第2話 プロローグ② 突然の死!?

 駅への道なり、私はみずきちゃんの背中をロックオンする。


「みずきちゃあああん!」

「ぐえっ!?」


 私は後ろからみずきちゃんに思い切り抱きつく。すると彼女は短く悲鳴を上げ、すぐに私を振り払った。


「あ、あんたは結崎かすみ!? いきなりそんなデカい乳ぶつけてくんな! 嫌味のつもり!?」


 烈火のごとく怒るみずきちゃん。嫌味のつもりは全くなかったのだが、今朝私のしでかしたことの大きさを考えれば、彼女が怒るのもわかる気はする……。


「そ、そんなつもりはないよ! それよりも、今朝のことで話が……」

「な、何よ!? あんた、あたしに恥かかせておいて、まだ何か言うつもりなの!?」

「いや、何か言うというか、その件について謝りたくて……」

「い、いらないわよそんなの! 恥ずかしいところを見られただけじゃなく、あんたの意識が飛ぶぐらいの暴力を振るってしまった以上、もうあたしの学園生活は終わりよ……。残りの二年弱、あたしは影に隠れて生きていくから、金輪際話しかけないで」


 そう言って再びトボトボと歩き出すみずきちゃん。どうやらさっきのダメージは相当なようだ。

 自分だけが酷い目に遭うならそれでいい。でも、よりにもよって私のせいで他人の心を傷つけるなんて断じて許されることではない。しかもこの子は私が一目ぼれした相手だ。他の人と差別するわけではないが、私がそんな子を辛い目に遭わせるなど絶対にあってはならないことなんだ。故に、私はなんとかみずきちゃんの前に回り込み、頭を下げてこう言った。


「ごめん! どんなことでもするから、だからそんなこと言わないで! 大丈夫だよ! あのクラスの子たちはみんな優しいから、誰もあなたに酷いことなんて言わないよ!」


 私は必死だった。出来ることは謝ることぐらいだったので、私はがむしゃらに頭を下げた。他人に対してここまで必死になったのは恐らく初めてというくらい、私は全力で彼女に謝罪していた。すると彼女は、困惑した様子でこう言った。


「べ、別に謝られたって迷惑なだけよ……。私は元々いつも一人だったの。だから、この学校でもそうだったとしても何も困らない。だから、もうあんたは帰りなさい」

「嫌だ! あなたがそんなこと言うなら帰らない!」

「し、しつこいわよ! あたしがどう過ごそうと勝手でしょ!? ってかなんでそこまであたしに突っかかるわけ?」

「だって私のせいでみずきちゃんが傷ついたんだよ!? 私のせいであなたがこれからのことを全部諦めるなんて言われたらほっとけないに決まってるよ!」


 私は彼女の手をとる。彼女は驚いた表情を浮かべたが、幸いにも手を振り払うようなことはしなかった。私は彼女の手を握ると、途端に涙が堪え切れなくなってしまう。私は震える声で言った。


「明日、私がクラスの一人ひとりに話すから。全部私が悪いって説明するから、だから、お願いだからそんな寂しいこと言わないで……」

「な、なにもそこまでやってくれなくたって……って、なんであんたが泣いてんのよぉ? 泣きたいのはこっちだってのに……」


 みずきちゃんは顔を真っ赤にさせ、その綺麗な髪の毛をぐちゃぐちゃにさせている。今私は確実に彼女を困らせているわけだが、こんな感情を抑えておくのは無理というものだ。そしてしばらくして、私が諦める気がないことが分かったのか、みずきちゃんは大きくため息をついてこう言ってくれたのだ。


「……はあ、もう分かったわよ。もう一人でいるなんて言わないから、あんたもいい加減に泣き止みなさいよ」

「ホント……?」

「しつこいわねもう……子供かあんたは。胸だけ一丁前にデカいくせに。……私は嘘なんてつかないわよ。だから安心して、あんたはもう家に帰って……」


 それは不意に起こった。みずきちゃんの言葉を遮るように、突然路地裏のほうで大きな物音がしたのだ。私とみずきちゃんは同時に顔を見合わせる。


「今の何……?」

「な、なんだろう……」


 それから私たちは顔を見合わせたままだったが、しばらくしてどちらからともなく、音がしたと思われる路地裏に向かって走り出していたのだ。

 すると、路地裏に辿り着いた私たちは信じられない光景を目の当たりにした。


「何よあれ……?」


 私たちの視線の先には、体長が一メートルはある見たこともない銀色のスライム状の生物の姿があった。私は初め、それはおもちゃなのかとも思ったが、それがゆっくり前進していっているのが分かった瞬間、私はそれが生物であることを確信したのだ。


「あんなのゲームの世界でしか見たことないわ。ゲームだとスライムは雑魚敵だけど、銀色のやつはなんとなく強いイメージよね」

「う、うん……。とにかく何かやばそうだよ。ここは警察に連絡して……」

「待って。あそこに人がいるわ」


 みずきちゃんが指し示す先には、なんと鮮やかな赤いロングヘアーの人が立っていたのだ。彼女はどうやらスライムの存在には気づいていないようだ。

 化け物は音もなくまっすぐ彼女の方へと向かう。私は直感的に、このままでは彼女が危険だと思った。そして次の瞬間には私はその場から走り出していた。


「あんた何勝手に!?」


 みずきちゃんは突然走り出した私に驚きながらも、どうやら同じくその場から走り出したようだった。私はその人に向かって叫ぶ。


「あの! スライムがそっちに……」


 だが、そう叫びだした瞬間、それは突然方向を変えこちらの方に向かってきたのだ。それと同時に、騒ぎに気づいた女性がこちらに振り向く。混乱の最中だったせいで見間違えたのかもしれないが、私にはその女性がなぜかビキニのようなものをつけているように見えていた。

 こちらに向かってくるスライム状の化け物。なんとそれは、雑魚敵のような大きさから突如巨大化し、私の視界いっぱいに広がった。そして最後にそれは、その姿を獣型に変形させたのだ。


「ひっ!?」

「かすみ!」


 みずきちゃんが初めて私の名前を呼ぶ。そしてそれが、私がこの人生・・・・で聞く、最期の彼女からの言葉となってしまったのだ。

 獣型に変形したスライムから太い腕のようなものが現れる。そしてそれは、その太い腕を何の躊躇いもなくこちらに叩き付けてきたのだ。


「危ない!」


 少女の叫びが木霊する。だが私たちは、少女の叫びも虚しく実にあっさりそのスライムの手にかかってしまったのだ。

 あまりの衝撃に一瞬にして意識が飛ぶ。そして次の瞬間には、全てが闇の彼方に消えていってしまったのだった……。

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