第11話 第2章④ あんたの◯◯はあたしが洗うわ。

「そんじゃ、今日はありがとうね」

「ご飯美味しかったよー! また来るねぇ」


 晩御飯を食べ、しばしの歓談の後、二人は帰宅の途につく。帰り際、ひまりは私にこんなことを耳打ちした。


「かすみさ、みずきちゃんのこと好きでしょ?」

「……ま、まあね。よく分かったね?」

「そりゃあんたのことならすぐ分かるわよ。ってか、あたしたちがいるのにずーっとくっついてるし分からない方がおかしいわ。でも少し心配してたけど、どうやら上手くいっているみたいね。幼馴染としてあんたのことは応援してるから。頑張ってね」

「あ、ありがとう……」


 ひまりはにこやかに笑う。いつものことだが、この子には全てお見通しだ。


「なに? 何かあたしの顔についてる?」


 思わず変に意識してしまったせいだろう、私は思わずチラチラとみずきを見ていたら、彼女がそう尋ねてきた。


「な、なな、なんでもないよ!」


 私はなんとか誤魔化し、帰宅する二人に手を振ったのだった。

 二人が帰ると、室内に静寂が訪れる。私はさっきひまりに言い当てられたせいでまだ心臓がドキドキしていた。隣でこんなにドキドキしていたら不審に思われるだろうからなんとか気持ちを落ち着けたかったのだけど、残念ながら私の心臓の高鳴りはしばらくおさまりそうもなかった。私は動揺を悟られぬようにこう言った。


「さ、さて、これからどうしようか?」

「……え、これからって?」

「いや、昨日お風呂入ってないし、みずきが嫌じゃなかったら、お風呂入りたいなぁなんて思って……あ! でも大丈夫! ちゃんと目隠しするから、みずきに恥ずかしい思いは……」

「……いいわよ」

「へ?」

「だから、お風呂入ってもいいって言ってるの。目隠しもいらないわ。あと、今日はあたしが、あ、あんたの身体、流すから……」


 みずきは顔を真っ赤にさせ、視線を私から反らしながらそう言う。私はそんな彼女があまりに可愛すぎて、思わず目眩を起こしそうになる。しかし、こんなチャンスを逃す手は……じゃなくて、せっかくみずきがそう言ってくれるのなら、厚意はしっかり受けるべきだろう、うん。


「分かった。それじゃ、お願い」

「う、うん……」


 私たちは連れ立って脱衣所まで行く。さっきはがむしゃらだったから何も感じていなかったけど、私は彼女のスカートとショーツをここで脱がしたのだ。それを思い出し、私はまたしても顔が上気してしまう。

 セレナの配慮か、私たちの手錠と足錠が外される。すると、私に対しみずきがふっきらぼうにこう言った。


「脱いで」

「え?」

「いいから!」


 みずきは無理やり私の服を剥ぎにかかる。


「だ、大丈夫だよ! 自分で脱げるよ!」

「いいから! あんたは黙ってなさい!」


 有無を言わせぬみずき。私は彼女の言葉に従いなされるがままになる。すると、彼女はどんどん私を生まれたままの姿に近づけていった。


「相変わらずデカい乳ね」


 ブーたれながらも丁寧にブラを外すみずき。彼女は露わになった私の胸を指でなぞる。私は思わず呟く。


「なんか、こういうのってすごくこそばゆいね」

「感じてんの? 変態」

「そ、そんなことは……」

「嘘よ。ごめん」

「え……」


 いつもとは違うみずきの様子に困惑する私。普段の彼女が私に謝ることはそう多くない。それが悪いとかではなく、彼女のその自分を曲げない頑固さも私にとっては尊くもあるのだ。私は何かあるとすぐに謝ってしまう方だから尚更そう思う。


 互いに裸になった途端、セレナは再度私たちを錠で繋ぐ。少しくらい気を抜けばいいのに、相変わらず彼女は容赦ない。


「入るわよ」

「うん」


 みずきに促され、私たちは並んで浴室へと足を踏み出す。そこは一人暮らしの人間には十分すぎるほどのサイズの浴槽があった。これなら二人で入っても十分余裕があるはずだ。


「身体洗うから、少し待ってて」


 そう言ってみずきは泡を立て始める。視線の先には裸のみずきの姿が。今の彼女の胸は魔力のおかげでそこそこのサイズを誇っている。やはり、胸は彼女にとってのコンプレックスなのだろう。

 私はどこに視線を向けて良いのか分からず視線を彷徨わせる。すぐ近くにみずきの柔肌があると考えるだけで、私の胸の先端のコアが反応し、うっかり余分な魔力を生成してしまいそうになる。私はそれだけはさせまいと必死に現状とは関係のないことを考えた。


「洗うわよ。繋がっててやりづらいんだから、下手でも文句言わないでよね」

「い、言わないよ、絶対に!」


 私が全力でそう言うと、彼女はついに身体を洗い始めてくれた。腕から始まり、背中ときて、今度は正面に回り込もうとする。だがさすがに前は気がひけるだろうと思ったので、私は彼女にストップをかけた。


「こ、こっちはいいや! 自分でできるから」

「そ、そう……? それなら、頼んだわ」


 既にみずきの顔はのぼせたかのように赤みを帯びている。そんな彼女にこれ以上やってもらうのはさすがに申し訳ない。私は自分の身体の残りの部位を洗うと、そのお返しにみずきの背中を流してあげた。

 私は彼女の背中を流しながらふとこんなことを呟く。


「なんか、こんな風に誰かと一緒にお風呂に入るのも久し振りだな」

「前はよく誰かと一緒に入ったの?」

「うん。うち妹が三人いるから、しょっちゅうみんなで入ってたよ」

「なんで入らなくなったのよ?」

「うーん、なんでかなぁ。私は良かったんだけど、下の妹が中学生になったくらいから一緒に入らなくなったかな。恥ずかしいって言ってたけど、姉妹だし、気にしないでいいとは思うんだけど」


 私がそう言って苦笑いしていると、みずきがニヤリと笑ってこんなことを言った。


「姉妹だって、姉がそんな厭らしい身体してたら、そりゃ恥ずかしくもなるわよ」

「も、もうみずき! 厭らしいとかやめてって!


 私は思わず顔が赤くなったのが、お風呂の鏡でそんな自分が見えてしまい、なおのこと恥ずかしくなってしまった。

 これまで、胸が大きいせいで沢山の子からエッチな目で見られてきたし、それ目当てで告白されたこともあった。それだけに、私は自分の胸はあまり好きではなかった。みずきが胸が小さいことにコンプレックスがあるように、私は胸が大きいことにコンプレックスを抱いていたのだ。


「そ、それより、みずきはこれまで誰かとお風呂入ったりしなかったの?」

「あたしは、こういうのは初めて」

「そうなの?」

「ええ。家族はいつも家にいないし、友達もロクにいなかったから……」

「ええ? みずきに友達がいないなんて信じられないよ」


 私は心からの感想を漏らす。だがそれに対し、みずきは懐疑的な様子だった。


「信じられないってことはないでしょ? だってこの性格だし、すぐ相手に喧嘩売っちゃうし……」

「うーん、私はみずきのはっきり物言うところ好きだけどなぁ。それにみずき可愛いし」

「う……」


 みずきはなぜかお湯の入った風呂桶に顔を突っ込む。


「みずき?」

「あんた、よくそんな恥ずかしいこと面と向かって言えるわね……?」

「え? そうかな? ごめんね、私あんまり嘘つけないからさ」


 私は誤魔化すようにアハハと笑う。すると、しばらくみずきは私をジト目で見つめていたが、次の瞬間には表情を引き締め直し、私にこう尋ねた。


「話変わるけど、あんた、戦うのは怖くないの?」

「怖いけど、みずきがいるから別に大丈夫だよ」

「なんでよ? あたしなんてまだ出会って数日じゃない? あたしなんかと一緒なくらいで安心できないでしょ……?」


 私はみずきには「あたしなんか」とは言って欲しくなかった。彼女のこれまでの人生に何があったかは分からないが、彼女を好きな私の前で、自分のことを否定しないでほしい思った。だから私は、もうぶっちゃけることにした。少しずつ気持ちは伝えていこうと思っていたけど、それでは遅いんだ。それに今なら躊躇いもなく言えるはずだから。私は息を深く吸い込み、彼女に対しこう言った。


「ううん、安心できるよ。だって、私みずきに一目惚れしちゃったんだもん。好きな人と一緒なら、戦うのもそんなに怖くないよ」

「な!?」


 私のいきなりの告白にみずきが動転する。


「きゃっ!?」


 すると、後退りしていたみずきが濡れている床に足を取られ転んでしまったのだ。


「うわっ!」


 それはすなわち、繋がっている私も転ぶということに他ならない。

 そして気がつくと、私はみずきに覆いかぶさっていたのだ。みずきの胸と私の胸の先が擦れ、刺激が襲い来る。


「くっ……」


 こんな時に感じている場合ではないのに、私は本能を抑えきれない。


「あっ……」


 私の胸が大きくなったのが、どうやらみずきにも分かったのだろう。彼女は短くそう漏らした。


「感じてるの?」

「そ、そんなこと、ない……」

「別に、仕方ないわよ。これは事故だから。今のは、忘れてあげるから……」


 そう言うみずきの顔は、私に負けず劣らず赤かったのであった。

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