第13話 第2章⑥ ツンデレ少女の想い(Side-Mizuki)

「かすみぃ!」


 らしくもなく、あたしはあいつの名前を叫んでいた。そしてあたしの足は無意識のうちに走りだし、連れ去られた彼女を追いかけていたのだ。


 結崎かすみ、あいつは転校初日からあたしのパンツをみんなの前で降ろしてあたしに大恥をかかせ、その後もあたしにしつこくつきまとった。

 だから最初は、あたしはあいつのことが嫌いだった。五月蝿いし、無駄に胸でかいし、ベタベタくっついてくるし……とにかくあいつの全部が気に入らなかった。


 ……でも、あいつと一緒に戦うようになって、いつしか、あたしはあいつのことを不快には思わなくなっていた。もちろん、不快に思わないだけで別に全然好きではないわ! でも、あいつはあたしがどんなに邪険に扱っても、決まっていつも優しかった。

 いい歳しておしっこを漏らすなんて大失態を演じてしまった時、いつもヘラヘラ笑っているあいつが真剣な表情であたしを守ってくれた。そして今も、目の前で幼馴染が傷付いているのを見た途端、彼女を助けるべく血相を変えて敵に立ち向かった。

 あたしはそんな風に、誰かの為に戦えるだろうか? あんな風に、他人に対して全力になれるだろうか? 正直言って、自分本位なあたしは、他人の為に自身を投げ打てる自信はなかった。それだけに、あたしにはそんなかすみが眩しく見えているし、あいつに対し憧れに近い感情を抱いているんだと思う。


「かすみ……」


 もしここであいつが魔物に連れ去られてしまったら、もう以前のままのあいつには会えないかもしれない。そう考えると、あたしは急に恐ろしくなってしまうのだ。

 あたしはふと、もう一度あいつと、いつもみたいなくだらない会話がしたいと思っていた。今まであいつのことをいつも邪険に扱ってきたはずなのに、なんでそんな風に思ってしまうのか、あたしは自分の気持ちが理解できないでいた。


--だって、私みずきに一目惚れしちゃったんだもん。好きな人と一緒なら、戦うのもそんなに怖くないよ。


 ああもう! どうしてこんな時にあいつのあんなセリフを思い出してしまうの!? 違うわよ! 別にあたしは、あの言葉が嬉しかったなんてことは断じてなくて、好きって言われたから逆にあたしも意識してしまったなんてことは断じてないからね! 本当に一方的に好かれて迷惑なだけなんだからね!

 ……って、あたしは誰に言い訳しているんだろうか? 自分自身に? それとも、かすみに対して?


「……だからそんなこと、今はどうでもいい!」


 言い訳なら後でゆっくりあたし自身が聞いてやる。今はただかすみを助けることだけを考えろ。あたしは走りながら自身の頰を叩き、気合いを入れ直した。


 そしてついに、あたしは触手に追いついた。触手が止まったのは広い交差点の真ん中で、あたしたちが結界内にいることもあり、辺りには人の乗っていない車がたくさん止まっている。そこで触手は車を押しのけ広いスペースを作っていたのだ。


 触手は全裸のかすみをぐるぐる巻きにし、下半身だけを露わにしている。そして彼女の大事な部分にその汚らわしい触腕を突き立てようとしていた。


「まさか、あんなのを突き刺そうっていうの!? あんなので刺されたら、かすみは……」


 そう言いかけてあたしは言葉を飲み込む。これ以上のことは考えるな。今はかすみを助け出す自分自身をイメージしろ!


 現在、あたしの胸には目一杯の魔力が詰まっている。かすみが無尽蔵に魔力を貯められるのに対し、どうやらあたしの魔力貯蔵量は限定的なようだが、今はこれでも十分だ。あたしは気合だけは負けないよう、触手に対し声を張り上げた。


「かすみを放せぇ!」


 あたしはなるべく触手に接近し、マイクロビキニを外す。正直、誰も見ていなかろうとめちゃくちゃ恥ずかしいし、顔から火が出そうだが、仕方がないから今はこれぐらいの恥は耐えてやる。あとであの馬鹿には相応のお返しをしてもらうんだ。そう固く決意し、あたしは必殺技を叫んだ。


「ブレストライト・ブレイカー!!」


 おっぱいから青色の熱線を放つ。もっと他に出すとこあっただろ! と何度だって文句を言いたくなる必殺技だが、実際物凄い威力を誇っているせいで使わざるを得ないかのが尚更腹立たしい。とにもかくにもこの変態的必殺技を食らった触手は悲鳴のような音を立て、ついにかすみを手放したのだ。


「かすみ!」


 あたしは急いでかすみの落下点へと向かい、裸の彼女をキャッチする。その際、顔にかすみの無駄に大きな胸が当たってイライラが募ったが、今はとにかく助け出せたことを喜ぶとしよう。

 あたしはかすみを抱えたまま触手から距離を取る。しかしこのままこの子を抱えてあいつと戦うのは難しいだろう。あたしがいったいどうしたものかと思っていると……


『みずき!』


 例のごとく、突然セレナが念話であたしの心に話しかけてきたのだ。


『いきなりビックリするじゃない!?』

『ああ、ごめんごめん』


 相変わらず悪びれる様子がないセレナにイラつくが、突然念話をしてきたからには何か有用な話があるということなのだろう。


『それで、なによ?』

『今のかすみは急激に魔力を失ったことが原因で意識を失っているの。だから、もう一度彼女に魔力を与えれば意識を取り戻すと思うわ』


 はっきり言ってセレナの言う原理は良く分からなかったが、彼女が今あたしにやれと言っているのは、恐らく、アレ・・のことなのだろう……。あたしは恐る恐る尋ねる。


『一応聞くけど、アレ以外に方法はないのよね……?』

『ないわ。だから早く授乳・・してあげて』

『その表現やめなさいよ!?』


 ホントにこの女は他に言い方ってものがあるだろうに……。嫁入り前の女の子が同級生に授乳っていくらなんでもヤバすぎだっての。まあ、こいつのぶっ壊れ具合は今に始まったことではないのだけど……。


『何を躊躇っているの!? 早くしないとやつにまたやられるわよ!』

『わ、分かったわよ!?』


 急なマジトーンのセレナに急かされ、あたしはヤケクソ気味にビキニをずらす。既にサイズはそれなりに小さくなってはしまっているが、まだ彼女に魔力を分け与えるくらいは残っているだろう。あたしは自身の桃色のそれを、気絶しているかすみの口につっこむ。このままでは吸えないだろうから、あたしは自主的に先端から魔力を放出し、彼女に無理やり魔力を飲ませるという手法に打って出たのだ。


「ん!?」


 いきなりに口に魔力が流れ込み、かすみはむせそうになるが、水を飲ませているわけではないから、喉に詰まって死ぬようなことはないだろうとあたしは判断し、あたしはかすみの口に魔力を流し込み続けた。


「……………………う」


 そしてついに、かすみが眼を覚ましたのであった。

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