そしてまた、動き出す
第39話
***
それは陛下にとって、いや国にとっても頭の痛いの報告で。
新たに寄せられた報告書には、今回の甚大な被害の詳細が記載されていた。
復旧しかけていた砂糖倉庫が再び壊滅的な被害に遭い、新たに別の棟までもが襲われたそうだ。もちろん物的な被害だけではなく、犠牲になった農民もいるようで、国へは多額の支援金が要望されている。
被害が本当にあったのか疑わしく思っていた沙耶だったが、ここまで大きな問題になっていれば疑問の余地もなく、再度きちんと城下の調味料店に話を聞きに行こうと決めた。
その為には今、直近で裁可の必要な案件を片付けておくべきだと、今日は猛然と仕事を終わらせてきた。何かあれば、と数件は部下に引き継いできたから、万一、深刻な問題になった場合にも時間をかけられる。
文字の書きすぎで若干痛い指を揉み解しつつ、明日は早朝から城下に降りようと心に決めていた。
先に帰られていた戸部尚書には、調査のために城下へ行く旨を書き置いてきたから、あとは何時に出発するか、だけなのだが……。
そんなことを考えながら、いつものように抜け道を使って後宮に戻ろうした沙耶は、その手前に、大きめの壺を抱えた下働きらしい男と遭遇した。
こんな敷地の端の端で、もうすっかり日の沈んだ時間に、こんなところで人に会うのは本当に珍しい。
仕事終わりで人気もなく、完全に気を抜いていた沙耶は、ギョッとして側の木に身を隠した。
幸い、男は沙耶に気かなかったらしく、そのまま重たそうに壺を抱えてどこかへと去っていった。
……そこまでは良かったのだ。まぁ、少し驚いたが、自分だって日没をとっくに過ぎてまで働いていたのだから、人のことは言えない。
しかし、いざ抜け道を通ろうとして、今度は固まらざるを得なかった。
(……う、梅の実……!?)
茂みに紛れて、崩れた石壁が全く分からない、沙耶のとっておきの抜け穴に、なぜか、少し萎びた梅の実が落ちていたのだ。
恐る恐る拾い上げてみると、若干湿っていて、何より、
(甘い、匂い……)
偶然足で踏まなかったら絶対に気づかなかっただろうが、見つけてしまったものは、もしかしたら……いや、もしかしなくても、砂糖で漬けられた後の実に違いない。
(ほのかにアルコールの香りもしてる気がする……)
流石に舐めてみる気にはならず、少しの間、実を手に持ったまま、どうするかを思案した。
この湿った感じは、落とされてから間も無いはずだ。今日は一日中良い天気だったから、長時間経っていればもっと乾燥しているだろう。
先ほど目にした、大きな壺を抱えた男なんか怪しく見えてしまうが……。
(私以外に抜け穴を使って、後宮の外に梅の実を運んでいる人がいるのか……?)
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