特別書き下ろし短編
クソニート社会復帰風雲録 ~初恋篇~ と弟子(1)
これまでのあらすじ
アーデルモーデルとか言うクソニートを何とか社会復帰させよう!
そんな感じで親友のシコルスキ、ユージン、ついでにサヨナが、アーデルモーデルに対して様々な社会復帰のお手伝いをするような話があった、ってことにしておいてね★
*
「あヒィィィィィ……」
まだ朝日が昇る前ではあったが、アーデルモーデルは社会復帰訓練の一環として、自宅の近くを散歩させられていた。と言っても、周囲には誰も居ない。
……が、シコルスキに監視魔法を使われてしまったので、毎朝散歩した・しないが簡単にバレるようになっている。とはいえ、別にシコルスキは散歩しなくてもそこまで怒らないだろう。今まで、シコルスキが怒ったところをアーデルモーデルは見たことがないからだ。
問題は、シコルスキ自身は遠方に住んでいるので、その散歩の有無をユージンとかいうゴリラがチェックしてくるということだ。
このゴリラは容赦がない。しかも意外と近所(同じ王都内)に住んでいる。ゴリラの腕力にチンパンジーの凶暴性を混ぜた、ハイブリッド類人猿、それがユージンである。
なので、嫌でもアーデルモーデルは散歩に行かねばならない。人間風味のゴリラが怖いからである。一人でガチガチと怯えながら、アーデルモーデルは見知らぬ道を歩いていた。マンネリ化を防ぐために、毎朝なるべく違う道を歩けと、人語を操るゴリラに言われたのだ。
「知らない道怖い知らない家怖い朝日怖い……」
まだ日の出前であれば、何となく自分の存在が許されるような気がする。しかし、ひとたび朝日が昇ってしまえば、その眩しさが己を咎めているようであった。散歩のノルマは距離であり、何時に出たとかはあまり関係ない。さっさと自室に戻りたい――日が昇る前に。
「お……ヒェアアアアアアアアアア!!」
見知らぬ上に薄暗い道だったのが災いし、アーデルモーデルは勢い良くすっ転んだ。掛けていた眼鏡が吹っ飛び、さながら石畳がおろし金のように作用し、アーデルモーデルの顔面を粗く削っていく。引きこもりは転び方もクッソ下手であった。
「あ……あぁ……死ぬ……」
更に痛みへの耐性もないので、アーデルモーデルは己の命が燃え尽きることを察した。このまま誰にも看取られぬまま、静かに死ぬハメになるとは。責任取れやあの人型ゴリラ共。
そんな悪態を内心でつける程には余裕があるのだが、ともかく本人の心境としては立ち上がることも出来ず、ヘッスラの体勢で死を受け入れざるを得なかった。
「あ、あの……?」
なので、自分のすぐ傍に誰かが立っているなど、この引きこもりキノコは思いもよらなかったのである。
「………………」
が、そこは天才発明家として鳴らしている頭脳がある。童貞の性知識披露並に空虚なモノではあるが、アーデルモーデルは瞬間的に考えを巡らせた。
――即ち、死んだフリである。
痛くて動けないわけではない。転んだ姿を見られたことが恥ずかしいわけでもない。
純粋に知らない人と喋るのが怖いだけである。まだセミの抜け殻の方が社交的だった。
「大丈夫ですか? 気絶、してるのかしら……?」
(やめろやめろやめろやめろ、小生は金目の物なんざ持ってねえからあっち行けシッシッ)
「誰か人を呼ばなきゃ――」
(!?)
人を呼ばれる→注目を浴びる→もっと怖い><
天才発明家による三歳児未満の理論が瞬時に構築された。このまま動かずに居ると、コイツは間違いなく増援を呼ぶ。引きこもりによる野生の勘(矛盾)が冴え渡った。
「ほおああああああああああああ!!」
「きゃああっ!?」
唐突に顔を上げ、アーデルモーデルは裏声で叫ぶ。この人型ゲリョスを覗き込もうとしていたのか、その女性は思わず尻餅をついた。
――その時、微妙にしょっぱい奇跡が起こった。
丁度、日の出を迎えたのである。朝日に色付く街路が、その女性を優しく照らしていく。
未だ影の中に居る陰の者にとって、その光景は、まさしく後光の如く――
*
「最近ね、あーくんの様子がおかしいのよ~」
「いつものことでは?」
「常におかしいですよアイツは」
「つまり平常運転ですねえ」
「あら~、あーくんったら愛されてるのね?」
急ぎ来て欲しいと、アーデルモーデル母に招集を受けた三人組。とりあえず来てみたところ、何やらアーデルモーデルの様子がおかしいとのことである。
が、テンプレな反応を三人は返すのみであった。
「具体的にどうおかしいのでしょうかね?」
「最終的にぶん殴る前に聞いといていいっすか?」
「何で殴る前提なんですか……」
「ええーっと、いつもはあーくんって、ご飯が欲しい時は床とか壁をドンッて叩くんだけど~」
「壁ドンに床ドン……」
「原理主義者だなアイツは……」
「給餌の合図としては分かりやすいですねえ」
ほとんど部屋から出ないアーデルモーデルは、何かを親へ求める時、そういうサインを出すとのことである。が、そのサインが最近ほとんどなく、ともすれば死んでいるのではないかと、アーデルモーデル母は急いで部屋に駆け付けたらしい。
「そしたらね、あーくんが部屋でぼーっとしてるの。お部屋の鍵だって掛かってなかったのよ? お母さん、あーくんが大きな病気になったんじゃないかって、心配で心配で……」
「ニートっていう国が指定した難病患者ですけどねアイツは」
「単に物思いに耽っているだけでは……?」
「ニートが物思いに耽るだけで事件ですよ、サヨナくん」
「思考をする生き物であるとすら認められてない!?」
一日や二日ならいいが、そのぼーっとしている期間が、かれこれ一週間は続いているという。
なのでアーデルモーデル母は、息子の友達である三人をここへ呼んだらしい。
「あーくんのお友達のみんななら、原因を突き止められるんじゃないかと思って。それに、シコルくんは物知りだから、いっそあーくんを治すことも出来るんじゃないかしら~?」
「病気の類であれば、治せる可能性はありますねえ」
「
「ユージンさんって、異様にアーデルモーデルさんに手厳しいですね……」
「ともかく、一度我々で診てみます。解決の暁には――」
「ええ。こんなおばさんでいいのかしら~?」
アーデルモーデル母の手をシコルスキが取った。サヨナの知らないところで、今回を依頼という形にしたシコルスキが、報酬を設定していたようである。
「ちょっと、先生。何やってるんですか」
「何って、僕の名前を思い出して下さい」
「は? シコルスキ・ジーライフ……ですよね?」
「いえ……ロベルト・ペタジーニです」
「しつけえんだよお前そのネタ! どこまで本気かも分かんねえしよ!」
「それにしても、二人っきりで夜景を見に行きたいって、まるでデートみたいで恥ずかしくなっちゃうわねえ~」
「本気ですよこれ!! 好感度稼いでルート構築してますよ!!」
「マジでやめろって!! 何がそこまでお前を突き動かしてんだよ!!」
「情熱を秘めた肉体――ですかね」
「
「ああもう行くぞお前ら!! んじゃおばさん、俺らちょっくら行ってきますんで!!」
「ユーくんにサヨナちゃんも、よろしくね~」
ペタジーニなのにジョナサンもリスペクトするシコルスキを制し、ユージンはアーデルモーデルの自室へと向かった。その後をサヨナとシコルスキも追う。
基本的にアーデルモーデルの自室はニートの『巣』とでも呼ぶべき空間であり、入口は常に施錠されている。よってシコルスキやサヨナは魔法で解錠し、ユージンは無理矢理鍵をぶっ壊して入るのがいつものパターンだった。
が、ドアノブをひねると、簡単に扉が開いてしまう。
なるほど確かに、これはアーデルモーデル母も違和感を抱くわけである。
「おい、アデル! 入るぞ! んで殴るぞ!」
「襲撃しに来たんですか?」
「ふむ。見たところ、最近彼が発明品を作った形跡がまるでない。いよいよもって本格的に、無気力ニートに片足を突っ込んだのでしょうかね?」
シコルスキ曰く、部屋が『何かをしたから汚れた』ではなく、『単に汚い』だけのようである。
曲がりなりにも発明という趣味を持つアーデルモーデルが、それを一切していない。ニートがゲームすらしなくなったら、むしろ親がめちゃくちゃ心配したという、異界に伝わる逸話を改めて三人は思い出していた。
で、アーデルモーデル自体はベッドの上で座っていたので、すぐに見付かったのだが――
「………………」
「何か虚ろな目をしてますけど……。心ここにあらず、みたいな」
「漫画的表現を小説に持ち込むのは嫌いなのですが、それでもあえて使うのであれば、レイプ目……という状態ですかね」
「その前置き要ります?」
「おうコラ! アデル! お友達が遊びに来てやったぞ! 返事しろ! もてなせオラ!」
「………………」
ユージンがアーデルモーデルの肩を揺さぶるが、しかしアーデルモーデルは無反応である。
世界には魂を抜き取る魔物が存在するというが、その魔物に攻撃されたのだろうか。普段は口やかましい部類のアーデルモーデルの変貌に、さすがにサヨナも心配になる。
が、この行商人の皮を装ったゴリラは、
「ッキャオラァ!!」
「ォぼッ」
アーデルモーデルの鼻っ柱を殴り飛ばし、ベッドに倒れたところを馬乗りになる。そのまま顔面を中心に手加減ゼロの拳を叩き込み続ける様は、ゴリラボディにチンパンハートを手に入れた化け物そのものであった。
あえて擬音にするならば、ドゴッとかバキッとか言う音が、ンズチュ、ヌゴチュ、などと洒落にならない水気の混じった音になってきた頃合いで、レフェリー型ヒロインのサヨナが止めに入った。
「ストップ! ストーップ! 死にますよこの人!?」
「は? アデルの分際で俺らを無視するとか、死んでもなお拭えねえ大罪だろうが」
「罪に対する罰が異様に重くないですかね!? 魔女狩りか何か!?」
「ていうかもう原型ないですねえ、アーデルモーデルくんの」
辛うじてかつて人間であったことくらいは分かる程度に、アーデルモーデルはユージンの愛のムチで破壊されていた。これがギャグ小説でなければ、一転してスプラッタホラーである。
まあギャグなんですぐに蘇生するんですけどね――と、シコルスキが苦笑しながら治癒魔法をアーデルモーデルへと施した。
「……はッ!? しょ、小生は一体何を……?」
「やっと起きたか。悪い夢でも見てたんじゃねえの?」
「えっお前めっちゃ血まみれじゃん……? お前の存在が悪夢そのものじゃん……?」
「バーサーカーなんですか? ユージンさんって」
「彼はアーデルモーデルくんと僕が好き過ぎて、時折おかしくなるのですよ」
「実家の犬……!?」
「黙ってろ! よォアデル。何かお前、最近様子がおかしいらしいじゃねえか」
「チッ……あのババアか。余計なことをしたのであるな」
不快感を露わにしながら、アーデルモーデルが吐き捨てるように言う。この三人が揃っていることに対し、母親の差し金であるとすぐに察したようだ。
「我々で良ければ相談に乗りますよ。何でも話して下さい」
「生きるのが辛くなったんですよね? まあでも仕方ないですって、ファイトっ!」
「やかましいわ小娘!! キサマの顔面に
「実際どうなんだよ。望むなら楽に眠らせてやるけど? さっきみたいに」
「埋葬先とかも言って下されば極力考慮しますよ。墓穴を掘るのはサヨナくんですが」
「えーっ。別にそのへんの溝で良くないですか?」
「落ち葉かコイツは」
「いや何でキサマらは小生を永眠させる方向に持っていくのであるか!?」
「君の悩みがまるで思い当たらないので……。なら生存罪に自覚したのかな、としか」
「生存罪!? っつーか小生も普通の悩みぐらい持つわ!! 小生だってミミズだってオケラだってアメンボだってみんなみんな生きてんだぞ!!」
「その言い回しだとあなた虫と同格になりますよ」
確かに、アーデルモーデルが生存罪に気付いたのであれば、もうちょっと申し訳なさそうにしているはずである。だがいざ面と向かって話してみると、どうもいつもとあまり調子が変わらない。身体に関する病気、という線は薄そうであった。
「だったら今すぐ話せよ。ダチだろ? 俺らは」
「……別にそれは吝かではない。だが誓え。絶対に笑うんじゃないのである」
「生きているだけで面白い君を見て、それは中々に厳しい」
「でもアーデルモーデルさんは笑わせるタイプじゃなくて、笑われるタイプですよね」
「とりあえず腹筋に力込めろお前ら! あと息も止めとこうぜ!」
「別にフリじゃねえよ!! キサマら陽キャのノリで小生を泣かしたいのか!?」
「…………」
三人はガチで息を止めていた。更に腹筋へ力を入れているので、ピクピクと身体も小刻みに震えている。本質的にコイツらは陽キャである――それを悟った陰キャ眼鏡は、己の悩みをそっと打ち明ける。
「小生は――――……生まれて初めて、恋をした」
「ブほっ!」
ユージンが一気に噴き出した。
「むくぷぷぷぷ……っ」
サヨナが耐え切れずに、少しずつ噴いた。
「ンボッッリュルリュリュリュリュリュリュリュリュリュ!! ブチュボッ!! 糞ッ!!」
シコルスキが全部出した。
「このチンカス共がァーッ!! 笑うなっつったろうがァーッ!!」
「い、いや、笑ってねえって……ぶふふっ、で、何だっけ? 赤ヘル軍団の話?」
「鯉じゃねえよ!!」
「行為者が犯罪事実の発生を積極的には意図しないが、自分の行為からそのような事実が発生するかもしれないと思いながら、あえて実行する場合の心理状態ですかね?」
「未必の故意でもねえよ!!」
「物知りだなお前」
「むぷぷ……ダメですよ、先生にユージンさん。笑ったら……むぽーっ!」
「ヒロインらしからぬ笑い方ですね君も」
「っつーかしょうもねえ三流映画のキャッチコピーみたいなこと言う前に働けやゴミ」
「最近のライエンドって何か小生にめっちゃくちゃ厳しくない!? 本当にダチなのか!?」
もしかしたらアーデルモーデルは正気を失っているのかもしれない……と、こいつらが判断するぐらいには、トチ狂ったことを言ったのである。
ニートと恋。最早対義語レベルで無縁な言葉同士だろう。
「で、本当の悩みは何ですかね? 今みたいな面白いジョークはご遠慮したいのですが」
「ジョークじゃねえ! 小生は本気で恋をしたのである!」
「恋に失礼ですよ、そんなの」
「うるっせえぞまな板ァ!! 台所にハウス!!」
「ああ!? 最近の腐れキノコはまな板語を理解出来るご様子で!?」
低レベルな殴り合いが発生しそうだったので、シコルスキが弟子をどうどうと宥めた。
改めてアーデルモーデルの発言を噛み締めたユージンは、疑問符と共に言葉を返す。
「お前が恋って……生態系乱そうとしてんのか?」
「ライエンドくんってぼくのこと嫌いなの!?」
「キャラが出てないですけど」
「これが彼の地です」
あくまでまともに取り合わない三人に業を煮やしたのか、アーデルモーデルはそっぽを向いてしまった。分かりやすい拗ね方である。
「……もういい。さっさと帰れ。キサマらに話した小生が愚かであった」
「拗ねんなよ。殺すぞ」
「二言目で殺意って早すぎませんかね……」
「ユージンくんなりの愛情表現ですからねえ。まあ、我々のおふざけが過ぎた、というのも事実ですし。すいませんね、アーデルモーデルくん。詳しく聞かせてくれますか?」
「…………。まあ、そんなに聞きたいのならば、言ってもいいけどォ~?」
「そういう態度を取るから、いつもこの二人にやられちゃうんですよ」
速攻で図に乗り始めたアーデルモーデルに対し、サヨナが忠告をした。無意味だった。
見知らぬおっさんの趣味並にどうでもいい話題だったが、何やかんやでアーデルモーデルは全部言いたかったのだろう。少し水を向けただけで、ペラペラと語り始めた。
「――あれは、一週間程前だろうか。小生は日課のロードワークをこなそうと、朝日が昇る前に家を出たのである」
「初っ端から話盛ってないですか?」
「話半分、って感じで聞きましょうかねえ」
「ロードワークする前にワークしろや」
「シャラップ! そこで、小生はトラブルに遭ってしまってな。まあ、そのトラブルの中身は本筋に関係ないので省くが……結果としてトラブルで負傷した小生に、現れたのである!」
「先生。今晩ってどこに泊まるんですか?」
「ふむ。時間的にも、そろそろ宿を取っておきたいところですね」
「なら俺んち来ていいぞ。部屋空いてるし」
「話全部かお前ら!?」
「しっかり聞いてるニュアンスになるだろその使い方だと!」
陰キャは話がつまらない――猿でも知っている理屈である。
鬱陶しそうに手をひらひらと振りながら、ユージンが続きを促す。舌打ちと共に、しかしアーデルモーデルは意気込んだ。
「――女神! そう、まさに女神! そのように形容するしかなかった! 朝日を背負い、優しげに小生へ微笑むその様は、女神そのもの! 小生は、女神に、恋をしたッ!!」
「何か
「ニートで薬物依存……もう二度と社会復帰出来ませんねえ」
「女神って訴訟とかするんですかね? そしたら負けますよこの人」
「死ねーッ!! ともかく、それ以来小生の脳裏にこびりついて離れないのである! 女神の微笑みが! 芳香が! 差し伸べた手の温もりが! 屈んでちょっと見えた胸の谷間が!」
「女神に全力で不敬してますけど!?」
「天罰下んぞ」
「谷間が出来る程の胸の持ち主……これは興味が出ますねえ」
前向きに略奪愛を考え出したシコルスキに対し、アーデルモーデルは目を血走らせ、部屋に置いてあった工具を持って飛び掛かる。
もっとも、シコルスキはひらりと避けてしまったのだが。
「キサマァァーッ!! 女神の寵愛を受けていいのは小生だけだーッ!!」
「恋と言う名の宗教にドハマリした、というわけですか」
「殺すッ!! 女神に邪な目を向けたら、いくらダチであろうとも殺すッ!!」
「いやこれもうただの狂信者じゃないですかね……」
「落ち着けよ生ゴミ」
ユージンがアーデルモーデルを蹴り飛ばすと、枕よりも軽く吹っ飛んで壁に激突する。
それでようやくアーデルモーデルは落ち着いた。行動はアレだったが、戦闘力はその辺の雑草と同格である。
「んで……お前は一体どうしたいわけ? ニートの分際で思い悩んでんじゃねえぞ? あ?」
「ラ、ライエンドくんは人権って言葉知ってる? どうしたいって……それは……」
「アーデルモーデルくんの様子がおかしいとのことで、我々は君のお母様よりここへ呼ばれたわけですし。今の君を何とかしなければ、帰るに帰れません」
「じゃあもう手遅れってだけ報告して帰りましょうよー」
ぼやくようにサヨナが雑な提案をする。
恋の悩みならば普通テンションが上がるものだが、悩みの持ち主が持ち主なので全くそうならない。むしろどうでもよさが勝り、サヨナは王都を適当にぶらついて暇を潰したかった。
だが一応友人思いであるユージンは、アーデルモーデルの意志を確認している。もじもじとしながら、アーデルモーデルは考えた結果、ささやき声に近い音量で声を漏らした。
「そ、その……出来れば、お近付きになりたい……みたいな……?」
「ほーん。おいお前ら集合! アデルはそこで待ってろ!」
シコルスキとサヨナは、ユージンから部屋の隅へ呼び出される。明らかな密談だったが、アーデルモーデルは聞き耳を立てるわけでもなく、素直にその場で待っている。半端なところで従順なキノコだった。
「なんですか? こんなこそこそ話みたいなの……」
「さしずめ、我々への意思確認といったところですかね?」
「まあそんな感じだ。俺は、こいつはチャンスだと思う。曲がりなりにもあのバカが、外の世界へ真っ当な興味を持ったんだ。利用しない手はない。そうだろ?」
「それって……要は、アーデルモーデルさんの恋の応援をするってことですか?」
「そうなるな」
「ユージンくん」
「何だよ」
「虫は人になれません」
「どういう意図でそれ言ってんだお前!?」
「とはいえ、協力するに吝かではありませんよ。投げたい匙ではありますが、そうなるとお母様に悪印象を抱かれてしまいますし。それに、彼の恋の相手が人間とは限りませんからね」
「店先のキノコとかだったら楽そうですよね」
「いいですねえ」
「俺が言うのもアレだけど、お前ら師弟はアイツのことを何だと思ってんの!?」
やや取り組む姿勢に違いはあるものの、三人は結託することとなった。
元より、アーデルモーデルの社会復帰を常々促してはいるのだ。ユージンの言うように、これはその絶好の機会となるだろう。
ごほんと咳払いして、待っていたアーデルモーデルの前にユージンが立つ。
「あー、待たせたな。アデル、協議の結果、俺達三人でお前の恋を後押ししてやることにした」
「たとえ君の前に広がるのが断崖絶壁であろうと、遠慮なくその背を押すつもりですので」
「っていうかその落ちざまを楽しみにしてます」
「お……おお。何か引っ掛かる連中が居なくもないが、そうであるか。べ、別にっ! キサマらの手なんて借りなくとも平気であるが! そうまで言うなら手伝わせてやるのである!」
「コル。どこ殴ったらいい?」
「顎で」
「了解」
「な、何でであるかバぁゥ!?」
単純に気持ち悪さしかないキノコのツンデレを、ユージンが武力で制圧する。
――ニートの恋をざっくばらんに応援し隊、発足!
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