三話
惑星までの距離が迫り、アラームが鳴った。微睡んでいた意識を起こしつつ、顔を上げると木星や金星を思わせるような色彩の表面がはっきりと見えた。ただ、その下にはもしかしたら人類が生存できる可能性のある土地が広がっているかもしれないのだ。そして、今度こそ大型の生命体と出会えるかもしれない。もう微生物程度では驚きはしない。
大気圏突入の姿勢を取って惑星に向けて高度を落としていく。
一面が赤みを帯びた空。黒い地上。
何か目印になりそうなものはないか探す。
広い草原のような場所があった。
何もない事を気にしている暇はない。
旋回して少し戻る。
一瞬、夢で見た白い階段の景色が頭をよぎる。
何故、今、思い出したんだ。
ここが天国なのか。
あるいは地獄かもしれない。
草原の中央を確認。
姿勢制御スラスタ噴射。
減速。
接地の感覚。
脚が折れないか心配だ。
停止。
「お疲れ様。着陸おめでとう」
シャリーが突然喋ったので驚いた。ディズプレイには笑顔の顔文字が表示されている。
「シャリー、ありがとう。外気の状態は?」
「気温9度。少々酸素が薄いが、ボンベ、ヘルメットは必要ないレベルだ。それよりも、機体右前方に生命体がいる。人に近い」
「それは、地球人ということでいいか?」
サーモグラフィをメインモニタに出力してきた。確かに地球人のようにも思えたが、あまりにも遠いのでなんとも言えない。ミーアキャットみたいなものが直立姿勢を取っているだけかもしれない。
「可能性六五パーセント」
「中々高いな。だが、過去にここに訪れた地球人が訪れた記録はないぞ?」
「状況は分からない」
「了解。降りて確認してくる。まさかとは思うが、漂流者の可能性だってある」
漂流者、ここでは「外宇宙漂流者」の事だ。様々なワープ航法に挑もうとして、行方不明になった人たちの事をいう。ハロルド航法と呼ばれるワープ方式が定着した今でも、自作で機械を作りどこかに飛ばされたであろう人たちがいる。そういう人たちをこのように呼ぶ。まだ近距離に飛ばされた故に音信が取れた人はいるが、帰還した人はゼロだ。
紗理奈の事が過った。ただ、彼女はワープ航法をテストしていたわけでも、それに巻き込まれた訳でもないので首を振ってその考えを消し去る。
「彼が友好的であるという保証はない。武器を持っていけ」
「了解」
護身用のハンドガンを腰につけて、ハッチを開けた。ヘルメットは念の為につけてある。
出来るだけ息を吸い、止める。
口を開けたまま、ゆっくりとヘルメットのバイザーを開いた。
そのまま、少し吐き、吸う。
問題はなさそうだ。想像以上に地球と同じような大気組成かもしれない。
ヘルメットは防護のためにつけておいたが、バイザーは開けっ放しでステップを降りた。
「最初の一歩」
足をおいたところは草地で、ほとんど黒に近い深緑の植物が生えている。それに邪魔をされて残念ながら足跡はつけられなかった。
赤みが強い太陽の光が降り注ぐ。
「虫がいる、すげえ……あたりだ」
ハチとトンボの間の虫のような生き物が飛び回っている。少なくともこのクラスの生き物がいる星は前回までの探査ではなかった。どこか近くの草に止まっているところを捕まえようとしたが、そんな個体は一切いなかった。
「虫取り網があればなあ」
他に捕まえる策も何もなかったのでケースを振り回してまぐれで入るのを期待する。そんな事を五分ほど空気と格闘していると二匹まとめて入った。別に黒い草と土も簡単なテストをしてから採取しておいた。
まだバタフライ号の傍だったので採取したものを一度機体の中に置きに戻り、改めてシャリーのいう「人間」のところに向かった。
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