『Episode2 時の変換』
川澄はまたも息を切らしていた。いかに男子高校生といえども運動をずっとしてきたような元気な少年ではない。
ずっと走ることは困難を極めた。
「そうだよな……。あいつらが徒歩に縛られるわけないもんな。車だって使うよなぁ」
もちろん、交通ルールを明らかに破るようなそんなヤンキーみたいなことはしてこない。
歩道を全速力で疾走されていたら、すでに終わっていたことだろう。
「更級、こっちからの声って聞こえてるのか?」
『もちろん、状況は安定した?』
「安定する未来が見えない。説明を聞きながら逃げるから、説明出来るか?」
『分かった、じゃあ捕まらないでよ?』
「了解!」
川澄は近くにあった公園と駆け込む。幸い周囲に人もいないようで多少の荒事が起きても大丈夫だろう。
『まず、前提として私は命を狙われている。二万年を欲している人間が少なからずいるの。だから、私と接触してしまった貴方も命を狙われてる、OK?』
川澄は頷く。
『そして、私の命を狙ってる人物には大きな勢力が二つある。一つが、佐々木冬至の思想を受け継いだ勢力。佐々木冬至が指揮を取っているのかは不明なんだけど、とにかく佐々木冬至って思想家に影響された人物が集まってる。そしてもう一つ。これは佐々木冬至とは逆の考え方を持った人物が指揮を取ってる。佐々木冬至が時を変換するシステムを消そうとしてるけど、その勢力は時を変換するシステムを持った大規模に家畜なども巻き込もうとしてる。きっと今、君を追っているのは前者、OK?』
佐々木冬至がトップの勢力があるのか、と川澄は思った。川澄自体も佐々木冬至という人物に感化された人物であり、佐々木冬至の下で働きたいと思っていた。
ただ、今の話によると更級と佐々木冬至は敵対しているらしい。少し残念だと思いながら、川澄は肯定を返した。
『じゃあ、今から私と君の時間をリンクさせる。視界に変な数字が表示されるようになるから、驚いて大きな声を出さないように気をつけて』
川澄は困惑しながら、ベンチに座ってその時を待つ。すぐにリンクしたことは分かった
視界の右側にディスプレイみたいなのが表示された。
一番上にSarashina19875と表示されている。その下にKawasumi85と表示されていた。
『それが私の余命。今はきっと19875年だと思う。ちゃんと表示されてる?』
つまり、自分と更級の寿命の差は単純計算で19790年の寿命の差があるという訳だ。改めて更級が神の子であるという事を実感する。
『ねえ、聞いてる?』
「ああ、うん、聞こえてる。ちゃんと表示されてるよ」
『良かった。私の寿命が一番上に表示されてるんなら、君の時変換は私の寿命を消費して行われる。一度、時を止めてみて』
「ああ、それなんだがな……。どうやって止めればいい? やり方が分からないんだ」
『あ、そっか。えっとね、時が止まってる世界をイメージして、自分だけしか動けない世界。そして、呟いて。時が止まりそうな言葉を』
「時が止まりそうな言葉……?」
『うん、時が止まりそうな言葉。時よ止まれ、とか。何でもいいから時が止まりそうな言葉』
川澄は更級に言われて考える。
あんまり中二病っぽくない奴がいいなぁ……。
そんな思考は更級によって中断された。
『追っ手が来てる、さっさと決めて。そして止めて』
更級の言葉で周囲を見渡すと黒服の男が一人こちらに向かってきていた。
「えぇ……? そんな急に言われても思いつかないんだけどなぁ……」
時が止まりそうな言葉? なんだそれ。全く思いつかないが考えている余裕は無いらしい。更級の言う通りにするしかなささうだ。
時が止まっているイメージ。自分だけしか動けない世界。俺は今からその世界へと移行する。
「時よ、止まれ」
世界から色が消えた。まるで旧時代のカメラで撮った写真のように、完全にモノクロだった。
動き始めていた時計台の分針が中途半端な位置で音を立てず止まった。
周囲を見回す。誰一人として動く気配が無い。しかし、明らかに減少している数字があった。視界の右に表示されている更級の余命。19875.999と小数が表示され、そのまま減少していく。
「つまり、俺は今、更級の余命を消費して時を止めてるって事か……」
川澄はそこで大事なことに気づいた。解除の仕方が分からない。元の世界へ戻る方法が分からない。
「え、どうしよ……。叫んでみるか? 元の世界に帰してくださいー!」
声帯の持てる力全てを使って叫んでみる。
しかし、視界に入る世界は色が抜けたまま。元に戻る様子はない。
「同じことをすれば良いのかな」
川澄はもう一度、イメージし始める。
時が動いている世界のイメージ。世界の法則にちゃんと従っている世界のイメージ。
そして、呟く。
「時よ、動け」
世界の色が戻った。その瞬間、川澄の立っていた場所から風が周囲に向かって吹いた。
『あ、戻ってきたね。戻る方法を教えてなかったから不安だったけど良かった。その様子だと止まって世界で叫んだかな。風が吹いたね』
「風が吹いたことと、俺が叫んだことは何か関係があるのか?」
『そこが一番大事なんだよ。君が時を止めている間に、君が行ったことは時を進めた瞬間にすべて同時に行われる。これを君には使いこなしてほしい』
「すべて同時……?」
『詳しい説明は後でする。とりあえず逃げて。声は聞こえるね。まずは、突き当たりを右』
川澄が行ったことは結局、時を止めただけ。追っ手を撒いたわけではない。
まだ、本題は残っている。川澄は、ずきずきと痛む横腹を押さえながら、了解、と更級に返した。
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