第9話 第2章② 突然の共同生活! トイレは二人でするもの?

「二人には息を合わせて貰う為にこれからしばらく共同生活を送ってもらうことにします!」


 敗北を喫したその日、逃げ帰った私たちにセレナはそう宣言した。


 ちなみにここは一人暮らしをしているみずきの自室だ。彼女は都内の一等地にあるマンションの一室で一人暮らしをしている。そんな彼女の城に私もいつかはお邪魔したいと思っていたのだが、まさか図らずともこんなに早くお宅訪問が叶うのはかなり嬉しかったりもした。


 セレナの言葉に対し、当然ながらみずきは綺麗な金髪を振り乱して怒りを露わにする。


「はあ!? 共同生活って、何勝手なこと言ってんのよ!? ってかそもそも、なんであたしたちがまた戦わないといけないわけ?」


 確かに昨日はなし崩し的に二度目の戦いに臨んだが、実際みずきは戦うことには一度も納得していなかったのだ。


「あたしは普通の高校生活を送りたいのよ。昨日あんな目に遭ったのにまた戦うなんて、ホント冗談じゃないわ……」

「でももしまた魔物が出ても、二人が戦わないと誰もやつらとは戦えないわ。警察だって自衛隊だって無理。だってやつらは魔法攻撃しか受け付けないもの。二人は街の人間が殺されたり犯されたりするのを黙って見ているの?」

「そ、そうは言ってないけど、なんであたしたちがそんなことを……」

「だ、大丈夫だよみずき! みずきは一人じゃないよ。私もいるから一緒に頑張ろうよ!」


 そう言って私はみずきに抱きつく。そんな私の顔を思いっきりどかしながらみずきが言う。


「あんたと一緒だから尚更不安なんだっての! ってか、なんで魔法少女があんな卑猥なことさせられないといけないのよ!? 普通魔法少女ってもう少し可愛げがあるものでしょ!?」

「えー、でもみずき可愛かったよ。この前の乱れてるみずきも私的にはベリーグッド!」

「うっさい変態! 痴女! 巨乳! あんたみたいなアホの胸がでかくてあたしのが小さいなんて許せないわ!」

「でもでも、魔力を貯め込めばサイズは大きく出来るんだよ? 実際、みずきの胸、今もDぐらいあるよね? さては一人の時こっそり揉んだんじゃ……」

「それ以上言ったらコロス!」

「すんません……」


 みずきは顔を真っ赤にさせている。恐らく揉んだことは事実なのだろう。できれば私が揉んであげたかったのだけど……ゲフンゲフン。

 と、そんなやり取りをしていた私たちにセレナがこう言う。


「とにかく、いくら嫌がったって今戦えるのはあなたたちしかいないのよ! でも残念ながら、今のままではあなたたちはあの触手には勝てないわ」

「なによ!? こういう時は私たちの機嫌をとるものでしょ!?」

「機嫌を取ったら戦いに勝てるの?」

「そりゃ関係ないけど、別に可能性はゼロじゃないわ……」


 あんな負け方をしたせいか、みずきは自信なさげにそう言う。すると案の定セレナはこう答えた。


「そんな自信なさそうな顔で言われても説得力ゼロよ。一か八かじゃダメなの。勝てる可能性が0じゃなくても、負ける可能性の方が圧倒的に高いのならそれは自殺行為でしかないわ。これは勝てる可能性を高める為の特訓なの。二人の息が合えば勝つ確率は確実に上がるわ。それについて何か反論あるかしら?」


 セレナの言葉に何も返せない私たち。かくして、私はその日から急遽みずきの家に泊まることになった。とは言っても私はまだ高校生だ。外泊するなら親の許可を得なければならない。故に私は早速お母さんに電話することにした。


「お母さんはいいって。家事は中学生の妹がやってくれるみたい」

「そう、なら決まりね。宿泊に必要なものはもう集めてあるから大丈夫よ」

「ええ!? これ私のパジャマに歯ブラシじゃん!? どうやって持って来たの!?」

「N76星系人に不可能はそんなにないのです」


 ニヤリと笑うセレナ。結局どうやって私の家からこれらを持って来たのかは教えてくれなかった。

 正直なことを言ってしまえば、私はこの共同生活というものを比較的好意的に捉えていた。特訓には違いないのだけど、好きな人の家に二人でいられることには違いがないからだ。

 一方、みずきは案の定セレナの提案には否定的なようだった。


「ったくなんで、こんな変態と一緒に暮らさないといけないのよ……しかも部屋とか全然掃除してないし、もう最悪だわ……」


 ブルーなみずき。しかしそんな彼女にトドメを刺すような事実がセレナの方から告げられることとなる。


「あ、共同生活って言っても普通に生活するわけじゃないわよ。二人とも、学校以外ではこれつけて」


 そう言ってセレナが取り出したのは、刑事ドラマでよく見る手錠と、あまり見たことのない足錠という代物であった。なんとセレナは私たちにそれをつけて生活しろと言うのだ。


「はあ!? なに馬鹿なこと言ってんのよ!? こんなのつけて生活なんてできるわけないでしょ!?」

「なんで? 生活はできるでしょ? 動けないわけじゃないんだし」

「こんなので繋がれてたら動きづらいじゃないの!? それに、お風呂とか、と、トイレにだって行けないじゃないの……」

「お風呂もトイレも二人ですればいいんじゃない?」

「あんたねえ!?」

「みずき抑えて!?」


 セレナに殴りかからんばかりの様子のみずきを必死になだめる。しかしどうやら、セレナが言っていることは冗談でもなんでもないようだったのだ。


「だから、これが訓練なのよ。二人が揃って初めて『ツイン・アプロディーテ』なの。その為には二人の息を合わせるより他にない。お互いがどんな歩幅で歩くのかとか、どんなことを考えて生きているのかとか、どこを触れば気持ちいいのかとか……そういうことを知っていかないと、息を合わせることなど不可能だわ」

「最後のいらなくない……?」

「無論いるわ。可能であればエッチまでしてほしいくらいよ」

「アホ言うのも大概にしなさいよ!!」


 と、その後も永遠にみずきとセレナのやり取りが続いたわけだけど、結局セレナの決定が覆ることはなかったのだ。私たちは学校以外の共同生活中は常に手錠+足錠で繋がれ、どこに行くにも離れることができなくなった。もちろんトイレも二人で行くしか他に方法はなかったのだ。


「これ、どうやっておしっこするのよ……?」

「こうなったら一緒にする?」

「…………」


 お互いが目を固くつぶり、同時にショーツを下ろす。隣にショーツを脱いだみずきがいると想像するだけで興奮してしまうが、そんな態度を見せたらそれこそ彼女に嫌われてしまうので必死に我慢する。


「せーの」


 みずきの掛け声に合わせ便座に腰を下ろす。自分のお尻にみずきのお尻の温かさが感じられ尚更動悸を抑えられなくなるが、私の人としての意地で最後の一線は超えないで済んだ。

 結局、私たちは二人同時に用を足した。その後なんだかんだ恥ずかしさのあまりしばらく私たちは一切言葉を交わさなかったのも致し方ないことなのだと思う。


「みずき、お風呂はどうする?」

「お風呂……も、もうこれ以上恥ずかしい目に遭いたくなんてないわよ!」


 みずきはそう言って聞かなかったので、やむなくお風呂は明日以降に持ち越しとなった。

 その夜、私たちは一人用のベッドに二人並んで寝た。まさか好きな子と同じベッドで寝られるなんて夢にも思っていなかったが、やっぱりこれはあくまで訓練だ。変な気を起こしてみずきを襲いでもしたらそれこそ取り返しのつかないことになる。大好きなみずきに嫌われるのだけは私は絶対に嫌だったのだ。


 ところで、興奮している私はもちろんのことだが、みずきに関しても私の存在が気になるのか、あまりしっかり寝付けてはいないようだった。

 彼女は寝返りを打ちたいのだろうが、それをするには私も動かなければならないことを思い出すと、なくなくそれを断念した。そしてそうこうしている内に、いつしかすっかり夜は更けていってしまったのだった。


 翌朝、私たちは重い身体を引きづりなんとかベッドから這い出る。そしてそそくさと高校の制服に着替え(ちなみに手錠をつけたままだと着替えられないから、例外的に服を着替える瞬間だけは手錠を外してもらえる)、悪戦苦闘しながら朝食を用意し、やっとのことでみずきのマンションを出た。

 

 学校に着くと、昨日一日の疲れからか、みずきは机に突っ伏し放心状態となっていた。すると、そんなみずきが心配になったのか、私の幼馴染である武内ひまりがみずきに声をかけたのだ。


高坂こうさかさんどうしたの? 寝不足?」

「武内さん、だったっけ? うん、ちょっと寝付けなくてね……」

「そうなんだ。普段からそうなの? 私も結構眠れないこと多いから気持ちわかるよ。それで、原因はなんだか心当たりある?」

「ええと……」


 みずきは言いづらそうに視線を彷徨わせている。こういう時は助け舟を出してあげた方がいいだろう。私はそう思い、二人の会話に入っていく。


「ひまり、実は私昨日みずきの家に泊まらせてもらってね。私が布団を占拠しちゃったから眠れなかったんだと思うよ」

「な!? あんたなに勝手に……」

「そうなの? そりゃ明らかにかすみが悪いじゃん。ってか、二人ってそんなに仲良かったんだね」

「え、ええと……」


 ひまりの言葉に露骨に動揺するみずき。するとひまりは今度はこんなことを言った。


「それじゃあ、もし良かったらあたしたちも一度お邪魔させてもらってもいい?」

「え? そ、それは、ちょっと……」


 多分、みずきは断ろうとしたのだと思う。なぜなら、今私たちは特訓の最中だからだ。あのセレナのことだ、きっと来客が有ろうと無かろうと特訓を中断させることはないだろう。しかし、私の耳に聞こえてきたのは予想外の言葉だったのだ。


「いいよ。それじゃ今日の放課後ね」

「は?」「え?」


 私たちは何が起こったか分からず、同時に顔を見合わせたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る