやら未柳に向かって突進しているようだ。


 ● ● ● ● ● ●


 俊介は、慌てず騒がず未柳に報告した。


「生徒会長、今すぐ真後ろに撤退。重装歩兵がそっちに向かいました」


「わーお、いよいよ交戦開始ってわけだね」


 未柳は、弾けた花火みたいな素早さで撤退を開始した。なんで突然の襲撃なのに、こんな素早く撤退できるかというと、想定済みだからだ。


 未柳の撤退先には茂みがあって、そこには大量のワニ型歩兵を隠してあった。


 そう、さきほど俊介がひーひー言いながら仕込んだ罠である。


 つまり東源高校が未柳を先頭にして柴犬型歩兵を削っていたのは、囮の意味も含んでいたのだ。


 あとは未柳を狙ってきた敵プレイヤーを茂みまで引きつけたら、茂みに隠したワニ型歩兵たちが一斉に攻撃を開始する。


 この作戦が成功すれば、もはや東源高校の勝利は揺るがないだろう。


 しかし東源高校の考えていた流れと、重里高校の選択は、大事なところが噛み合っていなかった。


 未柳は、致命的な齟齬に気づいた。


「なんで重装歩兵だけで突っ込んできたの……!? 護衛の歩兵なんて一体も連れてないし、さっき見かけたハンターとマジシャン、どこにもいないんだけど」


 西岡の重装歩兵は、完全な単独行動で未柳のファイターを狙っていた。


『お手並み拝見だな、生徒会長さん』


「そんないい声で挑発するなんて、なにが狙い!?」


 どうやら西岡の重装歩兵は、未柳のファイターを足止めすることが目的らしく、まったく前に出てこなかった。そのせいで、茂みに隠したワニ型歩兵たちを活用する機会が一向にやってこない。


 俊介は、ひたすら頭を働かせた。


 重里高校のハンターとマジシャンは、どこに消えたのか。


 本来なら重装歩兵が引き連れているはずの護衛の歩兵は、どこに配備されたのか。


 ヒントはあった。重里高校がアクションを起こしてから、ミニマップと足音の状況は一定のリズムで動き続けていた。これだけ迷いなく反応が連なるということは、試合開始当初から狙っていた展開なんだろう。


 素直に考えるなら、本拠地破壊のために前進を始めた、となるはずだ。


 だが俊介は、心の中に敵へのリスペクトを思い浮かべた。いきなり本拠地破壊を狙うより、その一個手前でアクションを起こしておくと有利になる立ち回りを考えた。


 だが答えがいまいち収束しないので、今度は重里高校の立場になって考えてみる。重装歩兵を盾にして、チーム一丸となって東源陣地に走り込むとき、どんな妨害を受けたら本当に困るのか?


 マジシャンの範囲攻撃スキルだ。


 重里高校は、重装歩兵の大盾を頼りに一列に並んで進むわけだから、〈ファイヤーストーム〉みたいな一直線に進むスキルを撃ちこまれたら、とてつもない損害が発生する。たとえ重装歩兵が大盾を構えたところで、スキルを打ち消せるわけではないので、背後の仲間への被害は防げない。


 敵へのリスペクトだ。ミニマップの状況と足音も比較したら、俊介の推理は的中だろう。


 俊介は、護衛用の歩兵を引き連れて、尾長のところへ戻ることにした。もはや敵にボイスチャットを拾われることより、仲間に警告を出すほうが最優先だった。


「尾長部長、そっちに全部の敵が集まってます!」


「そういうことか。小生としたことが読み間違えた。てっきりファイターを狙うものかと」


 尾長は、すぐに撤退を開始した。だが作戦を読み間違えたことにより、撤退が遅れてしまった。そんな策士策におぼれた軍師を狩るために、左右の獣道からヌラリと人影が飛び出した。


 重里高校のハンターとマジシャンだ。とてつもない数の護衛用の歩兵を引き連れていた。まるでアリの大群みたいに、柴犬型歩兵が行軍していた。見た目は可愛いのに、これだけの数が集まると、少々恐怖を感じた。


『これで範囲攻撃スキルが消える』


 四番ファーストの真田は、ハンターの弓矢で綺麗にエイムした。


『本選に向けて王手だ』


 大食いキャッチャーの吉岡も、マジシャンの範囲攻撃スキル〈ファイヤーストーム〉を発動。その一直線の軌道には、尾長と護衛用の歩兵が含まれていた。


 大量の柴犬型歩兵たちも、牙と肉球の弾丸で集中砲火を浴びせようとした。


 尾長は完全に追い詰められた。大食いキャッチャー吉岡がいったように、将棋でいうところの王手であった。普通の思考回路で判断すれば、尾長はダウンするしかないだろう。


 だがしかし東源高校側には、常識を破壊する個人技の鬼がいた。


「そうはさせるかよ」


 俊介は、燕の飛行みたいな鋭角の角度で、重里高校軍団の中心に走り込んだ。ウィッチのとんがり帽子が半月のように瞬く。圧倒的多数である敵の反撃で押し潰されるかもしれない立ち位置。だが俊介はまったく恐れていなかったし、失敗のビジョンも浮かんでいなかった。


 ウィッチがレベル二で覚える行動阻害スキル〈魔女の燻製〉を発動。とんがり帽子の隙間から、ぼふんっと灰色の煙幕が発生。敵味方すべての視界を完全に封鎖した。しかも煙には敵にだけ効果を発揮する邪悪なナノマシンが含まれていた。


 スロウ効果である。


 四番ファースト真田のハンターと、大食いキャッチャー吉岡のマジシャンと、彼らが引き連れていた護衛用の柴犬型歩兵たちの動きが、映像のスローモーションみたいに遅くなった。


 移動速度だけではなく、攻撃速度にも影響があるため、重里高校の一斉攻撃は、完全に出鼻をくじかれてしまったのである。


 この機会を利用して、尾長は一目散に逃げ出した。


 四番ファースト真田と、大食いキャッチャー吉岡は、悲鳴に近い声で叫んだ。


『んなアホな!』『こんな完璧なタイミングで行動阻害とか、もはや詐欺だろ!』


 悲鳴をあげたほうが自然な状況であった。あれだけ丹念に罠を仕込んで、ようやく尾長を倒せたと思ったのに、俊介の個人技でひっくり返されてしまったのである。


 だが重里高校には、最低限のチャンスが残っていた。さきほど俊介は尾長を助けるために、重里高校軍団のど真ん中に突っ込んでいた。いくら煙幕の効果が続いていても、逃げる方向は限られていた。


 だから四番ファースト真田と大食いキャッチャー吉岡は、せめて俊介のウィッチだけでも倒そうとした。


『ウィッチだけでも倒しておかないと、せっかくリソースを費やした仕掛けが無駄になるぞ』


 もし、彼らの目の前にいるウィッチが、平凡な選手による操作なら、着実に狩れただろう。


 だが俊介は天才だ。煙幕が消えた瞬間、常人では絶対に目で追いきれない反応速度で脱出を開始した。


「あとは逃げるだけっと」


 俊介は、ウィッチがレベル一から覚えているブリンクスキル〈魔女の空旅〉を使用した。ウィッチは魔法の箒にまたがると、とんでもない速度で低空を滑空。手近な障害物をひょいっと乗り越えると、一瞬で重里高校の攻撃範囲内から脱出した。


 ● ● ● ● ● ●


 西岡は、作戦が失敗したことを信じられず、思わず膝を叩いた。


「うまくいったと思ったのに……!」


 狙いは完璧だった。尾長の思考を読んで、あえて東源高校の作戦にひっかかるフリをした。


 西岡は、未柳のファイターを襲撃した。だが深追いはせずに、彼女の足止めだけを心掛けた。深追いをすれば、なにかしらの罠があることは、やたらと忙しそうな俊介の足音からわかっていた。


 あとは絶好のチャンスがやってきたら、重装歩兵以外の戦力をすべて尾長のマジシャンにぶつけて、範囲攻撃スキルを奪うつもりだった。


 だから柴犬型歩兵をじわじわ削られようとも、ひたすら我慢した。俊介が自軍陣地の奥深くにやってきても、あえて見逃した。すべてのリソースを尾長のマジシャンを削るために注ぎ込んだ。


 やがて絶好のチャンスがやってきた。未柳のファイターが重里高校の想定したラインまで踏み込んだからだ。あの距離まで入り込んでしまえば、尾長のマジシャンを助けにいくのが遅れる。

 

 西岡たちは勝利を確信した。もうこれは本選確実だろうと歓喜した。


 だが桐岡俊介の成長によって阻まれた。彼は土壇場で気づいたのである、重里の真の狙いに。


 四番ファーストの真田も、悔しがっていた。


「kirishunの行動阻害がなかったら、尾長のマジシャンを落とせてたのに」


 大食いキャッチャーの吉岡は、悔しがりながらも先のことを考えていた。


「どうするんだ西岡。こちらの手札、さっきのやつで空っぽだぞ。しかも尾長に読み間違いをさせるために、結構な数の歩兵を失ってる。いよいよ隠し玉作戦をやるしかないのか?」


 重里高校には、迷うための選択肢が残っていなかった。だから西岡は、即断即決した。


「隠し玉作戦、やるしかないらしいな」

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