第2話
「あいつに頼ってみっか……」
姫の行きそうな場所は大体見て回った。
街の外に出ているという情報はないらしいが、それすら怪しくなってきた。
てっとり早く情報を聞きたい。こういうときは彼女を頼った方が早い。
街角に置かれている布製のテントをめくる。
天井から吊るされたランプが室内をぼんやりと照らしている。
テーブルの上にある水晶玉はランプの光を反射し、美しく輝いている。
目の前に座っている女性は、ジュンヤの姿を見るなり片手をあげる。
「あら、久しぶりじゃない、どうしたの?」
黒いマントに同じ色の三角形の帽子、短く揃えられている銀色の髪、その見た目からミレイは銀色の魔女と呼ばれている。
かつては、その見た目で人々から気味悪がられ、街のすみに追いやられていた。
ひっそりと静かに暮らし、誰とも関わらないようにしていた。
嫌われ者は嫌われ者らしく、陰に隠れて日々を過ごしていた。
暗い日々の中、我が国の姫君が自分の元を訪れたではないか。
「私の大切なブローチを落としてしまったみたいなのです。
突然で申し訳ありませんが、探して頂けませんか?」
もちろん断れるはずもなく、全力で探し出した。
ブローチは自室のベッドの下に落ちていることが分かり、姫はすぐに城に戻った。
それ以来、姫は城からこっそり抜け出し、彼女の元に通っていたらしい。
占いや相談など、何かあれば話をしに行っていたのである。
様々なことを話しているうちに自分に自信がついたのか、人間を信じる気になったのかは分からない。ただ、ミレイが店を開くきっかけに姫は一役買ったらしい。
ジュンヤたちが来る前のことだから、細かいことはよく分からない。
それでも、姫の大切な友人の一人だ。彼にとっても信頼できる人物でもあるのだ。
「それも分からないようじゃ、他を当たる」
彼がぶっきらぼうに言ってテントを出ようとすると、ミレイは立ち上がった。
「ちょっと待って、分かった! 人探しでしょ。しかも切羽詰まってる……姫ね?」
人差し指をたて、にやりと笑う。
ミレイは人の心が読めるらしく、その能力を探し物や占いなどに役立てている。
彼女に相談すると失くした物が見つかったり、探している人と再会できたり、街でもかなりの評判だ。
その能力が優秀であることを姫は誰よりも分かっていた。
だからこそ、ここに店を構えるように勧めたのだろう。
「……そういう事だ。ちょっと視てくれないか?」
「お安い御用よ」
彼女はは椅子に座り、テーブルの上に置いてある水晶玉に手をかざした。
聞き取れない言葉をぶつぶつと唱え、水晶玉をじっと見続ける。
「どうだ?」
ごくりとつばをのむ。
「大変、視えない」
ミレイはテーブルに手をついて、立ち上がった。
最悪な想像がジュンヤの頭をよぎった。
「まさか……」
「大丈夫、死んじゃいない。ただ、具体的な位置が読めないのよ」
彼女は首をふるふると横に振った。水晶玉は街の中ならどこでも探せる。
水晶玉で読めないということは、その範囲の外にいることになる。
「もう街を出てたのかよ!」
マジで何やってんだ、あの姫は!
ジュンヤは叫びながら、テントを後にした。
「うう、今頃みんな大騒ぎよね」
シルベーヌは山道をとぼとぼと歩いていた。
山頂はいまだ見えず、ここがどのあたりなのかも分からない。
ただひたすら、木々が広がっているだけだ。
「ああ、本当ならこっそり帰れているはずだったのに……」
ひとり呟いて、肩を落とす。
だんだんと陽が落ち始め、あたりは暗くなり始めている。
木々の影がより一層濃くなり、闇が覆い始めている。
まさか、ここまで探しても見つからないとは思わなかった。
あくまでも噂は噂ということなのだろうか。
「こんな事なら壁抜け以外の魔法も覚えとくんだった。
私、このまま死んじゃうのかな……」
城の部屋から壁を抜けて、こっそり逃げ出してきたところまではよかった。
しかし、その先の見通しが甘かったとしか言いようがない。
今から戻ろうにも、どうやってここまで来たかも分からない。
シルベーヌは 涙をこらえながら、歩みを進めていた。
「ねぇ、ジュンヤ見なかった?」
レイカが慌てた様子で話しかけてきた。
ポンクは荷物を片手に帰宅しているところだった。
彼女の様子を見るに、未だに姫は見つかっていないらしい。
しかも、今度はジュンヤを探している。どういうことなのだろうか。
「さっき会ったっすけど……」と、首をひねりながら答えた。
「いつ?」
「えーと、3時間くらい前……かな? 何かあったんすか?」
「あいつ、定時連絡の時に姿を見せなかったのよ」
「あー、じゃあいつものアレっすね、単独行動。あの人よくやるじゃないすか」
ジュンヤの悪い癖のひとつだ。
彼は何の連絡もなしに一人で行動する。
大体はいい案を思いついたか、自暴自棄になっているときだ。
「何でいつもあいつは勝手に動くのよーっ!」
響くような声で叫びながらレイカは彼の姿を追った。
「はは、ジュンヤさんらしいや」
どたばたと走っていくレイカの姿をポンクはあきれた様子で見送った。
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