第25話



「…………ぇ、と……?」

「――これは陽陵ひりょう様に頂いたものですよ。砂糖産地である田駕たが州は、さすがで御座いますね」


 沙耶と目が合ったかと思えば、すぐに艶やかに微笑んだ蘭月様が、周囲を見渡して陽陵ひりょう様を紹介した。その唐突な感じに一瞬面食らった沙耶だったが、そりゃ話し掛けられるわけないか……、と思わず身構えた自分に内心苦笑する。


「まぁっ、お褒めに与り光栄で御座います、蘭月様。お口に合いまして幸いで御座いました」


 蘭月様の言葉で勢いを得たらしい陽陵ひりょう様は、目を輝かせて礼を言っている。私に対する態度とは180度ぐらい違っていて、世渡りとはこういうことなんだろうなぁ、と遠い目をしそうになった。


 その間にも、テーブルを囲む他の妃達は、続々と陽陵ひりょう様へ質問を投げている。最初の入室時の挨拶から察するに、彼女も蘭月様の昼食会には初めて呼ばれたメンバーのようだった。


「本当に美味しゅうございますわ。……田駕たが州では良く作られているのですか?」

「いいえ、わたくしの家の特製でございます。また出来ましたら皆様にお持ちいたしますわ」

「まぁ嬉しい! でももっと沢山お造りになってくださいな。わたくし、頂けるのでしたら買わせていただきたいぐらいですもの」

「わたくしも同感です。お売りになれば宜しいのに……」


 残念がる妃達の言葉に、満面の笑みを浮かべる陽陵ひりょう様。


「過分なお言葉、有難うございます。ですがこれは、梅の実と砂糖だけで作る、それはもう希少な蜜なのでございます。大量の砂糖が必要ですので沢山作ることも出来ず、お親しい方への贈答用としているのでございます」


(梅と砂糖だけでアルコール発酵させてるのか……)


 一切控えない甘さに、そろそろ原液で飲むのが辛くなってきた沙耶は、そりゃあ甘いわ……と杯をテーブルへ戻した。


「まぁっ、そうだったんですね。そんな貴重なものをこうやって振舞ってくださるなんて、嬉しいですわ」

「いえいえ、新参者ですのでご挨拶は当然のことです。これを機に、というわけではありませんが、どうぞ末長く宜しくお願いいたします」


 へりくだって挨拶をする陽陵ひりょう様に、妃達は良い印象を持ったらしい。蘭月様の邪魔になる女だ、と冷めた目線を投げていた妃らも、空気が緩んでいる。

 なにより、当の蘭月様が普段と変わらない様子なのだから、子分達は大人しくするしかない。


 ……勿論、最下級であることを自覚している沙耶は、誰よりも空気な存在感で、黙々と箸を動かしたのだった。




***

 応援❤︎や、レビュー★、有難うございます><

 短文ぽちぽち更新ですが、今後もお付き合いいただけますと幸いです。

***


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る