第12話 第2章⑤ 再戦! ハードテンタクル!

 押し倒してしまったみずきを助け起こす。すると彼女は今度はこんなことを尋ねたのだ。


「ってか、あんたあたしのどこに惚れたわけ……?」

「え? 顔かな? だって可愛いもん」

「顔って、あんた……」

「もちろんそれだけじゃなくて、今はみずきの色々なところが好きだよ。私よりも少し背が低いところも、キレのいいツッコミも、怒った顔も、泣いた顔も、照れてる顔も、私はみずきの全部を好きになったんだと思うよ」

「あ、あんたよくそういうこと恥ずかしげもなく言えるわね!? もう、あんたと喋ると調子狂うわ……」


 みずきは呆れてそう言いながらも、顔はさっきよりも赤くなっていたのだった。私は呑気に、この赤さはトマトレベルだよなんて思ったりしていた。と、その時だった。


「お楽しみ中ごめんなさい!」


 突然浴室のドアが開かれ、なんとセレナが乱入して来たのだ。


「いきなり何よあんた!?」


 みずきは身体をなんとか隠しながら叫ぶ。するとセレナが慌てた様子でこう言った。


「魔物が現れたの! このままだと間もなく街が襲われるわ! 着替えている時間はないからこのまま行くわよ!」

「ええ!? 嘘でしょ!?」


 有無を言わさずセレナは裸の私たちを引っ張る。そして本当にこのまま敵の近くへワープしてしまったのだ。

 どこかの路地裏にたどり着く私たち。だが、相変わらず私たちは全裸のままであった。こんな格好が見つかったらそれこそ一大事だ。これでは戦いどころではない。みずきは自らの身体を抱きながら叫ぶ。


「早く結界張りなさいよ!」

「アイアイサー」


 みずきの求めに応じて結界を張るセレナ。だが結界を張っても私たちが全裸であることには変わりがなかった。


「くしゅん!」

「あ、可愛いくしゃみ」

「言ってる場合!? もう、身体拭いてないからビショビショじゃないの!」

「ああ、失敬。寒いだろうしすぐ変身しちゃって」


 やはり悪びれる様子のないセレナ。みずきは傍若無人なセレナへの怒りで打ち震えている。


「ホントに己は……」

「み、みずき、今は落ち着いて。ほら、早く変身しよう?」

「わ、分かったわよ! ほらっ!」


 ヤケクソ気味に左手を掲げるみずき。それに倣い、私も左腕を挙げる。

 私たちの求めに応じ指輪が光る。そして次の瞬間には私たちは「ツイン・アプロディーテ」となっていたのだ。


「長いから変身シーンはカット!」

「メタ発言やめい!」

「あはは……」


 私はセレナの言動に若干呆れながら、みずきのツッコミのキレが戻ってきたことにひとまず安堵したのだった。


「みずき、とりあえずすぐに魔力補充しよう!」

「う……ええい! 来なさい!」


 みずきの許可が下りたので、私は早速みずきの胸に飛びかかる。そしてそれに応じるように、みずきも私のおっぱいを揉んだのだ。


「くぅぅぅ」

「んん……」


 刺激を加えることで、胸の下で魔力が生成されていく。私はその魔力がもたらす快楽に意識が飛びそうになる。


「……かすみ、もういいわよ」

「ふぇ? あ、ごめん……」


 私はみずきの言葉で我に帰る。


「あんた、完全に顔がイっちゃってたわよ……」

「え!? そ、そんなことないよ!」

 

 確かに刺激が強かったが、今は戦いの前だ。過度に気持ちよくなっている場合ではない。私は頬を思い切り叩いて表情を引き締め直す。一方、みずきは私とは対照的に、表情は普段とそれほど変わりがなかった。


「みずきは感じなかったの?」

「あたしはそれほど……。あたし、あんたに比べるとあんまりこっちからは刺激がないみたいなのよね。まあ、別にいいんだけど」


 見ると、確かにみずきの胸はDぐらいからそれほど変化はないようだった。てっきり、魔法少女は胸の刺激があればどこまでも魔力生成ができると思っていたのだけど、どうやらそうではないのかもしれない。


「ってか、戦う為とはいえ、あたしたちはホント何やってんのかしらね……」


 みずきは自身の胸を揉んだり寄せたりしながらそう言う。するとそれに対してセレナが言う。


「まあ、深いことは考えてても意味がないわ。そういうものだと思ってもらうしかないわね」

「さいですか……」

「そんなことより二人とも、早くあっちを見て!」


 セレナに言われた方へ視線を向けると、そこには住宅街があった。そこは私には非常に見覚えのある街並みであるように思われた。

 すると、不意にそちらの方から人の悲鳴が聞こえたのだ。


「ちょっと!? 今の人の声じゃない!? なんで結界内に人がいるのよ!?」

「もちろん魔物に襲われているせいで結界の外に出せなかったからよ! 早く助けないと彼女らの命が危ないわ!」

「はあ!? だったら早く言いなさいよ!! かすみ、行くわよ!」

「うん!!」


 私たちは急いで悲鳴のする民家に突入する。


「な!?」


 中に入ると、そこには触手にぐるぐる巻きにされている三人の女性の姿があった。三人は触手の化け物であるハードテンタクルに服を溶かされ、完全に裸になってしまっている。このままでは触手に犯されるのも時間の問題であるように思われた。


「大変だ! 助けないと……って、え?」


 その時私はあることに気が付いていた。なんと、捕まっている三人の女性の内の一人が……


「ひまり!?」


 私の幼馴染の武内ひまりだったのだ。あまりにも焦っていて、家の中が荒らされていたから気付かなかったが、よく見るとこの家は何度も来たことがあるひまりの家だったのだ。


「た、武内さん!?」


 私と同様、みずきもひまりの存在に気付く。


「かすみ、武内さん、が……」


 私に声をかけようとしてくれたみずきだったが、言葉は最後まで続かなかった。


「許さない……」


 粉々に砕け散った鏡に私の顔が映り込む。その瞬間、なぜみずきが私に声をかけるのを躊躇ったのかが分かった。なぜなら、私は自分でも驚くくらいの、まるで鬼のような形相を浮かべていたからだ。

 いつも私に優しくしてくれて、私の恋を応援してくれたあの子をこんな目に遭わせるなんて……


「絶対に、お前だけは許さない! ひまりを、返せえええ!!」


 怒りに我を忘れた私は、がむしゃらに触手に飛び掛かる。そして勢いのまま触手を数本引きちぎり、なんとか三人を触手から解放した。ひまり以外の女性、彼女の二人のお母さんはみずきとセレナがキャッチし、落下するひまりの身体は私がなんとか受け止めた。


「ひまり!? しっかりして!?」


 私が彼女に呼びかけると、彼女は眼を覚ます。


「あ、あれ、かすみ……?」


 私は彼女が無事であったことに心から安堵する。


「よかった。私たちが来たからには、もうだいじょう……」

「かすみ危ない!?」


 みずきの叫びが聞こえる。しかし、ひまりを抱きかかえている私には、触手に対して回避行動をとることができなかった。私は情けないことに、あっさり触手に捕まってしまう。そしてそんな私に、触手は情け容赦なく液を吹きかけたのだ。


「いやああ!?」


 頭から液をかけられると、見る見るうちに「ツイン・アプロディーテ」のユニフォームは溶けだし、数秒の後には私は丸裸にされてしまう。しかも触手の液には媚薬の効果もあり、またしても私は前後不覚となり、身体の火照りが止まらなくなってしまったのだ。


「かすみ!?」


 みずきの焦り切った声が聞こえる。私はなんとか彼女の言葉に応えたかった。だが、残念ながら私はもう大きな声を上げることはできなかった。頭の中が靄がかかったように霞んでいく。そしていつしか、私の意識は完全に途切れてしまったのだった。

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