就職活動
ナスビ
第1話
大学4年の初秋、私は未だに就職活動をしていた。世の学生は内定式を控え、最後の夏休みを謳歌している時期だ。周りが決まり始めた頃こそ社会の理不尽さを感じイライラしたものの、今ではもうそんなことはどうでも良い。ただ、社会人への最良の一手を打ちたい。春までかかろうとも、もう一年かかろうとも構わないと考えるようになっていた。
ある朝、身体が水分を求める息苦しさに耐え切れず目を覚ました。身体中が熱を持っていて不快だ。枕元のスマートフォンを手に取る。9時だ。昨日、眠りについたのが恐らく4時。睡眠時間が決して6時間を切ることが無いように調節しているというのに面倒な時間に起きてしまった。あと1時間だ。机に用意しておいた麦茶を一口含み、二度寝に入った。
タイマーを二度止め、10時30分に目が覚めた。少し寒気がし、身体に力が入らない。
今日は13時に面接が入っている。動かない訳にはいかない。スマートフォンの通知を一切合切無視し、Youtubeを開き某メンタリストのアーカイブを流す。議題は最近世間を騒がしている国会議員の失態だ。正直、関心はないが頭は回り始めた。まずは顔を洗わねばならない。リビングに出る。トイプードルのティアが朝の挨拶とばかりに、クーラーの風が良く当たる位置で寝そべりながら顔だけこちらに尻尾を振っている。先が見えない状況でも変わらず迎え入れてくれる数少ないモチベーションを補給し更に動く。洗面器に立ちながら今日のプランを大まかに考える。今日やらなければならないことは面接のみだ。面接会場までのルートと電車の時間を調べねばなるまい。会場は都内だったはずだ。それまでにもう一度HPを読み直して会社へのイメージを確定させねばなるまい。髭を剃り、髪を濡らし、遅めの朝食に流水麺を喰った。途中、エビの尻尾が歯に挟まるアクシデントが起きたせいで時間が無い。大急ぎでネクタイを締め、ジャケットを羽織って電車に駆け込んだ。
大手町駅から地上を歩くこと10分。会社を見つけた。何とか時間前に到着した。外気30℃。リクルートスーツ完全装備で歩くには、未だに厳しすぎる暑さだ。汗が滝の様に流れる。シャツの中に熱気が籠もり、汗が止まらない。高校の時、制服のままサッカーをした時のような熱気だ。ネクタイを緩めることが出来た高校時代が羨ましいことこの上ない。
企業エントランスから内線を掛けようと内線電話を取る。人事の内線番号が無い。しかし、時間を過ぎる訳にはいかない。一番端の番号にコールした。5コール。諦めかけた時、声がした。
「民友商事css大崎です」
「本日新卒採用で来ました。名成大学 明石次郎と申します」
就職活動 ナスビ @hoshigaoka
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