第19話 本選をかけた激戦 東源VS重里
ついに予選三日目がやってきた。天気は生憎の曇り模様。やや湿度が高くなっていて、今にも雨が降りそうだった。
試合を行う選手たちは、真夏のサウナみたいに熱くなっていた。本日が本選出場を賭けた最後のチャンスだからだ。
すでに二勝した学校は本選出場が決定しているし、二敗したチームは敗退が決まっている。
だから一勝一敗ラインの学校は、あと一勝をつかむために、会場入りしていた。
試合会場はいつもの小ホールだが、雰囲気はぜんぜん違っていた。まるで床や天井に熱した針を埋め込んだみたいに暑苦しかった。大会運営のスタッフたちも選手の熱気に当てられたらしく、ただ現場を歩くだけで汗をかいていた。
東源高校と重里高校の部員たちは、小ホールBに集結していた。いつもスクリムで親しくしている両校だが、本日ばかりは口数が少なかった。
両校の部長であり、親友同士であるはずの尾長と西岡も、例外ではない。彼らは、やや緊迫した朝の挨拶を交わしてから、もう目線を合わせなくなっていた。
勝てば本選、負ければ引退。
三年生にとっては、最後の夏だった。
尾長は、やれることをすべて終わらせていたので、自分の席に座って精神統一していた。
だが俊介と、お笑い生徒会長の未柳は、時間ギリギリまでプレイの確認を行っていた。
「生徒会長、重装歩兵対策は覚えてますね?」
二人は、作戦会議の内容を敵に聞かれないように、小声でひそひそと会話していた。
「当たり前でしょ。もしも桐岡くんを無視する動きがあったら、近くの歩兵を引き連れて本拠地に戻ること」
未柳も小声で返していた。だが小声で会話すること自体がストレスらしく、ばりぼりとフランスパンを食べていた。
「ただし、こちらの動きを読まれた場合、重装歩兵を囮にされる可能性もあります。俺たちが本拠地まで戻ったら、重里はステージ中央まで引き返して、周辺の視界を一気にクリアするんです」
俊介もフランスパンの香りに誘惑されたらしく、もりもりとアンパンを食べていた。
「結局のところ、本拠地に引き返すか、それとも囮だと見抜くか、すべての判断は部長次第でしょ」
そう、重装歩兵対策は済ませてあるが、最終的な判断は尾長の知略次第だった。
敵の動きを読み当てれば綺麗に勝つし、読み外せば泥沼の戦いになるだろう。
この会話の大事なところは、作戦の要点をちゃんと未柳が理解していることだった。彼女の入部当初からのゲームスタイルを考えたら、偉大なる進歩であった。さすが体重が一キロ増えただけある。
なんてことを尾長が感じているとき、俊介も未柳を褒めた。
「完璧です、生徒会長。本当に一週間で仕上がりましたね」
「一夜漬けは得意だから。それで東源の入試も受かったし」
未柳は、食べかけのフランスパンを、剣みたいにしゅっしゅっと振った。
「…………いや、そこは計画的に勉強してほしいんですが」
「マジのツッコミはいらんのですよ」
作戦の確認が終わったので、俊介と未柳も着席した。
尾長も、未柳に一声かけた。
「まさか加奈子くんがインフルエンザでダウンするなんて予想外だったからね。よくぞ間に合ってくれた、未柳くん」
加奈子については、今朝SNSで部員たちにメッセージを一斉送信していた。
『必ず勝って、お願い。五人で大会に出てみたいから』
本選に進まなければ、五人構成で戦えない。せっかく【MRAF】に打ち込んできたのに、三人構成で卒業してしまうのはもったいないというわけだ。
そんな加奈子のメッセージも踏まえて、未柳はフフーンっと胸を張った。
「加奈子には昨日電話したわ。もうあたしのほうがあんたより強くなったから、安心して寝てなさいって」
尾長と俊介は目を合わせた。未柳と加奈子、どちらが強いかといえば、加奈子だろう。だが未柳を試合で運用するためには、彼女の自信の程度を周囲でコントロールする必要があった。
自信がありすぎれば敵陣に突撃してしまうし、自信を失えば動きが曖昧になる。
そんな未柳の法則に従えば、あえて強さ比較について触れないことが正解となる。
尾長は咳払いしてから、ちょっとずつ話題をそらしていく。
「なるほど、ずいぶんと自信満々だな、未柳くんは」
「元LMの天才にマンツーマンのコーチングをしてもらえば、そりゃあ自信の一つや二つもつくっしょ」
「というか、まさか俊介くんが作戦面のコーチングをやれる日がくるとはね」
尾長は、ちらっと俊介を見た。華麗なる意思の疎通により、俊介も話題をそらしていく。
「ドムさんの森林ステージの模型のおかげでしょうね。あれがなかったら、今の俺はないですよ」
「なるほど、あとでみんなでお礼を言いにいくか」
みんなで模型部に感謝しながら綺麗に話題をそらしきったとき、小ホールの外が少しだけ騒がしくなった。
メインアリーナで、本選開会式の設営作業が始まったのである。作業員たちが、鋼鉄の足場や、電子看板を持ち込んでいた。この設営作業を、大会スタッフが撮影していた。どうやら開会式で流す動画の冒頭になるらしい。
動画の主役は誰かというと、本選に出場する選手たちだ。すでに二勝している学校の代表者が現場に集合していた。
黄泉比良坂は美桜、花崎高校は吉奈が代表者だった。
ちなみに小此木学園の代表者は、例の暴言だらけの不健康な男子だった。彼の瞳はなにかの野心に燃えていた。だが健全な光とはいえなかった。競技シーンで勝つことが目的というより、この大会を通じてなにか満たしたい衝動があるらしい。
ふと小此木学園の彼と尾長の目があった。だが彼はまるで半透明な人間を見ているかのように尾長そのものに関心を持っていなかった。どうやら尾長を通して属性ないし社会ステータスだけを見ているらしい。
そうやって彼のことを分析しているとき、尾長は自分自身の心におもしろい点を発見した。小此木学園の彼の本名を知らないのである。正確には知るつもりがなかった。この大会が終われば、もう二度と関わることがないと確信しているからだ。
そんな小此木学園の彼と尾長の無機質な交流は、大会スタッフの言葉で中断した。
「動画の撮影は順番に行っていきます。ですが自分の番が終わっても帰らないでください。本日の試合で本選出場を決めた学校からも代表者を選出して、彼らの個別撮影も終わってから、最後に集合写真を一枚とります」
本選は、すぐそこに迫っていた。だが本日の試合で勝たなければ、予選敗退である。
そんなシリアスな雰囲気を、未柳が奇声でぶち壊した。
「開会式で流す動画の撮影!? やべぇ、目立てるじゃん。しかも後世に記録として残るやつ。ついにあたしの時代きたかぁー?」
しかし俊介による冷静なツッコミ。
「一歩間違えたら黒歴史入りですけどね。っていうかもう一歩も二歩も間違えたと思うんですよ、具体的には今かじってるものとか」
未柳は、なにを血迷ったのか二本目のフランスパンに手を出していた。
「そっか、先週よりも一キロ太った姿で動画に残るんだ。くそー、こんなことなら真剣にダイエットしておけばよかった!」
ダイエットしておけばよかったと嘆くのに、未柳はフランスパンを食べるのをやめようとしなかった。どうやら目立ちたいという衝動と、単純な食欲と、乙女としてのプライドがぶつかって、錯乱しているらしい。
そんな彼女を落ち着けるために、尾長は冷静に現状を解説した。
「落ち着くんだ未柳くん。そもそも今日勝たないと撮影に出られない」
「あ、そっか。じゃあ、勝とう!」
ようやく美柳は平静を取り戻し、食べかけのフランスパンをカバンに戻した。
● ● ● ● ● ●
大会スタッフから撮影の話が出てきても、重里高校のメンバーは動じなかった。
ルーズリーフにメモした自分の弱点を見直してから、チームの連携に関することを再確認していた。
東源高校の浮いた雰囲気と比べたら、生真面目すぎるのかもしれない。
だが西岡たちが三年間続けてきたスタイルでもある。いまさら崩すつもりはなかった。
重里高校の真田は、緊迫した顔で西岡にたずねた。
「なぁ西岡。東源高校さ、どんなキャラ構成にすると思う?」
彼のプレイヤーネームは〈4fs〉である。四番ファースト真田の頭文字を繋げたものだった。彼も中学時代は野球部であり、スラッガーだった。遠くへかっ飛ばすのが大好きで、今もバッティングセンターに通っている。
「ハンター、マジシャン、プリーストの可能性が高い。オレがインタビューで口を滑らせたせいで、東源は重装歩兵を使うことを知ってるはずだ。となれば、kirishunのハンターと尾長のマジシャンで、うちの攻撃キャラを潰そうとするはず」
西岡は、東源高校の過去データを熱心に研究していた。元々データ分析は得意だった。近代野球はデータが大事であり、農作業も天候データや品種データとの戦いだからである。
だから【MRAF】においても、データ分析を大事にしていた。
しかしもう一人の選手である吉川は、不安そうな顔でいった。
「尾長は、裏をかくんじゃないか? kirishunの幅の広いキャラクタープールを使って」
吉川のプレイヤーネームは〈miso oomori〉である。名称の由来は味噌ラーメン大盛りだ。彼はラーメン大好きな巨漢であった。野球部時代のポジションはキャッチャーである。今どき珍しい昭和の野球漫画の登場人物みたいな男であった。
「kirishunの使えるキャラクターの幅の広さも怖いんだが、それ以上に怖いのは、今日のロースターが加奈子さんじゃなくて、例の生徒会長さんってところだ。未柳さんは、加奈子さんと得意キャラが違うから、いつもと違う構成で戦う可能性がある」
西岡は、データ分析を信じているからこそ、未柳という不確定要素を嫌った。
もし本日のロースターが加奈子だったら、時間をかけて研究したデータは高確率で的中したんだろう。だが未柳が代打になったことで、データは参考にとどめたほうがいいところまで価値が下がってしまった。
となれば、西岡率いる重里高校は、不確定要素に対抗しうるキャラクター構成を選んだほうが無難だ。
しかし、重里高校には弱点があった。ファイター、マジシャン、プリーストの基本構成と、重装歩兵を加えた特殊構成の二つしか使えないのである。
原因はゲーム経験値の少なさだ。
西岡も、真田も、吉川も、高校に入るまで野球以外の趣味を持っていなかった。
対戦ゲームどころか、RPGやソシャゲだってやっていなかった。
そんな三人が新しいキャラクターを競技レベルで使いこなせるようになるためには、多くの時間が必要だった。
だから西岡たちは努力した。ちょっとした空き時間ですら部室に飛び込んで【MRAF】を学んだ。
しかし間に合わなかった。時間の足りなさを嘆く暇すらなかった。すでに予選三日目の当日なのである。
まるで重里高校のひっ迫した環境を急かすかのように、大会スタッフが試合を管理する画面を立ち上げた。
「もうすぐ試合開始です。みなさん着席して準備を開始してください」
西岡たちはルーズリーフをカバンにしまうと、ゲーム画面を見つめた。
ついに本選をかけた戦いが始まる。
西岡たちも、また尾長たちも、後戻りはできない。両者ともに、これまで練習してきたすべてをぶつけるのみだった。
● ● ● ● ● ●
東源高校の三名は、手短に自分たちの作戦を再確認してから、おなじみステージのpick/banを開始した。
予選三日目は、ブルーサイドが東源高校で、レッドサイドが重里高校だった。
だから東源高校のbanからスタートする。
「俊介くん、君だったら、どこをbanするかな?」
尾長は、青いフレームの眼鏡の奥に、理性の光を灯した。
その光はまるで、俊介がどれだけpick/banを理解できるようになったのか確認しているみたいだった。
だから俊介は期待に応えるためにも、マウスをすばやく操作して、都市の廃墟にカーソルをあわせた。
「都市の廃墟ですかね。あそこ、重装歩兵の大盾があると、かなり強引な攻め方ができるんですよ」
都市の廃墟は、建物だらけで、開けた道が少ない。だから重装歩兵の大盾がイヤらしいほどに活躍する。対戦相手の隠し玉が重装歩兵だと判明しているんだから、banしておくのが得策だろう。
どうやら満足度の高い答えだったらしく、尾長は都市の廃墟をbanした。
「俊介くんは、基礎の考え方はもう大丈夫そうだ。あとは応用を覚えれば、もうメジャーリジョンも夢じゃなくなる」
かなり直球の誉め言葉が飛んできたので、俊介はちょっと照れてしまった。
「先のことは先のことですよ。まずはこの試合に勝ちましょう!」
俊介は、照れ隠しの意味合いも含めて、至極まっとうな目標設定を行った。
続いてレッドサイトの重里高校がbanを行っていく。
重里高校も、予選三日目に備えてたっぷり研究してあるらしく、砂漠ステージを迷いなくbanした。
重里高校が砂漠ステージをbanすることは、東源高校の三名も予測していた。アナリストの馬場が彼らの過去データを分析していて、重装歩兵を利用するか否かに関わらず、そもそも高低差の激しいステージが苦手だと判明していたからだ。
重装歩兵自身も高低差の激しいステージを苦手としていた。移動スピードが遅いから、くぼ地などで待ち伏せされると逃げるのが遅れて集中砲火をくらいやすかった。
しかも正面からの近接攻撃を大盾で防御しているときに、高台からハンターの矢を射られると、あっさりヘッドショットをくらってダウンしてしまうのだ。
これらの情報を前提に考えると、重里高校はきちんと自分たちのbanすべきステージをbanしたことになる。
俊介は、受験勉強をしていたときみたいに、こめかみに手を当てて頭を働かせた。
「自分たちが不利になるステージをbanしましたね。やっぱり自己分析もちゃんとやってるんだなぁ、重里高校は」
西岡たちが自分たちの弱点を記したルーズリーフを熱心に読んでいたことを、俊介はちゃんと覚えていた。勤勉であることは美徳だ。しかも試合開始直前まで自分たちの弱点と向き合っていた。
だが俊介だって負けていない。試合開始前に未柳と作戦の確認を行った。心のどこにも油断と慢心はないわけだ。
banが終わったので、次はpickだ。ステージの優先権はブルーサイドの東源高校にあった。
実を言うと、重里高校の嫌がりそうなステージを事前に練り上げてあった。
だから普段は頭脳労働を避けがちな未柳が、ステージを選んだ。
「平原で決まりね。ここなら通常より視界が広くなるから、重装歩兵の動きが丸見えになるわけよ」
平原ステージとは、簡単にいえば森林ステージの鬱蒼とした森を伐採した場所だ。だから木々の全長は極端に低くなっていて、太陽の光もステージの隅々まで届くようになっている。
この環境の変化がステータスにも影響して、プレイヤーと歩兵の視界が拡大するわけだ。
となれば隠れて移動するのが困難になるため、足の遅い重装歩兵は立ち回りが難しくなる。重装歩兵の動きが鈍くなれば、重里高校の狙いである本拠地破壊は不可能になる。
東源高校としては、重装歩兵を放置してハンターとマジシャンを先に倒せば、ほぼ勝利は確定するだろう。
この理想的な倒し方を実現するためには、キャラクター選択も大切だ。
俊介は、ぐるぐると肩を回した。
「尾長部長、プランAとB、どっち行きます? 俺、ウィッチいけますよ」
プランAは、いつものように俊介がアタッカーとして活躍することを意味していた。
プランBは、俊介をサポートとして運用することを意味していた。
重里高校の隠し玉戦略とは、俊介や美桜みたいな優れた個人技の持ち主を回避するための術だ。
ならその優れた個人技の持ち主がアタッカーを仲間に譲ってしまえば、隠し玉戦略は機能不全を起こす。
プランBと、平原を選んだ意図を併用することで、重里高校の足腰はガタガタになることだろう。
尾長は、目頭を揉みながら数秒悩み、すぐに決断した。
「……Bでやるか。我々の特訓の成果を叩き込むんだ」
俊介は、両手の指先を揉みほぐした。
「いよいよ俺のウィッチを実戦投入ですね。信じてますからね、本日アタッカーをやる生徒会長」
未柳は、伊達メガネに指を通して気合を入れた。
「まかせなさーい! 接近してガンガン戦うんだから、ちゃんとサポートしてよね、天才さま」
尾長は、まるで先週を思い出したかのように、一度天井を見上げてから、自分のキャラクターを選択した。
「そして小生はマジシャンだ。先日の花崎の構成を使わせてもらう」
東源高校の構成は、ウィッチ、マジシャン、ファイターになった。
まさに東源高校を打ち倒した花崎高校の構成を借りたのである。敵の効果的な作戦が、今度は自分たちの作戦になるのも、また競技シーンの特徴だろう。
東源高校の構成が決まれば、重里高校の構成もオープンになった。
重装歩兵、マジシャン、ハンターだった。
やっぱり彼らはデータ通りの構成をそのまま使うようだ、と俊介は思った。良く言えば潔いし、悪く言えば愚直だろうか。だがいくら敵の作戦を見破ったところで、単純な力量差で負けることもある。
それが真剣勝負の世界だ。
「やってやるぞ、俺だってサポートをこなせるはずだ」
俊介は、タヌキみたいな顔を両手で揉みほぐして緊張を緩和した。
これからウィッチを使って、敵のダメージディーラーに飛び込んで、行動阻害を決める。
重装歩兵を無視して、マジシャンとハンターを落とせば勝ちだ。
だが外せば、手酷いカウンターアタックをくらって、東源高校は全滅するだろう。
しかし時にはリスクを背負わないと、勝利をつかむことなどできない。
イメージする形は、NKfantasmのVGAよりも、花崎高校の吉奈だ。VGAの動きを模倣できるならそれがベストだが、現在の俊介の腕前では不可能である。だからより腕前の近い吉奈の動きをイメージした。
俊介は、ふっと息を吐きだすと、魔女たちの後ろ姿を思い浮かべた。
「敵をリスペクトするんだ」
大事な心構えをつぶやくと、試合に集中した。
● ● ● ● ● ●
両校のキャラクター構成がオープンになったとき、重里高校側では激震が走っていた。
東源高校のキャラクター構成が、あまりにも予想外だったからだ。
「kirishunがウィッチ? うそだろ、アタッカーの役割を生徒会長さんに譲ったのか」
西岡は呆然とした。まさか東源高校がkirishunのアタッカーを捨てるとは思わなかったのである。完全にデータに反する構成であった。
しかし他校のデータと重なる構成があった。それに気づいたのは、四番ファーストの真田だった。
「これ、花崎高校の得意な構成だ。たしか東源は、一つ前の試合で花崎とやってるから、そこからヒントを得たんだな」
西岡は思わず頭を抱えた。まさか東源高校が花崎高校の構成を模倣するなんて予想外だったのだ。
いくら西岡たちが先週の花崎高校戦のデータを分析してあっても、あくまで東源の動きを徹底追及したのであって、花崎高校の動きは最低限しか把握していない。
尾長の策略は、西岡の一歩も二歩も先に進んでいたようだ。
大食いキャッチャーの吉川は、うーんっと困り果てた。
「本当に困ったな。重装歩兵を使ってkirishunのウィッチを避ける動きをしても、チームとしてのうまみが少ないんだ。かといって未柳さんのファイターを避けても……そこまでメリットがあるのか」
西岡は、控えの選手のデータも、きちんと覚えていた。
「未柳さんは、動きにだいぶムラのある選手だったが、個人技は結構いい線いってたはずだ。しかも今回kirishunがアタッカーを譲ったってことは、ムラを修正してきた可能性が高いな」
もし未柳がきちんとチームプレイできる選手に育っていたら、重里高校は初見殺しをくらう可能性が高かった。未柳が活躍したデータが一つもないからである。
重里高校は、重装歩兵をどうやって運用するのか、決めなければならなかった。【MRAF】のシステム上、どれだけ不利なマッチアップになっても、一度決めたキャラクター構成は変更できない。
現場の運用で不利を乗り越えるしかないのだ。
西岡は、首筋の裏側が熱くなるほど悩んだ。
kirishunはファイターを使っていない。あの超絶個人技が炸裂しないなら、重装歩兵を普通に運用して、タンクを一枚入れた正攻法として戦ってもいいはずだ。だが足の遅い重装歩兵を、三人構成で普通に使うのは恐ろしかった。
かといって当初の隠し玉案を採用しようにも、尾長の絶妙なpickにより平原ステージで戦うことになってしまった。あんな視界半径の拡大するステージでは、こっそり本拠地破壊を狙うなんて難しかった。
正攻法で戦うか、隠し玉案で突破するか。二つに一つだ。
西岡は、自分たちの長所と、尾長の策略を天秤にかけて、決断した。
「隠し玉案で行く。重装歩兵を盾にして、敵の本拠地を破壊だ」
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