六話

 宇宙船は星のかなたに消えていった。

 その航跡には、どこに伸びるとも分からない階段が残る。想像すればするほど絶望に打ちひしがれそうな長い長い階段だ。

 「夢とおんなじ……」

 彼女は階段を登り始めた。いつまでかかるか分からないまま。

 しばらく歩いていたら、向こうから何かがやってきた。もう、迎えが来たのだと思って手を振ったが何の反応がない。やがてそれは目の前にまで迫ってきて、少し先の階段に落ちた。手のひらサイズの小さな人工衛星みたいだ。きっと城戸の宇宙船から落とされていったものだろう。

 その場に座って何か文字がないか探したけれど、すべてパーツの名前のようなものばかりでメッセージみたいなものは全くなかった。

 少しショックでそのまま階段に座り込む。

 気がつけば登っていたはずの白い階段を降りていた。

 その先には、お墓があった。


 目が覚めて、顔を起こす。

 そこに肘枕をして寝ていたみたい。

 私の名前が刻まれたお墓だ。納骨室が開いている。そこに骨壷があった。

 やっぱり、死んでいたんだ。今までの話も全て、走馬灯の中で見た夢。きっとそうだ。

 これから幼稚園の先生が言っていたように、天国へと昇る階段を登っていかないと行けないのだろう。階段を探そうと後ろを振り向いた時、おじいさんがオートジャイロのステップに座ってこちらを見ていた。

 「ああ、ようやく覚めたか」

 「飛行士のおじいさん、どうして……」

 「私も、自分の名前の入ったお墓を見つけたが、そこには骨壷は無かった」

 「あたしのはありましたよ」

 「開けてみたらいい」

 骨壷を開ける。空っぽだった。

 おじいさんの方を見ると背中を向けて何処かへと歩き出していた。一匹の蝶が彼女の視界を過る。

 「これは、夢ですか?」

 「胡蝶の夢、という古い言葉を知っているか」一度振り返ってそう言った。

 「知ってます」

 「どんな世界であれ、そこが現実だと思えば、現実だ。夢だと思えば夢」喋りながらオートジャイロの方に歩いていく。「どっちがどっちなんて──」

 「待ってください!」

 「君は悪い事をした。申し訳なかった。ムーンシップの事故は──」

 「詳しく話を聞かせて下さい!」

 おじいさんは待ってくれることなく、ジャイロの中に消えていった。

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