第三話◎魔王と弟子:その3


    *


「先生。何をするのかは分かりませんが、本当にやるんですか? ここまでやっておいて今更ですけど、相手は魔王ですよ? くみするのはちょっと……」

「約束は約束であろう。にすることは余が許さぬ!」

おさなじみが人類の敵になるのを、まさかこの目で見届けることになるとはな……」

「ははは。心配には及びませんよ。人類であるサヨナくんたちも、魔族であるカグヤさんたちも、双方が納得出来る方法がありますから」

 そう断言されると、誰も何も言い返せない。常に余裕を感じさせる言動しかしないのは、賢勇者たる所以ゆえんであるが──シコルスキは静かに、くうへ魔法陣を描き始める。

「何をしているんですか?」

「この魔法は少々発動に時間が掛かりまして。召喚魔法の一種ですよ」

「召喚……? シコっちの考えは、余にはとんと読めぬ」

「変なモンぶなよ。頼むから」

 考えられるパターンとしては、シコルスキがんだ何かを、そのままカグヤの配下につける──というものだろうか。その場合、召喚物はシコルスキの命令通りに動く。

 もしカグヤがちやちややろうとしても、事前に止めることだって容易だ。それでいて、普段はカグヤの下につけていれば、部下としても働くことが出来る。解決方法としては、かなりスマートかもしれない。

「さて──皆さん下がっていて下さい。今からぶのは、少しばかり大きいのでね」

「お、おお……そのような大物が余の部下になるのだな。これは楽しみであるぞ!」

「暴れたりしませんかね……?」

「分からん。俺、魔法はからっきしだから」

 宙空の魔法陣は激しく明滅し、立ち上る魔力がシコルスキの髪の毛とローブを巻き上げる。まだまだ青いサヨナではあるが、これがかなり強力な魔法であることは分かった。それをこうも簡単に行使する師は、中身はアレでもやはりすごい。

 久々に見る師の勇壮な姿を、サヨナは目に焼き付けておいた。

「我が命に応じでよ────《アド・レイス》!」

 光は凝縮され、次の瞬間には膨れ上がり、爆音と共にシコルスキ邸一帯を飲み込んでいく。思わず三人は目を閉じ、耳を手で覆った。やがて、プシューっと、空気が抜けるような音と共に、巨大な何かが現れた気配がする。

 ゆっくりと、サヨナは目を開けた。そこには──




〒102‐8584

 東京都 千代田区 1‐8‐19

電撃文庫編集部

「魔王軍応募係」



「何ですかこれ!?」

「異界にあるという謎の組織、通称《悪の巣窟KADOKAWA》と言うらしいのですが、その本拠地です。《アド・レイス》はその本拠地の場所を、こうして目に見える形で表示する秘術ですよ」

「何で全方向にけん売り飛ばしてんだよ!! 消されんぞ!?」

「大丈夫ですよ。これ初稿なので」

「改稿でカットされる前提で物を言うな!! 今読まれてるってことは残ってんぞオイ!」

「心配症ですねえ、ユージンくんは。分かりました、では《慈善事業団体KADOKAWA》と呼びます」

「おもねる場所が全然足りてないですよ!!」

 形容し難い威容をってして、シコルスキの召喚物は輝いている。その様はさながら、まつ作家など指先一つでぶっ殺せるとでも言いたげだった。とてもこわいぞ。

 それはともかくとして、なにゆえこんな危険物をんだのか。カグヤの疑問に対し、シコルスキは千代田区の『富』の辺りを手ででながら答えた。

『ニャァ~ン……』

(鳴くんだ……これ……)

「使い方としては実に簡単ですよ。ハガキというアイテムに、これを読んでいる君の考えたオリジナルキャラクターを記載し、当住所へ送って頂ければ、なんつちぞうが吟味した上で次巻に魔王軍の配下として登場する予定です」

「知らねえ名前がポンポン出て来てんぞ!!」

「誰なんですかなんとかつちとかぞうって!? 犯罪者ですか!?」

「似たようなものですよ」

「つまり、親切な方々の応援で、余の配下が増えていくという仕組みだな! んむ、素晴らしいではないか! 労せずして部下を得ることが出来るぞ!」

「多少時間が掛かるのが難点ですがね。進展がありましたら、こちらから魔王城へ連絡を差し上げますよ。応募に際しての取り次ぎは僕がやっておきますので」

「楽しみだ! もしたくさん来たらどうする、シコっち!?」

「セル戦辺りのドラゴン●ール人気投票ぐらい来たらうれしいですねえ」

「十四万通来たら電撃文庫編集部破裂するわ!!」

「その選考過程で三人の犯罪者たちも過労死してそう……」


 こうして──魔王カグヤはホクホク顔で飛び去っていった。

 いつか増えるであろう、自身の部下に思いをせながら──

「……先生。もし応募が来たら色んな意味でどうするんですか?」

「そもそもオール無許可ってどういうことだよ」

「ああ、大丈夫ですよ。本作は単巻完結なので、そもそも次巻などありませんから。よってカグヤさんの部下が増えることは、応募があったところで今後一生有り得ません。その上で彼女は納得して帰った。つまり人類側、魔王側、どちらも救うことが出来た──というわけです」

「こんな悲しい理由による解決方法あります!?」

「何よりもこの作品が救われないオチじゃねえか!!」



〒102‐8584

 東京都 千代田区 1‐8‐19

電撃文庫編集部

「魔王軍応募係」



「それと、これの世話はサヨナくんが今後行って下さい。ちゃんと毎日、餌と水を与えないとダメですよ? 立派な命──そして貴重なマスコットキャラですので」

「これマスコットキャラ枠なんですか!?」

「出る度に8行消費するマスコットとかたまったもんじゃねえわ! 捨てろ!!」

「裏庭に小屋を建てたので、そこにつないでおきましょうかね」



〒102‐8584

 東京都 千代田区 1‐8‐19

電撃文庫編集部

「これからお世話になります係」



「そこでコミュニケーション取んの!?」

「ていうかさっき猫っぽく鳴いてませんでしたっけ!?」

ちなみに『富』の下辺りを優しくでると喜びますので、覚えておいて下さい」

 役立つかどうか果てしなく微妙なアドバイスを授けられ、サヨナは非常に呼び名に困るペットを手に入れた。処分方法すら分からない、まさに特定外来生物であるが……。


 なお、敗北者である弟子に対し、後日きっちりとフランス書院文庫の刑が行われたというが、その詳細な内容については、確かなことは分かっていない──



《第三話 終》




※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係ありません。ほんとだよ。

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