第24話
そして今。
末席に座ることを許された(?)と思ったら、続々とやってくる他の妃達に圧倒され、流れるように挨拶の嵐を済ませた後、今度は乾杯が始まってしまったのだ。
(病み上がりに酒……)
渡された杯を持ったまま固まる沙耶。
とろりとした琥珀色の液体は、梅の芳しさと、アルコール特有の香りがしている。
パッと見た限り、美味しそうな『梅酒』だ。
ただ、熱が下がった直後に飲めるほど、お酒に強いわけじゃない。
(元気な時だったら良かったんだけど……)
しかしここは後宮。高位の妃からの好意なのだ。拒否なんて、出来るわけがない。せめて1杯は飲まないと、ホストである蘭月様の顔に泥を塗ったことになってしまうだろう。
取り巻きと呼んでいい他の妃達の、にこやかな表情の裏の本心が透けて見えてきそうだ。
(ただでさえ突然私が同席してて、苛立ってるっぽいのに……)
そりゃあもう、これまで散々見下してきた最下級の妃が、同列の席に座っているのだ。蘭月様のご指名とはいえ、気分の良いものじゃないだろう。
しかもこれまた意外なことに、あの
今日も、可愛いらしくも華やかに着飾って、にこやかに蘭月様に話しかけている
とはいえ、幸いにも末席の沙耶からは遠い。ここ数日の関係的にはなるべく関わりたくないし、目をつけられるのも御免だった。
「有難く、頂きます……」
さっさと飲んで褒め称えろ、と言わんばかりの視線に負け、細かい装飾の施された、薄い飲み口の杯を傾けた。
ふんわりと香る梅と、口内に広がる甘酸っぱさ。喉を流れていくアルコールの熱さ。
「……あ、とても美味しいですね」
糖度の高い、シロップのような梅酒だ。個人的にはさっぱりしたバニラアイスにかけて食べるのもいいなぁ……なんて思うほど甘かったが、美味しいことは間違いなかった。
その反応に、気分を良くしたらしい面々。
「そうでしょうとも。この『梅の蜜』は、蘭月様のお眼鏡にかなった逸品ですのよ」
「これほど甘い飲み物なんて、他に御座いませんからね。とても贅沢で素敵な気分になれますわ」
「梅なんて、可憐な花を愛でるだけかと思っておりましたものねぇ」
各々が杯をちびちびと傾けながら絶賛している。その反応に、あれ、と思った。
(梅酒……って、一般的に広がってないのか……)
この世界での砂糖の価値を考えれば、納得もできる。これだけ甘い梅酒にしようとしたら、相当量の砂糖が必要だろう。甘い酒なんて、発想も出てこないのかもしれない。
(……砂糖、といえば
陛下に獣害の話を聞いてから、砂糖の話には敏感な沙耶は、恐る恐る様子を伺おうと視線を上げた。……ら、なぜか蘭月様と目が合った。
いつも通り、底の知れないヘイゼルの瞳が、ガラス玉のように沙耶を写している。
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