第14話 第2章⑦ 決意の少女たち

「う……」


 意識が急速に覚醒していく。すると、私は口に何やら違和感を覚えた。徐に目を開けると、目の前にはなんと、私の口におっぱいを突っ込んでいるみずきの姿があったのだ!


「んん!?」

「か、かすみ!? こ、こら、もごもごするな!?」


 みずきは慌てて私をおっぱいから離す。そんな彼女に対し私が問う。


「みずき!? いったい何を!?」

「聞くな!」


 顔を真っ赤にし、胸をなんとか腕で隠しながらみずきが叫ぶ。見ると、みずきの胸はすっかり小さくなり、今はBぐらいのサイズであるようであった。みずきは少しの間向こうを向いて項垂れていたが、しばらくして気を取り直し、私にこう問うた。


「……そんなことより、あんた魔力はどうなの?」

「え? 魔力は……」


 私が胸に意識を集中させると、確かにそれなりの魔力を感じることができたし、胸のサイズもまだD近くは残っていた。これぐらいの魔力があれば、恐らく戦闘には支障はないだろう。


「うん、大丈夫! というか、私のこと、みずきが助けてくれたんだよね? お礼もしないで、いきなり驚かせちゃってごめんね……」

「はあ!? べ、べべ、別にそんなこともうどうでもいいわよ!」


 私が謝ると、みずきは大慌てでそう返す。それでも私は尚かぶりを振る。


「ううん。どうでよくない。だって迷惑かけちゃったのは間違いないもん。後先考えずに飛び出しちゃって、本当にごめん……」


 そう言って、私はみずきに頭を下げた。戦闘は個人の力に依るところも多いけれど、それでも私たちはあくまでコンビだ。片方が暴走して命を落としてしまったら、一心同体である相方の命をも奪ってしまうことになる。私はその考えに至らなかったことをどうしても謝りたかったのだ。


「ああもう! だからそんなのいいって! いつも能天気なくせに変なところだけは真面目なんだから……」


 みずきは呆れてそう言う。だが、私が一向に視線を逸らさないのが分かると、彼女は大きくため息をつき、肩をすくめながら私にこう言った。


「分かったわよ。あんたの気持ちは痛いほどわかったから、もう謝らなくていい」

「でも……」

「でもじゃない! あたしはあんたに謝られたって全然嬉しくなんてない! ってかそもそも、今は戦いの真っ最中なのよ!? もたもたしてたらあいつが元に戻っちゃうの! だからもう謝るのはなし! 分かった!?」


 みずきは必死な様子で私に迫る。その様子がなんか面白くて、失礼ながら、私は思わず笑みを漏らしてしまった。だが、それに対しみずきは怒ることなく、僅かに笑顔を作ってこう言ったのだ。


「そ、そうよ、そうやってあんたは笑っていればいいのよ! あんたには真面目な顔は似合わないんだから、いつも馬鹿みたいに笑ってなさい」

「うん、そうする……」

「分かればいいのよ。今はそれより、あいつをどうやって倒すかを考えましょう」


 みずきが指差す先には、攻撃を受けたのか所々が千切れたハードテンタクルの姿がある。しかし、それなりに攻撃を受けたにもかかわらず、触手は千切れた箇所を再生しようとしているのだから、あれの厄介さがよくわかるというものだ。


「ほら、立てる? 魔力が大丈夫そうなら立って戦いなさい」

「うん。あ、でも、この格好じゃ、またあれの溶解液を浴びたら戦えなくなっちゃうし……」

「あ……」


 みずきもすっかり忘れていたのか、しまったという表情になる。実際今私が立ちあがってしまったら、胸も大事な部分も完全に丸見えである。みずきとは一緒にお風呂に入った仲とはいえ、堂々とみずきに裸を晒し続けるほど私は変態ではなかった。すると、そんな私たちに彼女が助け舟を出してくれたのだ。


「その点に関しては大丈夫よ!」


 そう言って現れたのは無論セレナだった。彼女は実体のある姿で私たちにこう言う。


「仕方ないからかすみに私の服を貸すわ! 今から渡すからしっかり受け取ってね!」

「え?」


 服を貸してくれるだけのはずが、セレナはなぜかいきなり私に覆い被さってきたのだ。


「ちょっ!? 何するの!?」

「だから、服を渡すのよ。ちょっとくすぐったいけど我慢してよね!」


 そう言って彼女が取り出したのは、絵具を紙に塗る時に使うような筆だった。そして彼女は、その筆に魔力を込めると、いきなり私の身体を筆でなぞったのだ。


「うひゃあ!? ちょっとセレナ、くすぐったいって!?」

「今描いてるからもうちょっと待って」

「描いてるって!? セレナのユニフォームってボディペイントなの!?」


 私の問を無視し、黙々と筆で私の身体をなぞるセレナ。彼女は躊躇いもなく、胸も、大事な部分も筆で縦断し、私はあまりのこそばゆさに思わず身もだえしてしまう。するとそんな私に対し、みずきは躊躇いがちに口をはさむ。


「あ、あんた、胸少し大きくなってきてない? もしかして、こんなんで感じてるんじゃ……」

「いやあ!? みずき、それ以上言わないで!?」


 はっきり言って確かに少し感じてしまっているけどこれは仕方ないことであって……と、そんな私の不埒な思考を打ち砕くようにセレナが声を上げた。


「はい終わった!」

「え?」


 セレナが飛びのく。私は自分の身体を見やると、なんといつもの赤とは違う、緑のマイクロビキニとTバックが私の身体を覆っていたのだ。


「あ、ちゃんと服になるんだね」

「そりゃそうよ。N76星系人にはできないことはそんなにないからね。まあ時間ないからシャツとスカートとニーハイは省略したけどこれで戦えるわね。一張羅だから絶対に破かないでよ!」

「ええ!? そこは省略しないでよ!?」


 今の私の姿は、マイクロビキニにTバックと普段よりも変態さん寄りな格好になってしまっていたのだ。


「だから時間がないんだって! 悪いけどそれで頑張って! それじゃ!」

「ああ!? 待ってよぉ……」


 さっさと消えるセレナ。そもそもなんで服を着るのに一々描く必要があるのかまるで分からないし、こんな格好で投げ出される私の気持ちを考えてほしいななんて思いもしたが、彼女にそういったことを求めても無駄なのは分かっていたので、私はなくなくあらゆる気持ちを飲み込むことにしたのであった。

 私は筆で身体中をなでられたせいで足腰がふにゃふにゃになりかけていたが、なんとかこの両足で地面に立つことができた。


 散々な目に遭ったが、私はようやくみずきと肩を並べることができた。すると彼女はなぜか私から顔を逸らし、絞り出すように「かすみ」と私の名前を呼んだのだ。


「なに? みずき」

「……えっと、正直さ、あたしさっき、もうこんな風にあんたと言葉を交わせないんじゃないかと思ってたのよ」


 そう言う彼女の声は僅かに震えている。私はその時、みずきが心から私の身を案じてくれていたことを知ったのだ。

 今の私では、みずきに何かを返すことはできない。ならせめて、私を思ってくれた彼女にお礼を言うべきだろう。だから、私は最大限の笑顔で感謝の言葉を紡いだ。


「心配してくれて、ありがとう」


 そんなことを言うと、いつものみずきならきっと「心配なんかしてない」と怒っていたことだろう。だが、今のみずきはもちろんそうではなかった。


「ホントよ。かすみのくせに、あたしに心配させんじゃないわよ」

「ごめん……」

「謝ったって許さない……って言ったら、あんたはどうするのよ?」

「それは、困るな……。だって、私はみずきのこと大好きだから、許してもらえないと凹む」


 私がそう言うと、みずきは向こうを向いたままクスリと笑った。


「じゃあ、せいぜい頑張ることね。あいつを無事倒せたら、あんたのことは許してあげるわ。その代わり、また死にそうになったら、今度こそ承知しないから」

「あいた!?」


 みずきが思い切り私の背中を叩く。そのせいで、私は思わず変な声が漏れてしまった。それでも、私はみずきとまたこうして普通に話ができることが本当に嬉しかったのだ。


「それじゃ、あのクソ女に特訓の成果を見せるわよ! あたしたちはやれば出来るって思い知らせてやるの! これ以上あいつに舐められるんじゃないわよ!」


 みずきが力強く宣言する。


「うん! 絶対勝とうね!」


 そんなみずきの言葉に、私も力強く頷いたのであった。

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