賢勇者シコルスキ・ジーライフの大いなる探求
有象利路/電撃文庫・電撃の新文芸
第一話◎救水と弟子
第一話◎救水と弟子:その1
最難関ダンジョンと呼ばれる『欲望の樹海』を抜けたその先に、穏やかな草原が広がっているということを知る者は数少ない。熟練の冒険者でさえ、
ならば、その草原にぽつんと
「ここか」
騎士は小さく
「はい、どちら様でしょう?」
小さく扉が開くと、そこには小柄な少女が立っていた。
いずれにせよ、容姿端麗な美少女に迎えられて、気分を害する男は居るまい。騎士は一度
「
「そんなかしこまらなくっても大丈夫です! いいですよ、先生どうせ暇ですし! どうぞどうぞ! こちらへ!」
軽い調子で、少女が屋内へと手招きする。彼女は小間使いか何かだろうか。
あまり広い家ではないが、それでも外装からは考えられない程に小奇麗だった。常に来客を想定しているのだろうか、隅々まで清掃が行き届いている。もっとも、賢勇者が住む家と考えれば、随分と平凡なように思えたが、口に出すのは
「こちらにかけてお待ちください。すぐに先生を呼びますので!」
「かたじけない」
「いえいえ、お気になさらず」
にっこりと少女は
連れられた部屋は、応接間と呼ばれる場所のようだった。革張りのチェアが、木目調のローテーブルを挟んで二脚ずつ、対面して置かれている。両開きの窓には花瓶と、そこに
「ちょっと先生ええええええ!!」
先程の少女のものと
そして、扉が開け放たれ──
「お待たせしました。シコルスキです」
──一糸
「何で服着てないんですか!! 裸でうろちょろするのやめてくださいって言ったでしょう!?」
「そして彼女は弟子のサヨナくん」
「あ、どうも……じゃない! こんな形でサラッと紹介しないで!!」
「こういうのはツカミが大切なんですよ」
「何も
弟子から
賢勇者は腰にまで届きそうな程に長い銀髪を、
しかし、客人を迎える対応としては、最悪を超えて
「ほらあ! お客様も怒ってますよ! すぐ謝って、服を着てください!」
「まあ、そう言わずに。これが我々の流儀ということにして、サヨナくんも脱げばどうです?」
「ありえない形で脱衣を促してきた!!」
「…………」
腰に差した剣に、騎士が手を掛ける。よもや無礼討ちかと思った弟子サヨナだったが、騎士は無言でその剣を床へと落とす。顔は
騎士は小さく何かを
「え……?」
次いで、ガシャンガシャンと部屋に響く重低音。騎士が身に着けていた、威容を誇るその黒き
「同志と、お見受け致す」
──数秒後、そこには全裸の毛深いおっさんが、腕組みをして突っ立っていた。
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「ははは、どうやら相手の流儀でもあったようですね」
ここは、魔境の先にある、賢勇者の
知る人ぞ知る、知と恥がまばゆく輝く場所。
いつか、誰かが、その家をこう呼んだという──変態の集積地、と。
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