第4話 第1章① おっぱい魔法少女の目覚め!

「かすみ! みずき! もしあの魔物たちが街で人を襲ったら大変なことになるわ! そうなる前に、ここで私たちが食い止めるのよ!」


 赤くて長い艶やかな髪を振り乱し、セレナがそう声を荒げる。それに対し、みずきは動揺した様子でこう言う。


「食い止めるったって、あたしたちは戦ったことなんてないのよ!?」


 金色のツーサイドアップが特徴的な美少女であるみずきは、普段では決して見せないような鬼気迫る表情でセレナに訴えかける。実際、一度死んだとはいっても、やっぱりあたしたちは普通の高校生でしかない。セレナのように日常的に魔物と戦ってきた人間とはわけが違うのだ。もし今の私たちにやつらと戦う力があるのだとしても、それを何の練習もなしに披露しろと言うのはあまりにも無茶な話だ。

 でもそんな慌てる私たちを尻目に、セレナは自信有り気な雰囲気でこんなことを言った。


「問題ないわ。戦い方は実戦の中で覚えればいい」

「はあ!? なに無茶なこと言ってんのよ!? ほら! あんたもボッとしてないでこの子のこと説得しなさいよ!」


 あまりに無茶なセレナの言葉にみずきは動揺を隠しきれない。私だって、考えていることはみずきと一緒だ。でも、誰かが目の前の十数体の化け物と戦わなければいけないこともまた分かる。


「……セレナ、もし私たちが戦わないって言ったら、どうなるの?」

「街の人間が魔物に襲われるわね」

「襲われたら、人々はどうなっちゃうの……?」

「今目の前にいる魔物、エーテルは繁殖をする為に他の種の母胎を借りる必要がある。人間は格好の苗床になるでしょうね……」

「そ、そんな……」


 セレナの言葉に絶句するみずき。私自身も相当な衝撃に襲われていた。

 戦うのは怖い。あまりにも怖すぎる。でも、戦わなければ人々が襲われてしまう。それを黙って見ていることなんてできない。もし、私たちに戦う力があるのならば、戦って人々を守らなければ……。私はもう居ても立っても居られず、思わず声を上げていた。


「セレナ、私、戦うよ!」

「はあ!? あんた正気なの!?」

「正気だよ! みずきは黙って見ていられるの!? 人々があんなスライムみたいな化け物の苗床にされちゃってもいいの!?」

「そ、それは、いいわけないけど、でも、だからってあたしたちが戦うなんて……」


 みずきはギュッと目を瞑っている。そりゃ、いくら戦う力があると言われたって、いきなりあんな大量の化け物と戦うなんて怖いに決まってる。でも、今の私は不思議と不安が薄らいでいっていたのだ。

 戦うと覚悟すればするほど、心の奥底からパワーが湧いてくる気がする。もしかしたら、これが私たちに与えられた戦う為の力なのではないだろうか?


「大丈夫だよ! 私がついてる! 二人なら、絶対怖くなんてないよ!」

「あ、あんたと二人なんて余計に不安でしかないわよ! あたしのパンツを脱がした恨み、まだ忘れてないからね!」

「あ、うう、それを言われると辛い……」


 みずきはプイっとをソッポを向いてしまう。でもそれも仕方がないのかもしれない。私ばかりが盛り上がってしまったけど、実際私とみずきは出会ってまだ三日も経っていないのだ。しかも私は出会った初日にあんな大失態を演じてしまっている。そんな人間と一緒なんて、余計に不安になるのも仕方ないよね……。


「ごめん……」

「な、なんでいきなり謝るのよ……?」

「いやだって、私、みずきの気持ちを全然考えられていなかったから……。私と一緒に戦うなんて嫌だよね。分かった、ここは私一人でやるから、みずきは隠れてて」

「え、ちょ……」

「セレナ、私が戦うよ! だから戦い方を教えて!」


 私がそう言うと、セレナは「決心してくれてありがとう」と言う。だが彼女はすぐに肩をすくめ、今度はこんなことを言ったのだ。


「でもね、戦うには二人が力を合わせないといけないのよね」

「え、そ、そうなの?」

「だって、二人は今一心同体になっているし、片方だけでは力を解放することは不可能なんだと思わない?」

「そ、それは……」


 私一人では何もできないなんてあまりにももどかしい。でもだからと言ってみずきに強要はできない……。もうこうなったら、力を発揮できなくても、このまま黙って見ているくらいなら特攻して一人でも多くの人を守らないと……


「……やるわよ」


 私の思考を遮ったのは、他でもないみずきの言葉であった。


「へ? みずき、今なんて……?」

「だから! しょうがないから、このあたしもやってやるって言ってんのよ!」


 なぜか半ギレでそう言うみずき。そんな彼女にニヤリと笑ってセレナはこう問いかける。


「でも本当にいいのかしら? 別にここで逃げても誰もあなたのことを責めたりなんてしないわよ。もちろん、『胸もなければ意気地もない』なんて誰も言ったりなんてしないわ」

「あんた今なんつった!?」


 あからさまな挑発をするセレナに殴り掛かろうとするみずきを私は必死に止める。


「落ち着いてよ! 今は胸なんてどうでもいいじゃない!? 胸なんてなくたってみずきは十分可愛いよ! だから、みずきは胸がないことを気にする必要なんて……」

「何回も何回も胸がないって言うな!? デカ乳女にはあたしの悩みなんて分かるわけないわよ! ムキー!」


 そう言いながら私の胸をポカポカ殴るみずき。


「いた!? いた!? ちょっとみずき、痛いって……あれ? でも時々なんか気持ちが良くなって……」

「こ、こんな時に感じてんじゃないわよ!? この変態巨乳!」

「そ、そんなこと言われても、みずきに胸の先を触られるたびになんかこそばゆい感じがして、ちょっと気持ちいいような気がしちゃったんだもん……」


 そんな私たちの会話にセレナは遠慮がちに口を挟む。


「あのー、夫婦漫才もそれぐらいにしてもらわないと本当に街が襲われちゃうんだけど……」

「誰が夫婦漫才か!? あーもー! 分かったわよ! あたしも戦うからさっさと戦い方を教えなさいよ!」

「だからさっきも言ったでしょ? 戦い方は実戦で覚えて。私ができるのは、これだけよ!」


 そう言って、なんとセレナは私とみずきの胸を同時に掴んだのだ。その途端、思わず私たちの口から変な声が漏れてしまった。


「ひゃう!?」

「ひ!? って、あんた何やってんの!?」

「何って、こうしてあなたたちの力を呼び起こしているのよ。ほら、今ので胸の先端に何か力を感じるようになったでしょう?」

「何を馬鹿なことを……」


 そう言いつつ、みずきは自身の胸に手を伸ばす。すると彼女は一転して驚愕した表情になってこう言ったのだ。


「……ホントだ。なんだか分からないけど、胸が熱くて、なんか力が湧いてくるような、こないような……」

「いや、間違いないよ! 間違いなく力を感じるよ! ちょっと変な気分だけど、これならきっと戦えるよ!」


 両胸の先端から何やら感じたこともない力が沸き上がって来る。こんなことは、当然ながら生まれて初めてのことだった。そしてそれこそが合図だった。私たちは、誰に命令されたわけでもなく、セレナから指示を受けたわけでもないのに、二人同時に空に向かって手を挙げていた。そして各々の左手の薬指の指輪が光り輝いた瞬間、私は意識を失ったのだ。

 次に目を覚ました時、私とみずきは何もない空間を彷徨っていた。そこは上下も左右もなく、地面も空もない真っ白な空間だった。そこで私たちは、向かい合って宙を漂っていたのである。

 すると今度は、なんと何の前触れもなく私たちが着ていた制服のブレザーが弾けてなくなる。だが、それでも私たちは慌てることもなく、すんなりとこの状況を受け入れていたのだ。

 ブレザーの次はブラウスが消える。そして今度はスカートが霧散し、私たちは下着姿となる。みずきは髪の色に近い黄色の下着に身を包み、一方私は何の特徴もない白い下着を身につけていた。相変わらず可愛げがないなと思っていると、また次の瞬間にはそれらも溶けてなくなってしまった。そしてついに、私たちは生まれたままの姿になったのだ。


「みずき」

「かすみ」


 裸の私たちは互いに手を伸ばす。手が触れ合うと、私たちはひかれ合うように接近し抱き合う格好となる。みずきの身体はとても温かい。胸同士が重なり合い、互いの身体に吸い付いていく。

 とても恥ずかしいことをしているはずなのに、私は今恥ずかしさを感じてはいなかった。そしてそれは、みずきも同じであるようだった。

 私たちは互いをきつく抱きしめ合う。バラバラだった鼓動が次第にユニゾンし、ついには完全なるシンクロを果たす。その瞬間、互いの胸に更なるエネルギーが灯ったのだ。

 生み出された力が瞬時に身体中を駆け巡る。まるで私達が別の生き物に書き換えられていっているようにすら私には感じられる。

 すると、今度はそんな私たちを突然何やら膜の様なものが包み込み始めた。それは一気に私たちの身体を覆いつくし、ついには完全に私たちを閉じ込めてしまったのだ。私たちは完全に密着し、身動きがとれなくなる。


『さあ、二人とも目覚めの瞬間です』


 そんな私たちの脳内に直接セレナの声が鳴り響く。彼女は更にこう続ける。


『麗しき二人の天使よ、これより汝らは、我がN76星系の力を継ぎ、魔法少女として覚醒するのです』


 先ほどまでの軽めのトーンは鳴りを潜め、荘厳な雰囲気で言霊を詠唱するセレナ。「魔法少女」、それは少女たちの永遠の夢にして、悪を挫き弱きを守る絶対的な正義。幼い頃、私はそんな正義の使者に憧れた。今でこそ、大手を振って魔法少女になりたいなどと言うことはできない年齢にはなってしまったけど、私の中で彼女らへの憧れが消え去ることはついぞなかったと言っていい。そんな存在に、よもや私がなるとでも言うのだろうか?


 そして、混乱する私たちを余所に、ついに彼女は高らかにこう宣言したのだった。


『目覚めよ! 聖なる魔法少女「ツイン・アプロディーテ」よ!』

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