第51話
***
そして。
理不尽に罵倒されて叩かれたはずの沙耶は、
(……皇帝陛下、主催の……宴ですってぇ……!?)
冷静すぎるポーカーフェイスの裏で、こちらも理不尽に怒っていた。
(そんな予定、ありませんでしたよねぇ……!?)
ガタガタと戸が閉じられて暫く経ってから、沙耶は優雅な所作で姿勢を戻した。その涼やかな見た目からは、内心の八つ当たりなんて想像もできないだろう。
そう、これは八つ当たりだ。
(部下がこんな状況になってるってのに、唐突に飲み会がしたくなったって事!? ……そりゃあ陛下は私の状況なんて知り得ようもないでしょうけどさぁっ!)
ちょっとぐらい気にかけてくれてもいいじゃない、なんて。文句にも無理がある。毎日のように顔を合わせてはいるが、立場が違うのだ。
勿論重々に承知しているし、不敬なことだと
けれど、こうやって陛下に八つ当たりすることで、少しだけ……ほんの少しだけ感じている不安を紛らわせたのは内緒だ。どれだけ平静を
今、目の前の戸の向こうでは、出て行ったはずの2人が何やら小声でやり取りをしていたようだった。が、暫くしてその声も遠ざかっていく。
聞き耳を立てていたわけではないが、防音効果なんてまるで無い構造上、勝手に聞こえてきた話によると、どうやら扉は解放されているらしい。出て行きたければ出て行け、と。
そう提案した方は、この屋敷の中では身分の高い女性らしいが、後宮で散々、迫力のある美女達の笑顔の裏を躱し続けてきた沙耶だ。あんなストレートに敵意を表してくれるなんて、微笑ましいとすら感じるぐらいだった。
そりゃあもう、ご期待に応えて散策してやりましょうか。
(陛下のお呼び立てのおかげで、今日はお屋形様とやらに会えないみたいですしねっ!)
沙耶は寝台に掛けられていた薄すぎる掛け布をひっぺがすと、外套の代わりのように身体に巻きつけた。意を決して着替えたとはいえ、さすがにこのままの格好で外に出る勇気はなかったのだ。
(それに寒いし……)
というのはただの言い訳だが、ついでに女であることも隠せるから一石二鳥なのである。
先ほどの様子だと暫く誰にも呼ばれないだろうと、人気の少なくなる夜更けを待ち……、
壁に耳を当て、廊下に人の気配がないことを確認してから、そっと戸を開いた。
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