第一話◎救水と弟子:その2
*
「改めまして、初めまして。賢勇者の《シコルスキ・ジーライフ》です。何だか遠いところからいらしたようで。結構な難所だったでしょう? ウチの樹海」
「いやはや、強力な魔物ひしめく、まさしく魔境と呼ぶに
「同じく初めまして……。先生の弟子の、《サヨナ》と申します。えーっと、その……」
「どうなされた?」
「……あんまりこっち見ないでください……」
和やかな雰囲気で、机を挟んで談笑する二人の男。かたや激戦を幾度も
どれだけ言っても、この二人の変態は服を着なかったのである。
横を向いても前を向いても、全裸の男しか居ない。ヘヴィな状況だった。
「ハッハ、これはあいすまん。かの賢勇者シコルスキ殿に、
「そんな
「客人に食って掛かるのは感心しませんねえ、サヨナくん。
「だから何でさっきからわたしも脱がそうとするんです!?」
「心配めされるな、サヨナ
「そんな心配してないんですけど!!」
「ハッハ、これはあいすまん」
(な、何だこのアイスマン……!?)
苦々しい顔で、サヨナは騎士へと侮蔑の瞳を向ける。第一印象にあった、真面目で厳格な騎士の中の騎士──という幻想はとうにぶち殺されている。っていうか、
そんなアイスマン……もとい、ハマジャックは、改めてごほんと
「
「ふむ。まあ、僕に出来ることなど限られてはいますが──それでも、わざわざ訪ねて頂いたお客人を、回れ右させて帰らせるほど無情でもありません。いいでしょう、どんな悩みでもお伺いしますよ。それなりの報酬は頂くことになりますけどね」
「それは承知の上。少々長い話ではあるが、お付き合い頂きたい」
(門前払いだけは絶対にしないのは、先生の
遠くを見るように、天井を見上げながら、ゆっくりとハマジャックが語り始める。
「──全裸で
(何で来る人来る人、みんな変人ばかりなの……)
しっかりと耳を傾けているシコルスキの横で、
で、その騎士の中の騎士であるおっさんが先程まで身に着けていた
「試験運用は済み、間もなく本格支給段階に入る頃合いで、
この
なので、実演の場に
「そうして、
脱げた
その場に居なかったサヨナですら分かる。恐らく会場はとんでもない空気になったのだろう。
サヨナは考えただけで頭が痛くなった。
「何で下に何も着てなかったんですか……? ちょっと考えれば分かるはずでは……」
「騎士道とはッ! 己を曲げずに貫き通すことに在るッ!」
「全裸
「格好良く言ったって無駄ですよ!?」
後悔はない、と騎士は語る。お前に後悔はなくても王は後悔したことだろう、と弟子は思う。
これまでの功績や現在の身分を
しかし国のメンツを文字通りぶっ潰したわけなのだから、そこは無理をしてでもこの変態を
「王は
「子供の言い訳のようですねえ。一国の王らしくもない」
「いや、この人がまともな思考が出来てないのは普通に事実じゃないですかね……?」
「近日中に、再度実演会が行われる運びとなり申した。そこで、賢勇者殿に頼みたいことは」
「──何かしらの衣服を作ってくれ、というわけですか。全裸
「話が早い。
「何でまだこの人に実演させるんですか? 他の人にすればいいのに……」
「ハッハ、これはあいすまん。
(既に
「ハマやん氏は他国にもその名が知れ渡っていますからね。そういう方面に
「股に来る比喩、感服致す」
(部屋に帰りたい)
ハマジャックは別段、全裸
次やらかしたら多分死刑であると、騎士は笑いながら述べた。何で笑ってんだこのおっさん、とサヨナは完全に引いていたが、その辺りの豪胆さは歴戦の騎士が故のものなのかもしれない。
「
「ハマやん氏だの股ぐらジャックくんだの、ちょっと失礼なのでは……」
「ハッハ、構わぬ。
「その時どうして国は逮捕しなかったんですか、この人を」
「昔から強かったのでは? さて、ハマやん氏。三日間ですが、どうされますか? ウチは空き部屋がまだあるので、完成までの間、泊まって頂いても構いませんよ」
そうシコルスキが提案すると、サヨナが全力で首を真横に振った。
「ダメです先生。この人は帰らせてください。一生のお願いです」
「まだ一話ですけど、もう一生のお願いを使うのですか?」
「先生が何を言っているのか分かりませんが、使います」
「歓待は身に
「してないですけど!?」
「──
それを聞いて、サヨナはホッと胸を
師であるシコルスキだけでも、日中全裸でうろちょろするからアレなのに、そこにおっさんも加わったら地獄絵図でしかない。その辺りの配慮を、残念ながらシコルスキは全くしないので、ハマジャック自ら帰ってくれるのならば、それに越したことはない。
一応分別はあるのか、ハマジャックは
「ハマやん氏もまた、大きな
「な、なんですか急に」
「いや、深い理由はありませんよ。君がここに来て、もう一ヶ月になる。そろそろ慣れていかないといけない頃合いですから。今すぐに、とは言いませんがね」
「努力はしますけど……。あの、一応わたし、年頃の女の子ですからね? 毛むくじゃらの裸のおじさんを前に、平然と対応しろって方が無茶ってことだけは、先生に理解して欲しいです」
「それじゃあ工房へ行きましょうか」
「無視かい」
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