ひげをそる

ツッキー

ひげそり

...あさの六じ。

目ざましよりも早くおきちゃったらしい。

...もっかいねちゃおっかな。


「ウイイィィィィイン」

いえみたいな音がいえのどっかからきこえた。

ぼくはいますぐねたいのに、どうしてこんなにうるさい音がするんだろう。

気になったから音がする方に行ってみよう。



「お?どうしたあゆむ、早起きじゃないか」

せんめんじょにお父さんがいた。

お父さんはこんな早いじかんにおきておしごとに行ってる。

ぼくも小学生になってからできるだけ早くおきるようにしてるけど、六じにおきるのはすごいとおもう。

そういえば、お父さんが持ってるこのきかい、うるさい音はそれなんだ。

これはなんだろう?


「ん...?あぁ、これが煩かったのか」

コクっと、首をたてに動かした。

「それはなに?なんで口に当ててるの?」

「ははは、口じゃないんだよなあこれが」

お父さんの口がにんまりとした。

おかあさんが「お父さんがこのお口になったら悪いこと考えてるから気を付けてね」と言っていたから、気をつけよう。


「これはな?髭剃りって言って、髭を剃るものなんだ」

「ひげ?」

そういって、お父さんのはなと口のあいだを見る。

なにもない...ん?

「あ!ひげがちょっとある!」

「そうだろ?これを髭剃りでこうやると...ほら!」

さっきまであったひげがなくなった。

「すごい!でも、なんでひげをそってるの?」

「え?見た目が悪いから」

「でも、サンタさんはおひげあるよ?」

「あー...」

お父さんはいちど目をそらしてからもういちどぼくを見た。

「ほら、物語に出てくる悪い奴、敵ってさ、黒い髭が生えてる感じするだろ?なんか、悪さがアップするだろ?それで剃ってるんだ。ちなみにサンタさんは白いから優しい。OK?」

「なるほど...でも、ぼくひげでてないよ?」


じぶんのはなと口のあいだをさわってみる。

やっぱりない、どうしてお父さんにはあるんだろ。


「え?それは...大人だから」

「やっぱり、またおとなか」

「そっ、大人だから髭が生える。髭が出るには...海斗かいとくらいにならないと無理だぞ?」

「お兄ちゃんくらい?」

「そっ、お兄ちゃんくらいで生えてくる」

「じゃあ、おとなまでまたなくていいんだね!」

「そういうことだ...ってやば、それじゃあお父さんは時間だから、もうお仕事行ってくるね」


そういって、お父さんはスーツの上のぶぶんをきて外にいった。


「...寝よっかな」




そんな小さい頃とは呼び名が変わった数年後、髭が生えてきた。


「母さん、髭を剃りたい」

「あら、歩もそんな時期なのね、じゃあお父さんが使ってるやつ使いなさい」

「はーい」


僕は洗面所に行き、歯ブラシの横にある電動髭剃りを手を取る。

なんか、響きがいいよね、電動髭剃りって、なんでだろ。

ついでにマシンって最後に付ければ電動髭剃りマシン...ってどうでもいいや。

口と鼻の間に持っていくとアルコールの臭いがしてきた。

そのままスイッチを付けると「ウイイィィィィイン」とうるさい音が鳴った。

「...ん?これ、どう剃るんだ?」

「んあ?お前なにやっとんの」

「あ、兄さん」

髪がぼっさぼさになってる海斗兄さんが来た。

休日でバイトが無いからって十一時過ぎまで寝ていたようだ、流石に寝過ぎじゃないか?


「お前、髭剃るの?」

「え、ああ、うん。でも、上手く剃れなくて...なんか知らんけど」

「まだ髭が柔らかいんだろ、ほれ、ちと貸せ」

そういうと、兄さん髭剃りを奪い取った。

「右側の上部分を少し膨らませろ、こうやって」

「え...こう?」

...なかなか難しい。

「そう、垂直って言えばいいんかな。出来るだけ肌を真っ直ぐにするんだ」

「な、なるほど」

「まぁ俺はもう固いから雑にやってるけどな。ほい、お前はまだ柔らかいから剃りにくいけど、それ、好きに使えよ」

「あ、うん」

髭が柔らかい...ってのがよく分からないけど、つまりまだ早いってことなのか?

まだ大人じゃないらしい。

なんか悔しい。


「あ...そうだ、それで鼻をかんでみろ」

「鼻?」

言われてみた通り鼻をかんでみると、今までとは違う感覚で少し、いや、かなり驚いた。

すっげぇなにこれ、つるつるやん。

風邪でもないのに鼻をかみ続けた。




約十年後、とっくに髭は固くなり、住む場所がマンションから一軒家に変わるくらいの年月が経ち、僕は今日も朝から髭を剃る。

昔、父が教えてくれた気がする。

髭を剃るのは相手の印象を良くするため。

正直、見た目も大事だが相手にどう優しく思われるか、話せられるかが大事なわけで...まぁ日本人は「でも顔怖いよね」の一つで嫌悪感を示すんだ。そりゃ髭も剃るわな。

そういえば、父が髭剃りを剃っているのをみたのは確かこの時間だった気がする。

どうしてこの時間に起きたんだろう、今では不思議で仕方がない。




「ん......なんの...音?」


息子が目を擦りながら僕を見た。


「ん?そうしたこんな時間に起きて。早起きはじゃないか」

「それ...なに?」


そっか、この髭剃りの音で起きたのか。

僕はにんまりして「ひげそり」の存在を教えた。

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ひげをそる ツッキー @tuxtuki

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