第10話 第2章③ おしっ娘爆誕
混乱する私たち。しかし、その声の正体はすぐに明らかになった。
「あっ!?」
なんと、霊体となってひまりたちには見えなくなっていたセレナがみずきの声真似をしていたのだ。しかし、それはひまりたちにはわかりようもないことだった。
「ありがとう、じゃあ放課後伺うね。道わからないからみんなで一緒に行こうよ」
「え、ええ……」
笑顔のひまりに今更来るなとも言えないのか、みずきは首肯する。
「うわーい! みずきの家楽しみぃ!」
一方、もう一人の幼馴染、シャロは全身で喜びを爆発させている。シャロは小柄なくせにやたらとデカい胸をこれでもかと揺れさせ、銀色のツインテールを棚引かせながら教室の後ろをグルグルと走り回る。
「シャロうるさい」
「聞こえなーい!」
「聞こえてるやんけ」
シャロとひまりの漫才のような掛け合いを見つめながら、みずきは苦笑いを浮かべるしかなかった。
その日の昼休み、みずきは私とセレナを体育館裏に呼び出していた。そこで彼女はセレナに怒りをぶつけた。
「なんで勝手な真似すんのよ!?」
「聞こえなーい」
「聞こえてるじゃない!? ってかこの距離で聞こえてないなら耳鼻科行け!」
「うるさいなーもー。これも訓練の一環だって」
セレナは耳を小指でほじっている。こんな性格でもセレナは黙っていれば美少女なのに、彼女には残念ながらその意識は全くないらしい。ところで今彼女は訓練と言ったけど、やっぱり手錠とかは外しちゃダメなんだろうか?
「ダメに決まってるじゃない」
「心を読まんといて……」
「N76星系人にできないことはそんなにないからね。ってか人が来るからって手錠外すとか、それじゃ訓練にならんでしょ? あ、でも一応二人の人権に配慮して、手錠も足錠も目には見えないようにしておくから安心して」
そう言って親指を立てるセレナ。正直何も安心できないのが正直なところだったのは言うまでもないだろう。
ひまりたちを連れ、みずきの家に到着する。するとセレナは間髪いれずに私とみずきをつないでしまった。
その後私たちは、明らかに不審な様子でひまりたちをもてなすしかなかったが、それでもしばらくの間はなんとかうまく誤魔化せていた。しかしそれから間もなく、私たちはついにのっぴきならない事態に遭遇することとなったのだ。
「うー……」
隣のみずきの顔色が明らかに悪い。足を小刻みにバタバタさせ、その表情は何かを我慢していることを如実に表していた。
まあ、確実にお手洗いに行きたいのだろうけど……。
『みずき』
『うわっ!? 急に頭の中に話しかけてこないでよ!?』
『トイレ行きたいんでしょ? 我慢してないで早く行こうよ』
『バカ! 武内さんたちが来てるのに二人でトイレに立ったら変だと思われるじゃない!?』
『でも早く行かないと漏れちゃうよ! 意地張ってないで行こうよ!』
『だから絶対無理!』
みずきは抵抗するも明らかに限界がきている様子だ。このままでは大惨事は免れないだろう。そんな時、私はあることを考えついた。そしてみずきを助ける為すぐさまそれを実践したのだ。
「二人ともごめん、ちょっとこれから晩御飯を作ろうと思うんだけど買い忘れちゃったものがあって、悪いんだけど二人で買ってきてもらえないかな?」
私がそう言うと、あまり深いことは考えていないシャロがすぐさま「わかったー」と答えてくれた。
「晩御飯作ってくれるの?」
「う、うん。日頃お世話になってる二人に感謝を込めて。あとようこそみずきの家に! という気持ちを込めて」
「自分ちじゃないのに殊勝なことだね。分かった、そう言ってくれるなら買ってくるよ」
シャロが真っ先に走り出したので、ひまりは彼女の後をついていった。
「ほらっ! 行くよ!」
二人が家を出るや否や、私は急いでみずきをトイレまで連れて行こうとする。みずきも限界に近い膀胱を刺激しないよう慎重に足を前に進めようとする。だが……
「あ、ああ……」
なんと、もう少しでお手洗いという時に、みずきの足を黄色の液体が次々と伝ったのだ。それは、ついにみずきのダムが決壊してしまったことを示していた。
カーペットに大きなシミが描かれていく。みずきは顔面蒼白になり、わなわなと震え始める。そして次の瞬間……
「もう、いやあああああ……」
ついに彼女は泣き出してしまったのだ。子供のように泣き叫ぶみずきを私は必死に慰めようとする。
「みずき、落ち着いて」
しかし、私がいくらなだめても、みずきは全く泣き止む様子がなかった。この歳でクラスメイトに失禁するのを見られたのだから、彼女が心に負った傷の大きさは察してしかるべきだろう。
このままでは彼女があまりに不憫だ。故に私は意を決して、彼女を助けるべく行動に出たのだ。
「セレナ! ここは任せた! あと今は緊急時だからこれ外して!」
『えー? どうしようかなぁ……』
「いいから! じゃないと本気で怒るよ!」
『わ、分かったわよ……』
私の剣幕を見てこれ以上茶化さない方がいいと判断したのか、セレナはあっさり手錠と足錠を外してくれた。私はみずきの手を引き、風呂場まで連れて行く。
「脱がせるよ!」
「え、ちょ……」
私はみずきの返答を聞かずしてスカートとショーツを下ろした。こんなことをしたら、いつもなら彼女に対し不埒な感情を抱くところだが、今に関してはそんなことを考えている余裕もなかった。
「洗うよ。閉じちゃってると洗えないから、悪いけど少し足開いて」
「…………わ、わかった」
みずきは初めこそ大事な部分を他人に洗われることに対し抵抗を示していたが、最終的には観念し、私の手を受け入れてくれた。
みずきは顔を真っ赤にさせ、視線をグルグルと彷徨わせている。私は彼女のアソコを洗い終わると、彼女にこう言った。
「終わったよ。換えの下着とスカート持ってくるからここで待ってて」
「う、うん……」
みずきは私の言葉に素直に従った。
風呂場から外に出ると、セレナが真面目にカーペットについたみずきのおしっこを片付けていた。彼女は私を見るといつも通り親指を立ててみせた。
私がみずきに服を着せると、セレナは再度私たちに手錠と足錠をつけた。この辺りやはり彼女は抜かりない。良い意味でも悪い意味でも。そしてその後、私たちは何事もなかったかのようにキッチンへと向かった。
「料理は私が作るから、みずきは力を抜いてて」
「え、でも……」
「大丈夫。うちってお母さん一人しかいなくて、いつも帰り遅いからご飯は基本私が作ってるんだ。だからこれぐらいなんてことないよ」
そう言って、私はみずきに笑顔を向ける。実際、私は今の自分の境遇を不幸だと思ったことはなかった。中学生の妹に、小学生の妹が二人と姉妹はとにかく多くて世話がやけることも多いけど、その分家は賑やかで、私は寂しいと感じる暇さえなかったのである。それに、お母さんはバリバリのキャリアウーマンで収入もかなり多かったから、正直生活には困ることがなかったのが私にとって非常に救いであったのだ。
「うちは、母親は二人ともいるけど、二人ともいつも家にいないから、ご飯はいつも外食ばかりだった」
「そうなの? 共働きなのも大変なんだね」
「いや、うちの場合は、単に仲が悪いだけだと思うけど……」
みずきはポツリとそう漏らす。その表情は、今までで見た中で一番寂しそうであった。そんな彼女を見て、私は彼女に何か言葉をかけるべきだと思った。何か気の利いたことでも言って、なんとかして元気づけてあげるべきだと思った。しかしちょうどその時、買い物に行ってくれていた幼馴染二人組が戻ってきたのだ。
ピンポンとインターフォンが鳴り、みずきが呼びかけに応じる。インターフォンの画面には、無駄にぴょんぴょん跳ねまわりおっぱいと銀色のツインテールがこれでもかと揺れているシャロの姿と、もはや慣れっこなのか全く動じていないひまりの姿があった。
「今開けるね」
『サンキュー』
短く言葉を交わしオートロックを解除するみずき。さっきまであれだけのダメージを負っていた彼女だが、どうやら二人の前では凹んでいるところを見せないようにしたいらしかった。私はそんな彼女の意を汲み、彼女には普段通りに接することを心に誓った。
「お、早速やってるね」
戻ってきたひまりが開口一番そう言う。スーパーまでの道のりを往復してそれなりに汗もかいたろうに、相変わらず彼女のポニーテールは良い香りを放っている。いったいどんなシャンプーを使っているのだろうか?
「うわーい! 楽しみー!」
一方シャロは、私たちの手元を覗き込みながら喜色満面でそう言った。彼女の場合は、疲れを感じることがあるのかすら疑わしい。
こうして、色々なハプニングは起こったものの、最後は何事もなく私たちは二人をもてなすことができたのであった。
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