五話

 アラームが鳴る。ここを去らないといけない。

 「時間?」

 「ああ、そろそろ戻るよ」

 「そう……あの宇宙船で一緒に地球へ帰れる?」彼女は尋ねた。

 「連れていきたいができない。救助要請を宇宙船に戻って出す」

 「どうしても無理?」

 「無理だ」

 「救助者用の座席もないの?」

 「人一人でギリギリの燃料なんだ」

 「残念だなあ……階段は残してくれる?」

 「階段を残す?」

 「あたしの夢では、宇宙船が去って行く時に、空まで続く階段が残ってたんだ。そして、私がそれを登って行くの」

 「へえ……」

 彼女は俺が見た夢と違う夢を見ていたようだ。

 「迎えに来る、必ず」そう言って、バタフライ号に向かって歩いていく。「その迎えが階段だ」

 彼女もついてきた。

 バタフライの手前で乗り込む前、紗理奈は俺に抱きついてきて、すぐに離した。嬉しそうな、でも悲しそうな顔をして。

 「最後に一つ。なんで、俺なんだ?」

 「いちばん、ここまで来そうな気がしたから」そう言った彼女の目は虚ろだった。

 「そう、か……」

 彼女は小さくうなずいた。彼女は俺がみた夢を知っているのだろうか。

 「来てくれて、ありがとう」

 こんなにも後ろ髪を引かれる思いは人生で初めてだ。

 操縦席に座るとシャリーが声をかけてきた。

 「ミスター城戸、レディはおいていくのかい?」

 「この状況じゃ一人しか乗れないからな」そう言って物資や研究機材を頑丈に固定されたキャビンを見回す。「俺が直接、迎えにこれたらいいが」

 これらが無ければ連れて帰ることも出来たかも知れない思って、ため息を吐いた。でも二人分をキャラベルまで維持するだけの燃料もない。

 「一緒にとどまるという選択肢はなかったのかい?」

 「ない。探査で来たんだから生きて帰らなきゃ行けない。よその星に骨を埋めにきたんじゃない」

 「そこで、私の方が大事、とか言ってくれてもいいんじゃない? 大切な相棒じゃないか」

 「人間の方がいい。離陸する」

 シャリーのジョークを聞き流して離陸した。

 「シャリー、この星の静止軌道の計算を頼む。必要なデータは言ってくれ」

 「了解」

 方向転換をするときに窓から少しだけ彼女が見えた。手を上げて応える。向こうから見えたかどうかは分からない。

 機首をほぼ真上に向けて、出力最大。

 大気圏を抜けた。

 「静止軌道、特定完了」

 「キューブサットの放出頼む」

 「了解、姿勢制御開始します」

 小さな人工衛星が惑星に向かって放たれた。

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