第13話



 大通りに着いた沙耶は、少し遠くに馬車を停め、目的地までを歩いていた。


(この辺は本当に賑やかだなぁー)


 軒をひしめく商店は様々で、呼び込む声も活気がある。

 歩いているだけで楽しいから、本当はもっと時間のある時にゆっくり来たかったが仕方ない。


 目的の場所は、まずは道順に。この辺りの人間なら誰もが知っている、すぐ目の前の人気菓子店からだ。


 その店は、少しだけ人波の途絶えた場所に店を構えていた。

 呼び込みの店員はおらず、静かな空気感のある店構えは、入店する人を選んでいるかのようだったが、おしゃれな簾をくぐった先には、美しい菓子が並べられたショーケースが置かれている。


「いらっしゃいませ」


 無人だった店内には、沙耶に気づいた店員が、丁寧な挨拶と共に近づいて来た。やはり高級店というだけあって、店内や接客も、貴族などの富裕層をターゲットにしているのがわかる。

 沙耶は小さく会釈をしてから、ショーケースの中の値札を眺めた。


 どれもこれも、庶民が気軽に買い食いできるような値段では無い。が、確かに陛下の言っていた通り、普段の相場から大きな変動はなさそうだった。


「お客様、お決まりでしたらお伺い致しますが……?」


 一通りを眺めたところで、店員が声を掛けて来た。

 冷やかしの庶民なら帰ってくれ、と顔に書いてあるのがわかる。


 まぁ、実際の値段を見て尻込みする人もいるだろうから、こうやって店員が促さないと、ダラダラと居座られて面倒なのだろう。

 値段だけ確認できれば良かった沙耶としては、すでに目的は達しているが、このまま何も買わずに退店するのは気が引ける。


「……では、それを」


 少しの間考えた沙耶は、一つだけ購入することにした。


「有難うございます」


 途端に、愛想の良くなった店員が、うやうやしく菓子を包装紙にくるんだ。そして丁寧に腰を落として沙耶に渡す。


「どうぞ。お口に合いましたら、ぜひ今後ともご贔屓に」


 商品を貰いつつ、代金を手渡す。


 そういえば、こうやって自分で買い物をするなんて、本当に久しぶりだ。

 戸部で仕事をしていても、何かを買う機会なんてないし、後宮だって物を揃えるのは女官や宦官の仕事だ。手渡しで貰う戸部のお給金は、殆ど手を付けることなく行李こうりにしまうだけだから、たまには贅沢をしても良いだろう。


 とはいえ、一応は仕事なのだ。

 ついでにちょっと話を聞いておくか、と、包装紙を片手に店員に向き直る。


「あの、すみません。こちらのお店、砂糖の仕入れはこの辺りで?」

「……は? ……いえ……」

「それとも田駕たが州の?」

「え……えーと……」


 明らかに戸惑った表情になった店員が、徐々に不審げな顔に変わっていく。

 誰だよ同業者か何かか……? と身構えた雰囲気に、慌てて身元を伝えようとした時――、


「――すぐそこの調味料店だよ」

「あっ、オーナー!」


 奥の扉が開いて、1人の壮年の男性が入って来た。


 驚いた店員を遮るように、沙耶の前に立ったオーナーらしき男性。といっても、オーナー兼職人なのか、腕まくりをした衣服の上には、白いエプロンを付けていた。


「この街の砂糖の仕入先は、そこの調味料店しかねぇ。自分たちで遠方から仕入れてるんなら別だがな」

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